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飴玉を噛み砕く 03

ゲイ専用ソープ店の世話人

午前零時半。
世間じゃまだまだ宵の口といったところかもしれないが、これでアニス☆ラブの営業は終了だ。
残ったスタッフと男の子たちで片付けを終わらせると、オーナーが施錠しワゴンで足のない子達を送っていく。
「おつかれーっす」
と口々に挨拶して解散…と行きたいところなのだが…。
俺のバイクの前にはなぜか壱さんが…。
「壱さん、今日は車じゃないんすか?」
「乗せてけよ」
自分の足でこなかったのなら、オーナーの車に乗ればいいのに…。
「スタッフとサービス員はあんまり仲良くしちゃいけないって言われてるんですけど…」
「じゃぁ、お前はここで俺に野宿しろってのかよ、ダイ」
ちらっと睨まれて肩をすくめる。
「いえ…」
まさかそんなことをさせるわけにはいかない。
いざとなれば携帯でタクシーを呼ぶなりするだろうが、稼ぎ頭の壱さんにリスクを負わせるわけにはいかない。
仕方がない。
「あー、じゃぁヘルメットひとつしかないんで、壱さんどうぞ」
「ついでに何か食ってこうぜ」
「…わかりましたよ」
本当に仕方のないひとだ。
きっと生まれつきの甘え上手(?)なんだろう。
彼があげる稼ぎが店一番であると同時に、客からの貢ぎ物も群を抜いているのだ。
洋服やアクセサリー、果ては車や株券まで貢がれたことがあるというのだから恐れ入る。
彼は大体二日に一日出勤する。そして六時間の勤務で大体四人を相手にする。
彼の場合、指名料込みで料金は一時間5万円に昇る。
普通は店がマージンで半分くらい持っていくのだが、壱さんの場合は他の子にもお客さんを落としてくれたり、評判をきいた新しい客がついたりするので四万くらいは壱さん本人に入っていると思う。
そこから計算すると、4×4×15で、月240万、年間で2880万の稼ぎだ。
恐ろしい。
しかも壱さんは俺が仕事始めたのと同じくらいから勤めだし、すぐにナンバーワンになったから、さらに×2(年)ですでに5760万くらいは稼いでるんじゃないか?
考えるとすごい金額だ。
俺だって月に30万稼がせてもらっているわけだが…それでも天地の差だ。
とかいってもまさかサービスに鞍替えはしないが。
だまってバイクを転がし、山から出て向かったのは知り合いがバイトしているラーメン屋台だ。
壱さんみたいなべっぴんさんをつれていったなら、アツシの野郎は度肝を抜かれるにちがいない。

