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夏風邪のような恋

成響

「あー、やっぱり君のところは涼しいねぇ~」

久々にやってきたかと思った途端、成歩堂はそういってフローリングの上にベターっと横になった。
それを見て部屋の持ち主であり、また近頃成歩堂の恋人という肩書きまでついた牙琉響也は「なにやってんのさ」と呆れたような声を出した。
「君のところなら涼しいんじゃないかって思ってたんだけど、大正解だったね」
「…涼みにきたわけ?」
「そう、ほら節電とかでさぁ、みぬきが一人でいるときはクーラーつけちゃだめだって」
「へぇ」
「だから君のところなら涼しんじゃないかと思ってね」
君、節電とか興味無さそうじゃない。
そういわれて響也はすこしばかりムッとした。
「あのね、うちのマンションは太陽光パネル完備だし、足りない分だって自然エネルギーで発電している会社からかってるんだからね」
「え、そうなの?」
「そうだよ。ついでに言えば、水道から出る水も雨水を地下にある上流装置でろ過してつかってたりするんだからね」
「へぇ、すごいなぁ」
本当にすごいと思っているのかわからない顔でへらっと笑う成歩堂に、響也は呆れてため息をついた。
「とにかくそんなところで伸びてられちゃすごい迷惑なんだけど」
「でも此処が気持ちいいんだよ」
「……」
行き倒れのような姿になっている成歩堂を見て、響也はなぜ自分はこんな男のことを好きなのだろうかと、これまで何度となく疑問に思っていたことが今もまた浮かびあがる。
「とにかく中にはいってよ。どうせなら、クーラーの下にいればいいじゃないか」
「あ、それもそうだね」
成歩堂はそう言いながらも億劫そうに立ち上がり、そしてひょっこひょっこというような歩き方で中に入ると、ソファにどかりと座り込んだ。
そしてだらりとした体勢。
そんな成歩堂をしばらく見て響也はまたため息をついた。
お互いに男だし、いい年した大人だし、いちゃいちゃしたいとかそういうことではないが…。だからといってこれはあんまりな気がする。
しかしそんなことで声を荒げるのもまた違う気がする。
響也は成歩堂の後ろ姿を見て、一つ肩をすくめるとやりかけた仕事に戻ろうと踵を返そうとしたが…
「響也君」
まるでそれを見透かしたようなタイミングで成歩堂に名前を呼ばれドキリとした。
成歩堂はいつも響也のことを『君(きみ)』とばかり呼び、名前を呼ぶのは特別な時が多い。
例えば怒っている時とか、何か企んでいる時とか、無茶な頼みごとをしようとしている時とか…それとも情事の時とか…。
「なんだい?」
動揺を隠して振り返ると、成歩堂がソファ越しに響也の方を見ていた。
「忙しいのか?響也君」
まただ。そう思いながらも、彼は「まぁね」となんでもないように答えた。
「常に複数の案件を持たなきゃいけないのが人気弁護士の宿命ってやつだよね」
「相変わらず人気者みたいだね」
「まぁそんなところさ、おでこくんも近頃じゃちょこちょこ依頼がきているみたいじゃないか」
「そうだね、今日もみぬきと調査に出かけているよ」
「へぇ、それで“パパ”は置いてけぼりってわけだ」
「…そう、かもね」
皮肉げに片方の口角を上げる成歩堂。
その表情にちょっとした引っ掛かりを覚え、響也は眉間に小さな皺を寄せた。
「どうかしたのかい?」
「…いーや」
「いーやって風には見えないんだけど」
そう言いながら響也は成歩堂の方に近づき、その顔をのぞき込んだ。
すると顔を覗きこまれた成歩堂は眩しげな顔をして目を細めた。
「相変わらず綺麗な顔をしているね」
「ありがとう。よく言われるよ」
にっこりと微笑んでやると、成歩堂はハハxと小さく笑った。
「君らしいね、響也くん」
「それで、どうしたの?」
しつこく聞くと、成歩堂は少し困ったような顔をした。
「いや、ただ…ね」
「ただ?」
「近頃君に会ってないから、クーラーを言い訳に会いに来てみたんだけど…軽くいなされて拗ねてるだけだよ」
成歩堂の言葉に響也は目を丸くした。
「は?」
そして出た言葉は、とても間の抜けたもの。
それを聞いた成歩堂の顔がほんの少し不機嫌なものになる。
「いや、いいんだ」
成歩堂は軽く手を上げる。
「気にしなくていいよ、君は僕とはちがって忙しい身だからね、僕とは…いや、今のもナシだ」
彼は帽子の上から頭を掻いた。
「ちょっと暑さにやられてしまったらしい。いや、年のせいかな?少し頭を冷やしたほうがいいみたいだ。今日はもう帰るよ」
一人でなにやら納得して立ち上がり、そのまま響也の横を通って玄関へと向かう成歩堂。
響也はハッと気づくと、慌てて成歩堂に追いすがりその腕を引いた。
「ちょ、ちょっとまってよ。何勝手に帰ろうとしてるのさ」
「いや、悪いね。どうも今日は調子が悪いみたいだから、また今度にするよ」
「また今度って…ちょっと待ってってば!」
少し大きな声を上げると、成歩堂が困ったような顔をしたまま振り返った。
それを見て響也はほんの少しほっとする。
「あのね、確かにあんたをほっといて仕事をしようとしたのは悪かったよ。でも、クーラーを言い訳って…そんなのわかりにくすぎるよ」
あれじゃ言い訳じゃなくて本音にしか聞こえない。
「恋を“アトロキニーネ”に例えたりするくせに?」
「それとこれとは別だよ」
大ヒット曲の“恋はアトロキニーネ”を例えに出されて響也は少しむっとするが、今はそれよりも成歩堂を引き止めるほうを優先する。
「それにね、会いたかったのは僕も同じなんだけど」
「…迷惑とかいったくせに?」
迷惑?そんなことを言っただろうかと考えて、最初に玄関で寝そべられた時に言ったことを思い出す。
「それはあんたがあんな場所で寝転ぶからだろう?どうせなら素直に訪ねてきてほしかったよ」
響也は腕を組んで言った。
「せっかく会えたのに“ここなら涼しそうだから来た”なんて言われて、ぼくが喜ぶとでも思った?」
そう言われて、成歩堂は初めて気がついたように目を見開いた。
「あ、そっか」
「そうだよ。その上、ぼくを放っておいてソファでぐったりしてるんだからね、本当に目的が冷房装置だと思われてもしかたがないと思わないかい?」
軽く指をさして言えば、成歩堂は決まりの悪そうな笑顔とともに両手を降参というように上げた。
「どうだい?確かにぼくも忙しさにかまけて合いに行けなかったのは悪いと思うけれど、あんたの方がよっぽど重罪だとは思わないかい?」
「…あぁ、思う。思うよ、検事。認めるよ」
さっきまでの不機嫌はすっかり消えて楽しそうに笑う成歩堂に、響也の顔もまた笑顔になる。
「悪かったと思うなら、今日は一日この部屋で謹慎してほしいね、成歩堂さん?」
「その程度でよければ喜んで」
成歩堂はそういって響也の腕を引くと、倒れこんだ彼の体を抱きしめた。
「ついでにたっぷりと奉仕活動もいたしますよ、ぼくの検事殿」
突然抱きしめられ、とんでもないことを囁かれた響也は顔を赤くしながら、しかし負けず嫌いの彼は「それはそれは期待しているよ」と強がった事を言い…そして、その数時間後、盛大に後悔することになった。

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