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出ちゃいましたPt.2-act.04

ガチャ

チャイムが鳴った途端にガチャッと開いたのでぎょっとしていると、
「アリスー!いてるんやろ!ちょっとこっちきてぇ!」
おかんや!
私が火村を見ると、彼…彼女も驚いたように目を見開いていた。
「アリス?いてるんやろ?荷物あるから取りにきてや!あれ?この靴…まっ!ちょっと、アリスゥ~?」
「あー、おかん、ちょ、ちょっとまってや!」
私はタバコを消している火村を横目に慌てて玄関へと向かった。
すると玄関ではおかん…母が、両手に大きな風呂敷を二つ抱え、火村の履いてきたパンプスを目を剥いて見つめていた。
「お、おかん?」
盛大に冷や汗を掻きながら声を掛けると、そのままの表情で母は顔を上げ私を見た。
「アリス、これ、なんなん?」
「なんなんって…靴やろ?」
「…もしかしていてるん?」
「え?」
「火村さんきてるんやろ!」
おかん。声が大きすぎる。
そう言おうとした時には、母はもう私の横を通り過ぎていた。
しっかりと私に風呂敷を二つ教えつけて。

「あっら~!火村さんやないの!大学の時、ちらっと会(お)うたと思うんやけど、覚えてる?」

……。
自分の母親ながら、あまりにもパワフルすぎる。しかも今日はどうやらテンションMAX状態らしい。
私はこのまま玄関を出て、しばらく時間を潰そうかと迷った。
…が、此処で逃げると、確実に彼女に殺されそうな気がしたのでやめた。(彼女(?)は無駄に頭がいいから、確実に完全犯罪を成し遂げそうだ。)
恐る恐る部屋に入ると、火村は母に詰め寄られて思いっきり引きつった笑を浮かべていた。
「あっらー、相変わらず美人さんやねぇ!アリスとおんなじ年やから…えーっと、アリスはいくつやったっけ?確か30くらいやよな?けど、ぜんっぜんそんな見えへんやないの!もぉ!ほんま綺麗やわ。20代半ばくらいに見えるわ。ほんま美人は得やねぇ!」
圧倒的だ。
火村のHPだか精神だかがガツガツ削られているのが目に見えるようだった。
「今日はお仕事やなかったん?もしかしてわざわざアリスの面倒見にきてくれはったん?あの子もほんま、一人暮らしが長いんやからそこそこは家事もできるみたいやけど、料理はどうしても味がひとつ抜けるからねぇ~、あ、そうそう、火村さんお寿司好き?今日、此処に来る途中に買ってきたんよ!良かったら一緒に食べへん?ほら!アリス!なにそんなとこでぼーっとしとん!」
あんたは昔からぼさーっとして! と言われても…。
彼女と比べれば、誰だって亀のように遅いに違いない。
「これ、お寿司やったん?」
私がなんとか火村から注意をそらそうと言うと、「そうそう」と彼女はこちらを向き、近所の奥さんから聞いた美味しい寿司屋で…あーだこーだと話し始めた。
たしかに新鮮そうな魚で、かなり美味しそうではあるが……寿司を買うのに、なぜ、その寿司屋の親父さんが二回再婚しているとか、息子さんが証券会社に勤めているとかいう話まで聞き出しているのだろうか。
「ほら、さっさと小皿とお箸もってきて!」
「うん。で、おかん、こっちの袋はなんやの」
「あ、こっちか?これは私が漬けたお漬け物。あんまり美味しくないから、いっぱいもってきたわ!」
「美味しくないんや…」
そしてまた近所のなんたらさんが…茄子の漬け物が…今は糠が…とべらべらしゃべり続ける。
私は母の言葉に適当に相づちをうちながら火村を見た。火村はまだ麻痺状態だ。
可哀想に。
火村が男だった時にはざまーみろと思っていたかも知れないが、火村が美女である今は、ただ同情の念しか浮かんでこない。
我が母ながら、彼女の舌鋒はそうそう防げるものじゃないのだ。
「おかん、それよりせっかくやからはよ寿司食べよや」
私が言うと、そうそうとパチンと手を叩き小皿を配ったり、醤油を入れたりとまた張り切り出す。
「少し多目に買(こ)うてしもたから、残るかもしらんと思うとったから火村さんがいてくれてよかったわぁ~、あ、このハマチな…」
しゃべる母からそっと離れ火村の肩をポンと叩くと、彼女ははっとしたように私を見上げ困惑した表情を見せた。
私は顔だけで頑張れと伝えると、彼女の側に腰を下ろした。
もちろん、母と彼女の間にはいるように。
「さぁさ、遠慮せんといてどんどん食べてね!あ、火村さん、うなぎ食べれる?うちの旦那、うなぎ食べられへんねんよ~!あんな美味しいのになぁ~、それに…」
火村はここまで一言喋っていない。
私は火村に箸を渡してやり「とにかく食っとき、おかんの話は適当に流しとってえぇから」とフォローを入れた。
以前の火村なら皮肉そうに口角を上げるところだろうが、今日の彼…彼女はおとなしいものだ。
それは体が女に変わったからというのも勿論だが、それ以上に母のキャラクターに圧倒されているという方が大きいだろう。
何しろ今日の彼女は格別にテンションが高い。
こういう時は台風が通り過ぎるのを待つように、ただただ彼女の話に適当に相槌を打つのがいい。それが私と父が経験から学んだ事だ。
賢い火村は長い経験を重ねずともそれを察してくれたようで、今はもう殆ど彼女を無視して寿司に手を伸ばしている。
「それで、こないだお義母さんのとこいったら………」
「あかんわねぇ、近頃足腰が弱わくなってしもて、ほんまちょっとの距離でも………」
「こないだテレビみた?NH◯の月曜の夜のあっとるやつ!あれで………」
べらべら喋りつつも、彼女は合間合間にひょいと寿司を摘み上げると、ぱくりと口に入れている。
寿司を口に入れている間は勿論話は途切れるのだが、彼女は寿司を丸呑みでもしているのか話が途切れる時間はたったの3秒程度だ。
人間にしとくのが惜しいな…なんて遠い目をしてしまう。
そして彼女は、火村が寿司を咀嚼し、私がお茶を口に入れた瞬間、

「で、あんたたち、いつ結婚するん?」

と、思わず口の中のものをブハッと吹き出してしまうようなことを言った。

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