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君が為に嗚呼眠る 09

満足したといいつつ、他にネタもなかったので続けてみた。

ボアの襲撃から一週間が経った。
町では建物に随分被害が出て死者も出たが、この世界の人々は逞しいもので、もう元のような賑わいを見せている。
結局、ボア暴走の原因は不明。
おそらく誰かがいったように、力の無い冒険者がボアの群れに手を出し怒らせたのだというところで決着した。
街に入り込んだボアたちの半数は町に滞在していた冒険者たちに殺され、残りの半数はまっすぐに反対側の門から出ていったらしい。
そもそもボアはさほど狂暴な魔物ではなく、頭が冷えた後は大人しく街を迂回して森に帰ったようだった。
そうやって街が平穏になった今、街ではグレート=ボアを一撃で伸したという人物があちこちで人々の噂になっていた。
何しろあの巨大なグレートボアを一撃で真っ二つに引き裂いたのだ。噂にならぬほうがおかしい…とはいえ、その噂はあまり信用ならないもので…曰く、3メートル近くある巨人だった とか 弁天様も裸足で逃げ出すような美女だった とか いや、ホビットの子どもだった。背は1メートルもなかった。 とか いやいや、あれは龍族だ。体中に青いうろこがあった。…とか。
中には割りと正確なものもあったのだが、噂は大げさなものの方が人々には好まれるらしく噂は背びれ尾びれがついて、ついでに胸びれも揃い、やがて足が生えたかとおもうと両生類に進化していった。
まぁそれはともかくとして…その噂の張本人であるルートヴィヒは、ボア襲撃後絶不調のまっただ中にいた。
といっても、ボア退治の時に実は怪我をしたとか、力を使いすぎた…とかそういうわけではない。
彼を苦しめているのは、外部への接触がいくら試しても梨の礫であるという事に起因する。
ボア襲撃後3日ほどは、一人であちこちに出かけて何か調べていたようだが、ここのところは宿にこもりっぱなしで一人で頭を抱えている。

「なるようにしかならないっていうのにねぇ」

そんなルートヴィヒとは正反対にどこまでも脳天気なのはフランシスで、優雅に紅茶をすすりながら宿の店主が差し入れてくれた菓子を摘んでいる。
「せっかくなんだし、楽しんじゃえばいいと思わない?」
フランシスが意見を求めると、正面に座ったロヴィーノはぶすっとした顔で「しょうがねぇ」と言った。
「あいつは体だけじゃなくて、頭の中もガッチガチなんだよ」
「あははは、それは言えてるね~。ま…今は体はガチガチでもないけど…。でも、いい加減そろそろ前をむいてもバチはあたんないとおもうけどねぇ」
ルートヴィヒは諦めていないようだが…今のこの世界は完全にゲームの域を越えて現実としか思えない。
お腹は空くし、眠くもなるし、眠れば夢も見るし、風を感じることもできるし、タンスに小指をぶつければ痛いし…。
「ロヴィーノはどう?やっぱ向こうに戻りたい?」
「俺は…どっちでもいい」
「投げやりだねぇ」
「投げやりっていうか…」
あまり向こうに未練がないのだ。
フランシスはそんなロヴィーノの感情を読み取って少し複雑な顔をした。
「でも、どうせならギルベルトも来ればよかったのに」
そして続けられた言葉に少しだけ表情を柔らかくする。
複雑な過去を持つロヴィーノは人との繋がりを持つことに大きな苦手意識を持っている。いつ一人にされても傷つかないように、常に守りに入っているロヴィーノ。
そんな彼をフランシスはいつも悲しいと感じていた。
そこに例外(ルートヴィヒ)があるのは知っていたが、まさかギルベルトもそこに入っているとは…。
フランシスは自分がその例外に入っていないのは少し残念に思ったが、大切なつながりとしてロヴィーノがギルベルトを認識していることは嬉しかった。
「大丈夫だよ。ギルちゃんなら絶対こっちの世界にきてるね。賭けてもいい」
「え?」
「愛しのルートヴィヒにロヴィーノがいなくなって、あいつが向こうでのほほんと生きているわけがない。きっとお前がこっちに飛び込んできたみたいに、あいつも飛び込んできてるに違いないさ」
そうだろ?っと片目をパチンと閉じてみせるフランシスに、ロヴィーノは「そうだな…」と答えて鼻の頭を掻いた。
「といっても、こんだけ待っててこないんだから、あいつもアルフレッドと一緒で勝手に一人でどっかにいっちまったのかもしれないなぁ」
「…ありうるな…」
ルッツーー!ロヴィィ~!どこだー!! なんて叫びながらドドドドドッと走っていく姿が目に浮かんで二人は笑った、
ちなみにこの予測、かなりの部分で正しかった。
ただ転送地点が彼らのいる町から離れていたことと、ギルベルトと一緒にアーサーとアントーニョがいた事を別にすれば。
ちなみに彼らは早速町を出て目的の人物を探しにむかい、魔物たちの洗礼を受けているところだったりする。
「とにかく、ルートヴィヒをそろそろ外に連れ出そうぜ。お前だってこの世界でいろいろ遊びたいだろ?」
フランシスが聞くと、ロヴイーノは「あんまりよくわからないけど」といいつつ頷いた。



「ルーイ!ルートヴィヒ!そろそろ出てこない?」
そうしてルートヴィヒのこもる部屋に一人顔を出したフランシスは、その淀んだ空気に顔をひきつらせた。
カーテンを閉められた暗い室内、散乱する紙、本。
そしてベッドで頭を抱えている子供。
「ルートヴィヒ?起きてるか?」
声をかけるとゆらりと顔をあげるルートヴィヒ。その顔色は最悪で、青く澄んでいるはずの目は真っ赤に燃え、また目の下には深いくもがある。
「あーらら…」
ルートヴィヒの体は見た目上は人間の子供となんら変わりはないが、実は種族は魔族である。
魔族は高い知性と魔力が特徴であり、感情が高ぶったりひどく疲れたりすると縦に長い瞳孔を持つ目が赤く染まるという厨二病的な特徴がある。
そしてまた厨二病な特性として、そのまま放っておくと力の暴走を起こすという設定つきだったりする。
フランシスはやばいなぁと思いつつ、ルートヴィヒの隣に腰かけると「目が真っ赤だよ」と指摘した。
「目?」
「覚えてない?魔族の特徴」
「…あぁ、あれか」
言いつつ彼は目を両手で隠すように、顔に手を当て、パタンと後に転がった。
休んではいられない…という台詞が出てこなかったのは、力の暴走を危惧したせいか、それともそれほどに疲れていたせいか。
フランシスは身をよじって小さなルートヴィヒの頭を優しく撫でた。
子供扱いをされることをひどく嫌う彼だが、この時はそれを嫌がらなかった。
「少し休まないとね、そんな顔をロヴイーノが見たら怯えてしまう」
「ロヴイーノ…、ロヴイーノは?」
このところ、自身の事でいっぱいいっぱいになっていてロヴイーノをほったらかしにしていたルートヴィヒはハッとしてフランシスを見たが、
「大丈夫、落ち着いたもんだよ」
とフランシスにキラキラのエフェクトつきで微笑まれてホッと息をついた。
「すまない、フランシス」
「なんのなんの。さて、疲労回復の魔法でも唱えようか?」
「そうだな…、いや、その前に」
「ん?」
「多分、お前は覚悟済みかもしれないが、一応言っておく」
「うん」
「やはり、俺達は帰れないようだ…」
泣きそうな顔をするルートヴィヒにフランシスはフッと息をつくように微笑み、「大丈夫だよ」と言ってルートヴィヒの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。

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