屋台のすぐ近くにバイクを停めて降りると、壱さんも続けて少し不機嫌そうな顔で降りてきた。
「炭水化物は控えてるんだけど」
小汚ない屋台が気に入らないというより、体格管理が気になるらしい。
「大丈夫ですよ、壱さんは痩せすぎなくらいですし。それにここは豚骨スープがすごいんですよ、コラーゲンたっぷりでお肌つるつる間違いなしですって」
「……まぁいいけど」
まだ不満そうだが、俺は気にせず屋台ののれんをくぐった。
「うぉらっしゃい!」
「あ、クラッチきてくれたんや」
「おう」
クラッチってのは高校時代からの俺のあだ名。
にっこりと笑うと、タオルを頭に巻いたクラッチも笑ったが俺に続いて暖簾をくぐった壱さんを見てぎょっとしたように固まった。ちなみに店のおやっさんも。
壱さんはそんな態度にはなれっこであるらしく、店をちらっと一瞥して何事もなかったように俺の隣についた。
メニューはクリアケースに挟まった手書きの紙が一枚。
少し後れておしぼりを置いたアツシはぐいっと腕をふって顔を近づけていた。
「おい、なんだよあの美人!」
そして“大きな小声”で言った。
「すっげぇじゃん。男…だよな?何、芸能人?それともモデルかなんか?」
興奮するアツシに苦笑する。
「壱さんは一般人だよ、うちのバイト先の先輩」
「まじで?!壱さんってんだ!な、な、紹介しろよ」
「紹介って…」
少し困っていると、「アツシィ!」ととおやっさんがアツシを呼んで、彼はしぶしぶ戻っていった。
友達ならばいくらでも紹介してやってもいいが、壱さんは特殊だから少し困る。
「壱さん、ここネギラーメンがおすすめですよ」
「ふぅん」
「あと餃子も頼みましょうよ。あ、あとお酒も飲みます?」
ついバイト中のように世話をやくと、壱さんは少しあきれたような顔をして任せるといった。
「じゃ、ネギラーメン二つに餃子、あとジョッキ一本」
「はぁい」
お客は俺たちの他にカップルが一組…と、隣のテーブル席に学生っぽいのが何人かいた。
彼らは一様に壱さんを気にしていて、連れの俺としてはなんとなくくすぐったい気持ちになる。
「壱さんって普段何してる人なんすか?確か一つ上ですよね」
「なんだよ、俺のプライベートが気になるのか?」
気になるといったら気になるので、はいと頷く。
壱さんは頭のいい人だから、聞かれて都合が悪ければ適当に嘘をついてくれるだろうからその点は気兼ねがない。
「学生ですか?」
俺が聞くと「違う」との答え。
「え、勤め人?」
「て、言えばそうかな」
「モデルとか?」
「なんでそうなるんだよ」
壱さんは煙草をくわえながらおかしそうに笑う。
俺はあわてて胸元からライターをとりだし、火をつけてやった。
壱さんは小さく頷き、煙を吐くと体を近づけ「本業はホストだ」と小さな声で言った。
「ホ…ま、まじですか?」
思わずジロジロと壱さんを見ると、彼は機嫌良さそうに肩を揺らしていた。
「冗談ですか?」
「いや、マジ」
俺は思わず「うわ~」と声をあげてしまった。
壱さんがホスト!
似合いすぎるというか転職というか…。
「もてるでしょー?」
「誰にいってんだよ」
さらりと言っても嫌みがない。
むしろ納得。
いやまて?ホストやってるってことは、壱さんは女もイケるってことか!
なんかもう色々とこの人は化け物じみているとくらくらした。
「じゃぁ、そっちでもナンバーワンすか?」
俺の言葉にちらりと流し目をくれる壱さん。
俺じゃなかったら確実にノックアウトされていたに違いない。

ネギラーメンはやっぱり絶品だった。
豚骨のだしがきいている白濁したスープに、手作りだという厚切りのチャーシュー、茶色く色づき黄身が蕩けている煮卵、麺は黄色い縮れ麺、そしてすべてを覆い隠すような大量のネギ!
餃子もここのは皮が薄いからパリッパリで、中がすごいジューシーでニラがきいている!
やっぱ旨いわ。
アツシが惚れ込んでバイトに入ったのがよくわかる。
はっきりいってここのラーメンはそこらにある行列のできる…なんて銘打ってる店の倍は旨い。
ちらっと壱さんを見ると、彼も満足そうな顔をしていてなんだかほっとした。
「壱さん、どうです?」
「ん、あぁ旨い。久々にラーメン食った」
「そうなんですか?」
「あぁいつもはコンビニ弁当だし、じゃなきゃ酒ばっか」
「うわぁ、不健康そう」
「んなもんだって」
のわりには炭水化物がどうとか店に入る前は言ってた気がするが…まぁいいか。
「料理なら女の子にやらしたらいいじゃないですか。壱さんになら金払っても家事したがる女はいっぱいいるでしょ」
「やだね、下心のある女の手料理なんて。考えただけでぞっとする」
その言い方が本当に嫌そうだったので、俺は過去に何かあったのかな?と邪推した。

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