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始まりの終わり

王道学園、王道展開(?)
よみかえさない

黒須は書類の最後に神経質な文字で、自分の名前を書き万年筆を置いた。

― これで、終わった…。

黒須は大きくため息をつき両手で顔を覆った。
先ほど書き終えた書類を持って、彼は生徒会長を降り、そして一般生徒になった。
リコール成立の前日。ギリギリのタイミング。
ここまで引っ張ったの意地だった。
奇想天外…宇宙人としかいいようのない転入生の登場によって崩れた平和。
そして瓦解した生徒会。個性的なメンバーはまとまりこそなかったものの、それなりに上手く機能していたはずだったのに…彼の登場によって、誰もが仕事を放棄し生徒会室にすら近寄らなくなった。
誰もが転入生に夢中、そして親衛隊といわれる生徒会役員や学園の人気者たちの過激なファンクラブの会員のような連中の暴走、巻き込まれた人間への八つ当たり、風紀の圧力…。
上げればきりのないような問題が持ち上がり、しかもそれを誰も解決しようとはしない。
それを黒須はなんとか一人でこれまで支えてきた。
だが、限界だった。
一人で踏ん張り、頑張っていたはずの黒須がなぜか悪役に仕立てられ、リコールの声がだんだん大きくなり…それでも耐えていたが、とうとう最後の時が来てしまった。
「情けねぇな…」
大企業の一人息子。
行末はその代表として帝王学を学んできた黒須の初めての完全なる敗北だった。
明日、全校生徒の前で黒須が生徒会長を降りれば、あの転入生が新生徒会長として立つ…。
そして…。
「まぁいいさ」
その後に起こることはなんとなく想像はついている。
だが、もうそれは知ったことではなかった。
「いくか」
彼は疲れた顔でつぶやくと、椅子から立ち上がり荷物をまとめた。
もう此処に来ることはないと思うと少し寂しくもあるが仕方がない。
敗者は去るのみ…。
彼は扉口でもう一度生徒会室を見渡すと、ゆっくりとそこを後にした。

 *

黒須が生徒会室を出て彼が向かったのは、寮にある彼の自室…ではなく、彼を追い落とした例の転入生の部屋だった。…といっても、転入生に会いに向かったわけではない。
彼が会いに言ったのは、その転入生と同じ部屋に入っている新倉という男だ。
彼は所謂不良というやつで、長身で赤く染めた髪を持つずば抜けた男前。だが、誰ともつるむこと無くこれまでたった一人で行動してきた一匹狼的な男だった。
凶暴な性格で無口で粗野。誰からも遠巻きにされ、しかし抜群の人気を誇っていた。誰もが彼に近づきたいと願いながら果たされなかった男。
それが転入生がきてからはがらっと変わった。
転入生が来てからは、その転入生にべったり。笑顔を見せ親しく会話する姿は生徒たちを驚かせたものだった。

黒須が部屋の扉をノックすると、待っていましたとばかりにそれが開かれた。
中に立っていたのはその新倉だ。
彼はにんまりと微笑むと疲れた顔を隠さない黒須の手を引き、中に引き入れる。
彼が転入生以外に笑顔を見せるなど前代未聞。この光景を見たものは目を見開いて驚いただろう。
だが黒須はその新倉の笑顔にも全く心を動かされた様子はなく、むしろ嫌そうに眉を潜めた。
「あの転入生は?」
「さぁ、優希とかいうやつの部屋に行くとか騒いでたぜ」
「優希…会計か」
もう関係ない人物とはいえ、元は同じ生徒会として一緒に頑張ってきた仲だ。自然険しい顔になる黒須を新倉は笑った。
「今頃はアホどもに囲まれて、ハーレム状態を楽しんでるだろうぜ」
「……」
「で、生徒会長は降りたか?」
「あぁ…だから此処に居るんだ」
「そうだったな」
掴んだままだった黒須の手をひく新倉。
黒須は自然新倉の体にぶつかり、そして抱きしめられる。
「やぁっとおちてきたな」
腰の砕けるような甘ったるい声で囁く新倉。
黒須は体をこわばらせたが、新倉が離れないと知るとやがてゆっくりと力を抜いた。
新倉はそんな黒須に気づき、笑みを深くすると自分よりも少しだけ背の低い黒須の髪に鼻を埋めた。
「それで…どうする気なんだ?」
「どうするって?」
「あの転入生だ」
「あぁ…あれな。もういらねぇし…適当に処分する」
「処分って…明日になればあいつは生徒会長になるんだぜ?」
黒須の言葉を新倉はハッと鼻で笑った。
「それがなんだよ」
具体的な方法は口にしなかったが、彼の口調は自信たっぷりだ。
黒須は新倉の肩に額をついて小さく息をついた。
「そう…か」
「まぁ、任せておけよ、お前を苦しめたバカどもには死ぬほど後悔させてやるからよ」
黒須の髪に愛おしげに指を絡める新倉。
黒須はその言葉に小さく笑った。
「お前が、そう仕向けておいてか?」
「あぁ」
「俺を苦しめた罰…というなら、お前が一番にその報いを受けるべきだと思うけどな」
「違いない」
くつくつと笑う新倉。
黒須はそんな新倉に眉を潜めたが、結局腕の中で諦めたように小さく首を横に振った。
「まぁ…仕方がない。俺はもうお前のものだからな…好きにすればいいさ」
「言われるまでもない」
新倉は少しだけ体を離し、すぐ傍にある黒須の顔を愛おしげに見つめると、その細い顎を指で持ち上げゆっくりと顔を近づけた。

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