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VP ~咎を背負う者~

久しぶりだけどかきたくなったんで。

夜、森の中でたった1人焚き火を囲んでいると、なにやってんだろって気持ちになる。
フクロウや夜鷹、虫の声に包まれ、たった1人でこんな森の中、それも若い女の身でなにやってんだろうって。
誠心誠意尽くした王宮、華やかな世界、設備の整った研究所、尊敬していた上司…昔の事を思い出すと涙が出そう。
「あーぁ、もうこんな風になるなんて、思いもしなかったな」
ポツリと呟くと、

「大丈夫?」

思いもかけず声が返ってきて私はびっくりして、慌てて顔を上げた。
するとそこには忽然と15・6くらいの少年が立っているではないか。
「いつのまにっ!」
息をのみ慌てて戦闘体勢をとろうとした私に、彼は「待って!」といい両手を上げた。
「君とやりあう気はないって」
「…どこの人間かしら?兄王子派?弟王子派?それともヴィルノアの回し者かしら」
私の詰問に彼は困ったように肩をすくめ「どれでもない」と言った。
「ただの旅人だよ」
「旅装もないのに?信じられないわ」
私は冷たい汗が背中からふき出るのを感じた。
もしかしたら私の動きに気づいた誰かが私を暗殺しようと?
もしかしてもう囲まれてる?
彼に目を止めたまま全身で周りの気配を探ろうとする私に、彼は「大丈夫だって」と半ば呆れた。
「俺はどこの組織にも属さないただの旅人だよ」
「傭兵?」
「…に、見える?こんなひょろひょろで」
彼は自嘲するように笑った。
確かに彼ではろくに戦えそうにない。
「だけど、魔術師だって可能性もあるわ」
「魔術師?…あぁ確かに。だけど君の敵じゃないよ。ただちょっと火にあたらせてもらおうかと思っただけだよ」
「結局、魔術師なの?」
「こだわるね」
「当たり前よ」
「追われてる身なの?」
「それはあんたの方が詳しいんじゃない?」
「だから知らないって」
本当に困ったという顔をする少年に、私は気を許さないまでも少しだけ警戒レベルを下げることにした。
「こんな夜に、しかも魔物の出る森の中に着の身着のままで旅人だなんて、怪しいにもほどがあるわね」
「かも。でも本当だよ。あんたの敵じゃないってのも」
それにあんたの敵ならわざわざ声をかけて気を引くわけがないと言われて、私は少し納得した。そうだ。あの時、私は彼の気配に全く気付けていなかったのだ。
殺す気があるのならばあの時ほど確実なときはあるまい。
「いいわ。火にあたりなさいよ」
「え、いいの?」
「必要ないなら結構、さっさと立ち去ったら?」
私が言うと彼は慌てて近づき、焚き火の向こう側に腰をおろした。
「やっぱり火があるのと心が落ち着くね」
「まぁ、そうね」
そっけなく言うと苦笑し、「名前は?」と聞いた。
「俺は玲治っていう」
「私は…リーゼロッテよ」
少し考えて正直に言った。
「リーゼロッテか。少しの間だけどよろしく」
「……」
まだ完全に警戒を解いたわけではない。よろしくするつもりはないのだと無視をすると、彼はまた苦笑した。
「本当に君に対する敵意はないんだけど」
「…そう、だとしても信用出来るものじゃないわ」
だいたいさっきも言ったが、彼のような軽装…なんと、シャツ1枚にズボンだけ)で荷物も持っていないというのは怪しすぎる。それに…
「魔物には一度も合わなかった?」
「魔物?…うーん、魔物かどうかはわからないけれど、ゴブリンみたいなのには会ったな」
「襲いかかって来なかった?」
「うん」
コクリと頷く玲治と名乗った少年に「運がよかったわね」というと、彼は苦笑しながらそうだねと答えた。
「ところでリーゼロッテは何か…いや、さっき何か落ち込んでいたみたいだけど」
彼は私の旅の目的なんかを聞きたかったのだろうが、途中でそれはまずいと思ったのか話題を変えた。
私にはそれに答える義務はない。だけどなんとなく話したくなった。
少し心細いのかもしれない。
「ちょっと、昔のことを思い出してたのよ」
「昔のこと?」
「そう、私これでもアルトリアの宮廷魔術師だったの」
自慢したいわけじゃないけれど、無反応な玲治には少し落胆した。
