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君への愛と免罪符

読み返さない
何か変な気がするけど…まぁいいや。

「少しよろしいでしょうか」

声をかけられ振り返ると、セシルより幾つか年上の濃紺のエプロンドレスを着た女性が立っていた。
キリッとしたいかにも有能な良家の女官といった風だ。だが、セシルを見る目は女官のものとは思えぬ程に冷たい。
「レデュード侯爵閣下より、晩餐会への招待状を預かってまいりました」
「レデュード侯爵閣下?」
彼女から受け取った手紙は、それはもう上質な厚い紙が使われており、複雑で優雅な金箔の飾りがついていた。
「はい、エミリア姫のお父上様でございます。セシル様」
「エミリア姫…。え、でもあれは……」
「晩餐会への出席、皆様大変楽しみにしておられます。どうぞラフな格好でお越しくださいませ」
慇懃にセシルの言葉を遮った女官は、優雅に…しかしとても儀礼的に一礼すると顔を上げきる前に身を翻し、さっさと立ち去ってしまった。
嫌われているな。
そう苦笑しつつ、問題は受け取ってしまった招待状の方だ。
解決していたはずの事件から2週間。
彼女は招待状の表裏を見ながら、ため息をついた。



こういう時に相談できる相手といえば、セシルにはたったの二人しかいない。
しかも、その内の一人、ローザは現在郊外にもった領地に避暑に出掛けているから、今は一人しかいないことになる。
彼女は長い手足を颯爽と動かし、その一人、カインの元へと歩いていた。
すれ違う人々が、恐々と、しかしそれ以上にうっとりとした視線を向けてくるのには、彼女は気づきもしない。
カインの部屋は城の東側、竜騎士たちにあてがわれた区画にある。
彼は城下町にも邸宅を持っているのだが、そちらにはほとんど足を向けず、信頼のおけるものに留守を任せている。
「カイン、いるかい?」
セシルがノックをすると、部屋の中で物音がし「セシル?入ってこいよ」とくぐもった返事が間もなく返ってきた。
了解を得て中に入ったセシルは、左手にあるベッドに腰掛けばんやりしているカインを見て呆れた。
「もしかして君、今まで寝ていた?」
「あぁ、今日は久々の非番だったんだ」
「だからといってもう昼も過ぎてるのに」
セシルはそう言いながら近づき、少しだけ癖のついた髪を撫でた。
「それに、それ寝間着じゃないだろう」
「…あぁ、昨日着ていた服だ」
「呆れた」
こんなところをカインのファンが見たら幻滅するにちがいない。
それとも“そんなところも素敵”というのだろうか。
「それで?なにか用だったか?」
カインは背中に流れたままの髪をひとつに結わえながら聞いた。
セシルは「そうだった」と用事を思いだし、昼間に女官に呼び止められた事からの事をカインに話した。

「それでこれ」

そして最後に招待状をカインに見せた時には、彼もだいぶ目が覚めてきたようで、いつものキリッとした顔でセシルの手から招待状をとった。
「レデュード侯爵…か。エミリア姫の件は片付いたといってなかったか?」
「そのつもりだったんだけどね」
カインは招待状の中身をチェックし、口をへの字に曲げる。
「たく、面倒だな」
「うん」
「うん…って。お前、よくわかってないだろう」
「わかってないって、何が?」
「話せば長くなるが、エミリア姫には他国への輿入れの話がでてんだよ」
「他国に?」
セシルは少し驚いた。
バロンの女性は17、8から25くらいが結婚適齢期。
貴族では小さい頃に婚約者を決めてしまうことも多いから、セシルより年下のエミリア姫が結婚することには驚きはない。
だが問題は他国への輿入れというところだ。
侯爵家の娘となれば引く手あまただろうに、わざわざ大国バロンから出ていく理由がわからない。
「あぁ、彼女には他に兄弟がたくさんいるからな。一人くらい外交の為に嫁入りさせるのも悪くはないというのがレデュード侯爵閣下の考えなんだろう」
「へぇ、では今日の晩餐会はお別れ会ってとこかな?」
会場はレデュード侯爵家。彼女に招待状を渡した女官はラフな格好で…と言っていたが、招待状にはドレスコードが指定されていた。
「そうだろうな。だが、お前を呼んだのは他にも目当てがあるんだろうぜ?」
「どんな?」
「少しは自分で考えろよ」
意地の悪い笑みを浮かべるカインにセシルは口を尖らせる。
「いいじゃないか、教えてくれても」
「そりゃいいさ。おそらく、エミリア姫がだだをこねたんだろうな。バロンを出て他国になんて出たくはないってね」
「なるほど、僕はその説得役ってところかな?」
「いや、たぶん違う」
「じゃぁなに?」
「大貴族といえども、姫について向こうの家に一緒に入る人間は限られる。詳しくはしらないが、女官が二人に護衛が一人とかそんなもののはずだ」
カインの話に、その続きが予測できたセシルは眉をひそめた。
「まさか」
「そう、そのまさかだと思うぜ、俺は」
“お父様、セシル=ハーヴィを私の護衛にください。そうしたら私、喜んでお嫁に参りますわ”
エミリア姫の幻聴が聞こえたようでセシルはくらりとした。
「いや、しかしそれは飛躍のしすぎじゃないか?カイン。いくらなんでも…」
「さぁて」
カインは真剣だった顔を少し緩め微笑んだ。
「まだわからないけどな。だけどその可能性は高いと思うぜ」
難しい顔をするセシルの髪をカインは撫で、「だったらあの姫、見た目よりもずっとしたたかだな」と面白がるように言った。
「…カイン。他人事だと思って」
「他人事だなんて思ってやしないさ」
ちらっと睨むセシルにカインは肩をすくめ、「晩餐会は俺がエスコートしてやるよ」と言った。

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