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君が為に嗚呼眠る 06

続かないと言いつつ、ちょっと書きたくなったので続けてみた。
読み返してないです

フランシスがとった角部屋は、宿で一番の部屋であるらしく3つも部屋があった。
一つはゆったりとくつろげるリビング兼応接室といった感じの部屋。そして奥に寝室で2つのベッドのある部屋。最後に使用人室とでもいおうか、少し狭いベッドルームがひとつついていた。
フランシスの説明によると、宿屋の店主がフランシスを貴族の婦人でルートヴィヒをその息子、そしてロヴィーノをその従者だと思ったらしく、それらしい部屋を勧められたとの事。
ロヴィーノはそれを聞いた時憤然としたが、彼がゲーム内の最初期装備でしかないことを考えればそれもしかたのないことではある。
だがそれでも納得のいかない彼は、夜になったら絶対にフランシスを使用人用のベッドに放り込んでやろう心に決めた。
そんなロヴィーノに睨まれながら、フランシスはお茶の用意をする。
宿屋の店主に「奥様」と呼ばれて浮かれていた彼(?)ではあるが、雑用はすすんでやるようだ。
ちなみにルートヴィヒは難しい顔で、あれが変だ、これはおかしい、何が問題だと先ほどまでブツブツ言っていたのだが、そのうち頭が痛くなったらしく今は寝室で休んでいる。
フランシス曰く、“ちっちゃいくせに難しい事をごちゃごちゃ考えるからだよ”だそうだ。
それには確かにそうだとロヴィーノは賛成だった。なにしろルートヴィヒが先ほど書いていたメモときたら…。数式やプログラムのようなものはもちろん、分子構造、はてはセフィロトのようなもの、ラテン語に簡単な街と世界の地図、疑問点や確認すべき事項などが十枚以上に渡ってびっしりと細かな字で書きなぐられていたのだから。
「うーん、いい香り」
備え付けのポットから紅茶を煎れたフランシスはうっとりして言う。
「何のお茶かはよくわかんないけど、香りが高くて優しい味わいだ。デザインしたやつは天才だな」
ロヴィーノにもどうぞ、と差し出す“美女のフランシス”に気楽なもんだとロヴィーノは呆れた。
そしてその事を口にすると、フランシスは「まぁねぇ」と気楽に答えた。
「俺が焦ったところでどうしようもないってのもあるけどさ、まぁこの世界は俺の理想郷というかね」
「理想郷?」
「あぁ、俺がこのゲームのデザイナーやってたのは知ってるだろ?ルートヴィヒの会社はさ、っていうか主任の本田がさ、もう本当に自由にやらせてくれてさ、このゲームにはさ俺の夢がそりゃもうたっぷり詰め込まれてるんだよね」
そういって楽しそうに笑うフランシスはどこぞの妖艶な貴婦人…といった風ではなく、夢見る少女のように無邪気に見えた。
「夜に浮かぶ二つの月、天空に浮かぶ都市、空を飛ぶ魚、いまだ空白が多く残る地図、雪山や海の底に暮らす竜、森の中で夜な夜なパーティを開く妖精たち」
ホビットやコボルト、ピクシーをはじめとした沢山の種族、環境、風土、国、そんな世界と隣り合わせにある幾つかの世界……。
それらが創作物ではなく、本物として立ち上がった感覚。
「だから割と今は満足…というか、うまく考えられないね」
「じゃぁ、此処で暮らしていけっていわれたら、それでも構わないってのか?」
「まぁそうだね」
後悔がないわけじゃないが、選べと言われればこちらを選ぶかもしれないとフランシスは言った。
「今はただ子供みたいにわくわくしている」
真剣に自体を考えてくれているルートヴィヒには悪いけどね。
そういって肩を震わせるフランシスに、いつもの大人びた雰囲気はない。
まるでこれから親の目を盗んで、夜の遊園地に繰り出す子供のようにロヴィーノには見えた。
そして彼は屋根裏に隠した宝物をみせびらすように、ロヴィーノにこの世界の事をとうとうとしゃべるのだった。
本来のゲームでは一人に一匹(?)ついてくるナビ(アシスタント)についてや、街の外にいるモンスターのこと、"実在する"神について、プレイ可能な多種多様な職業、狩り専門のハードプレイヤーにも楽しめるように作られた優れた戦闘・強化システム、カスタマイズ可能な装備に魔法、召喚システム、もちろんまったりとしたプレイを好むプレイヤーやただ異世界で生活したい人などに向けの機能も…と、そのあたりに差し掛かった時には、ロヴィーノは完全に熟睡していたわけだが。

 *

フランシスはロヴィーノが眠っていることに気づくと、のべつまくなしに喋っていた口を閉じ、うっとりと浮かべていた笑顔を引っ込めると、その美しい顔を、これまた美しく歪ませロヴィーノに手をのばすとその頭をそっと撫でた。
彼の脳裏には先程、ロヴィーノがトイレに席を外した時にルートヴィヒが言った言葉がぐるぐると回っていた。
部屋に入り、しばらくしてロヴィーノがトイレに入った時、ルートヴィヒはその背中を見送り、そしてフランシスを低い位置から見上げながら言ったのだ。

“覚悟しておいてくれ。もしかしたら、俺達はもうこの世界から出られないかもしれない”

と。
一応、そのあとに彼は“そんなことが無いように努力はする”と言って微笑んではくれたが、その時の顔は成人した彼が無理に笑っている時のそれとそっくりで、本当に事態が深刻であることを告げていた。
いや、そう言われなくても薄々はフランシスだって気づいていたのだ。
この世界はゲームに似てはいるが…しかし、完全に別物だ。
いや、別物に変容しつつあると言ったほうがいいのか。
フランシスとルートヴィヒが最初に入った時、この世界は“まだ”ゲームだったのだ。
出れないと気づくまで。
ただのゲームのフリをしていたのだ。
フランシスは眉間を軽く揉むと、考えを振り払うように首を振った。

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