宮廷魔術師っていえば、誰もが一目置く存在なのだけれど。
「“だった”って事は今は違う?」
「…そう。追い出されちゃったのよ。上司を殺した濡れ衣を着せられてね」
今思い出してもいまいましい。
「殺すわけ…ないのに。私はその人をとても尊敬していた。本当に。なのに…その時の状況から私ともう一人の同僚しか犯行は不可能だって言われてね。…どれだけ私じゃないって言っても信じてもらえなかった」
私は引き寄せた両足をぎゅっと抱きしめた。
悲しい…
「あんなに国のために尽くしてきたのに…。ローザが犯人なのに!」
そして…憎い。
「ローザって?」
「同僚よ。いっつも澄ましていていい子ぶってる子。だけどあいつが犯人なのよ。だって私はやっていないもの」
しんみりとしていた気分が一転、私は怒りに胸を焦がした。
「きっとあの子が私をはめようとしたのよ。だけどお生憎。結局あいつも宮廷を出されたわ。でもねまだ続きがあるのよ」
初対面の相手に何をいっているんだろう、そう頭の隅で思ったけれど、私の口は止まらなかった。
「彼女、自分の師とも言える人を手に掛け、そして宮廷を追い出され今はどうしていると思う?」
「さぁ…実家にでも帰ったとか?」
「ハン、だったらいいわね。田舎に引っ込んで地味な暮らし。あいつにはお似合いだわ。だけど…違う。あの子はね、今や聖女様よ」
「聖女?」
怪訝に眉を潜める玲治を見て、私は“そうよ、そうなのよ、おかしなのはあいつよ”と思う。なのに…
「そう、弱いものを見つけてはそれに同情をかけて…ほんと、偽善者もいいとこなのよ。人殺しのくせに。…それなのに周りは彼女を聖女と祭りあげて…!ほんと、ばっかみたい!」
あいつは人殺しなのに。
私に罪をなすりつけようとしたくせに。
宮廷を追い出されたくせに。
「一方の私は、私は仕方なく便利屋稼業よ。お金さえ払えばなんでもやるって身分まで落ちてしまった。私は何も悪いことなんてしてないのに…!」
「それは…辛かったね」
玲治の言葉に顔を上げた私は、彼の顔に違和感を覚え眉を潜めた。
何か…。何かが決定的にさっきまでと違うような気がする。
まだ子供っぽさを残す顔立ち…細い肩…剣も持てないような華奢な体… あ… 目だ。
目が違う。
先ほどまでは、確かに彼は黒い(もしかしたら濃い茶色とか紺だったかもしれないけど)目をしていたはずだ。
なのに今の彼の目は…薄い金色をしている。
「…えぇ」
コクリと喉が動いた。
玲治はそんな私をじっと見つめながら、しかし私ではなくどこか遠くに焦点を合わせていた。
「俺も…似たようなものだな…。俺の場合は誰かに裏切られたとか、そんなことじゃないけれど…」
そういった彼の目はとても深く、暗く、濁っていて…そして、そして…なんだかとても恐ろしかった。
「玲治?」
「…リーゼロッテ、君はローザに復讐はしないの?」
「復讐?」
「それだけ憎んでいたんでしょう?そのまま泣き寝入りなんて出来ないよね」
「復讐…」
復讐…。
憎い、憎いローザ。
私の師を殺し、あまつさえその汚名を私に着せたローザ。
今は聖女気取りで街の人々に祭り上げられているローザ。
憎い。
だけど復讐?
そんなこと一度も浮かばなかった。
でも彼の口から出た復讐という言葉に私の心は甘く震えてとまらない。
「復讐…」
そう…よね。
復讐。
彼女はそうされて当然の人間だわ。
師に手をかけ、私に罪をなすりつけようとし、そして今は聖女なんて調子にのっている。
私には何の罪もないのに、私は宮廷を追われ、そして地に根をもたない便利稼業。失ったものは大きすぎる。
このまま泣き寝入りなんてできない。
私には彼女に復讐する権利がある。
復讐!
なんて甘美な響き!
顔を上げたそこに、先程までいたはずの玲治の姿はどこにもなかった。
だけど私はそんなことちっとも気にしなかった。
私は愛用している杖を両手に握り、彼女への復讐を心に誓った。
「待っていなさい、ローザ。私がその薄汚れた聖女の仮面を剥がし、醜い本当の顔を白日の下に晒してあげるわ」

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