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見えないから高い壁

注意:捏造スコットランド
左右はどっちでもいいけど、英←仏
読み返さない

わざわざ時間を作って海を渡り、俺が隠居生活をしているスコットランドを訪ねるのは下心があるからだ。
正確を期すなら“彼に”ではなく、“彼の弟に”だけれど。

 ※

「ボンジュール、呼ばれもしないのにやって来たよ」

亡国、今は一地方となってしまった彼は、イギリス北部、郊外の牧歌的な風景の中に住んでいる。
とても古い石造りの赤い三角屋根の家には植物の蔦が這い、絵画に描かれている風景のように美しい。
彼はそこに元は迷い猫だったらしいスコティッシュフォールドと共に暮らしている(すでに一世紀以上一緒に住んでいるから普通の猫じゃないようだ)
悠々自適の年金生活…というには退屈すぎる環境で、彼は伝統工芸品のような飾り箱や木で出来たおもちゃを作ってはきままに業者に売り暮らしている。
俺が訪ねた時も、彼は木を削っていた。形からしてパイプだろうか。細い刃の彫刻刀で、飾りを彫り込んでいた。
俺の声に気づくと手を止め、冷めた目でこちらを見る。
初対面の人間ならまず “間違いました” と言って180度くるりとまわるくらいの冷たい眼差し。
だが俺は平気…とは言わないが、もう慣れたものだ。
無視してさっさと部屋に入り、テーブルの上に差し入れのワインを置く。
「これ去年の品評会で一番だったやつ。寂しいお前におすそわけだ」
彼は何も言わない。
だがこれだって慣れたもの。
俺はもう片方の手に持っていたバスケットを掲げ「ちょっとキッチンを借りるよ」と、勝手知ったるなんとやら、部屋を横切り台所へと入った。

 *

「はい、出来た。フランス様特製エビとブロッコリーのキッシュだよ」

温めなおしたキッシュの大きな皿を持ってスコットランドの元に戻ると、彼は先程までのテーブルにはおらず、テレビの前のソファに座っていた。
素直じゃないねぇ。弟と一緒で。
俺は苦笑しながら少しだけ足を伸ばし、ソファの近くにあるテーブルに皿を置いた。
それからグラスにワイン、取り皿にフォークとスプーンを並べる。
「さぁ、食べた食べた!」
そう言いつつ、彼が素直に手を伸ばさないのはお見通し。
大きなバターナイフのようなパイサーバーでキッシュを切り分け、そのままそれで一切救い上げ取り皿に映す。そしてフォークを添えて無理矢理にスコットランドに渡した。
「美味しいから」
ため息をつかれても気にしない。
そのままじっと見つめていると、彼はそのうち折れて食べ始める。
弟と一緒だ。全くこの兄弟はわかりにくい。
それに比べたらプロイセンの所なんてなんて簡単でわかりやすいんだろう。
やがて一口をいやそうに食べたスコットランド。
マズイなんて言わせない。
まぁ、それはどうでもいい。
俺の目的は彼に自慢の料理を食べさせる事ではないのだ。
「で、どうなの?」
彼の弟、イギリスのために少しでも情報を調べて置かなければ。
「なにがだ」
自分でも、この手はどうかな…っていうのはわかっている。
「だから最近だよ、どうなの?」
だけど…他の子にするように、上手く気を引く方法が他に見つからないのだ。情けないことに。
「別に普通だ。何も変わりゃしねぇ」
プレイボーイの名の返上を本気で考える程に、彼に対して俺は打つ手を持っていない。
思わず自嘲すると、珍しい事にスコットランドが俺を見て怪訝な顔を作った。
「どうした?」
「はは、珍しいね。スコットランドが俺のことを聞くなんて」
「……」
嬉しい?いやまさか。
俺は少しばかりむっとしていた。それをごまかす為に、ことさらニコニコと笑い「味はどう?」なんて聞いてみる。
「まぁまぁだ」
「まぁまぁ?それは、最高の褒め言葉だね。お前、いつも “フツー” とか “悪くない” とかばっかだもんね」
調子よく喋れた事に俺は内心ホッとする。
スコットランドのことだから俺が多少取り乱したところで、鼻で笑うような事はしないだろうが、それでも俺には体裁を繕う事が大切だった。
特に彼の前では。
スコットランドはけっしてそんなことを思いやしないだろうが、俺は自分と彼の関係を抜き差しならぬものだと考えている。
彼にとっては迷惑でしかないだろうが、俺にとって彼は敵だ。
懐柔したくて、できなくて、憎たらしい相手。

それからは冷静に振る舞うことができた。
政治の話…はおいておくとして、近頃パリで人気の料理の話や、話題になった映画の話、相変わらずなプロイセンとスペインの話をしていると調子が乗ってきた。
そしてスコットランドからも、近頃、鳥を模したおもちゃを作っているのだという情報を引き出した。ついでに庭の一角が少しさみしいから何か植えようかと考えているってことも。
出来は上々だ。
ワインが入ったこともあって気分は良かった。
これで彼を喜ばせることができる。そして…言葉は悪いが恩を売ることが出来る。
介在しているのがスコットランドというところはいただけないが、仕方がない。
幸い時間だけはたっぷりとあるのだ。まぁゆっくりとやるさ。
そう思った時だった。
プルルルルっという音を立てて、テーブルの上に置かれた黒い携帯電話が着信を知らせた。
俺のものではない。…ということは、必然的にスコットランドのものということになる。
彼は3コールほど鳴らせておき、それから億劫そうにそれを手にとった。
そして画面を見る。途端歪む顔に、俺はすぐにそれが誰からであるのかを察してどうしようもない気持ちになった。
なんで。
どうして。
なんてことだ。
あぁ、もう最悪だ。
彼は電話にでることはせず、それを俺へと放り投げた。
咄嗟に受け止めて後悔する。
その時には彼はもう椅子から立ち上がっており、俺に背を向けていた。
まるで俺にかかってきた電話に遠慮するように。
気を使っているつもりか?それともバカにしているのか、哀れみか。
携帯に目を落とすと、そこに名前は表示されておらず、ただ相手の電話番号が並んでいた。
自宅と、それから上司に無理やり覚えさせられたいくつかの番号の他に、唯一そらで覚えている番号。
どうしろってんだよ。
すでに最初の呼び出し音がなってから随分と時間が経っている。
しかし、相手は、彼は、イギリスは呼び出し音を鳴らし続けている。
電話の向こうに兄がいると信じて。

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