スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

野獣の右腕

とりあえず短編 ヤクザものが書きたかった。
森岡利彰 と 柳生

その部屋には煙がもうもうと立ち込めていた。
木製のテーブルを囲んだ男たちは4人。いずれもスーツ姿。口にはタバコをくわえている。
一人目の痩せた男は帳簿と手元の紙を忙しく見比べていて、二人目のでっぷりした五十代くらいの男は耳にイアホンを入れて札を数えている。
三人目は一見普通のビジネスマン風で三十代くらいか。東芝のノートパソコンをにらむように見つめ、鬼のような早さでキーを打っている。
そして最後の一人。それが彼だった。
4人の中で一番若い。
そしておそらく私よりも若い男が彼だった。
黒く艶やかな髪を軽く撫で付け、葬式の時に着るような深い黒のスーツを着た男。
自己紹介を受けるまでもなく、間違いなく彼がそうだとわかった。
森岡利彰。
弱小で潰されるのも時間の問題と言われた森岡組の一人息子。
たったの五年で、関東圏の勢力図を書き換えた男。
この世界で一番ホットな男。
誰よりも頭がキレる、冷酷で大胆で、凶暴で運を味方につけていると言われる男。
深く尊敬され、深く憎まれ、深く恐れられる男。
私はそれを意識した瞬間に自分のからだが震えるのを感じた。
足元が心もとない。
心臓が早鐘を打つ。
それぞれがそれぞれに真剣に作業をする中で私はかけるべき言葉を失っていた。
私はただ突っ立っていた。
案山子みたいに。もしくは、コート掛のように。
そうして永遠にそうしていなくてはならないのだろうかと思っていた頃、彼が…森岡利彰が顔を上げ、こちらを見た。
そして何かに驚いたように目を見開いた。
「お前は?」
もしかして私が部屋に入ったことに全く気づいていなかったのだろうか。
きちんと挨拶をしてから入室したのだが…。
「桐生会の柳生です、日暮さんに派遣されてきました」
「あぁ、桐生のとこのやつか」
彼はそういって上から下までじっとみた。
「年齢は?」
「24になります」
「俺の一つ上か」
彼はそう言って立ち上がると、ついてこいと俺に言って廊下に出た。
彼が向かったのは突き当たりの部屋だった。
彼の事務室かと思ったが、普段は会議室に使われているらしいガランとした部屋だった。
奥には窓がズラリと並んでおり、明かりをつけずとも差し込むネオンの光で部屋は明るかった。
「銃を扱えるそうだな」
私は森岡の言葉に頷き、(桐生会の)若頭に言われて、韓国とアメリカで射撃の腕を研いた事を言った。
「鉄砲玉か」
森岡の言葉に私は首を傾いだ。
「いえ、捨て玉にそんな金はかけないでしょう。私は若頭は“これから何度も働いてもらう事になる”と言われてましたから…」
「私設の殺し屋ってわけか」
私は何も言わずに頷いた。
若頭は今でこそ森岡に叩かれ彼の忠犬になっているが、前はかなり激しい人だった。俺はその彼から“切り札”だとよく言われていた。
「仕事をしたことは?」
「“留学先”で何度か」
「無事にここにいるってことは首尾に間違いはなかったわけか」
「一応は」
だが、やった仕事はすべて難しいものではなかった。
「こちらでの仕事の経験はないわけか」
「はい、街を歩いて地理を覚えることはやっていましたが」
答えながら、彼は私に仕事をさせる気なのだろうかと少し緊張した。
やるなら誰だろう。
関東圏は彼に掌握されている…とは言っても、弾き出されて不満を持つものや、稼ぎが減って苛立っている者なんかもそれなりにいると聞いている。
緊張した私を見て、森岡は薄く笑った。
「頭は悪くなさそうだな」
はいともいいえとも言えず私は黙りこんだ。
「近いうちに仕事が入るはずだ。ハジキはこちらで用意するが、何か希望はあるか?」
「いえ」
やはりそういうことか。
私は内心で覚悟を決めながら首を横に振った。
「銃以外の扱いは?」
「ナイフと格闘術は仕込まれました」
「そうか、ならばそちらの方が都合がいいかもしれないな」
真剣な目に私は心臓が壊れるほどに高鳴るのを感じた。
「ナイフなら、自分が使っているのがいくつかあります」
彼は私の言葉に満足そうに頷くと、「ならば決まりだ」と言った。
「お前は今日から桐生会のもんじゃない、俺のもんだ」
「え…?」
驚く私に彼はすでに話は通してあるという。
そう言われてしまえば、私には逆らう余地はない。
「明日からお前は俺の専属ボディガードということにする。すぐに引っ越せるか?」
「…まぁ、はい」
話の展開の早さに私はよくわからないままに返事をし、それから「引っ越しですか?」と慌てて聞き直した。
「あぁ、俺がすんでいるマンションに一緒に住んでもらう事になる」
「は?え、一緒に住むんですか?」
驚く私に彼はあっさり頷いた。
「あぁ、悪いがそうしてもらう。表だって敵対するような勢力は一通り潰してはいるが、腹に一物抱えているやつはまだまだいるんだ。お前には存分に働いてもらう必要がある」
なるほど、殺しの他にも身辺警護の仕事をさせられるらしい。
それはいいのだが…
「はぁ、…いや、でもいきなり俺を信用して大丈夫ですか?…もちろん信用していただけるのは嬉しいですが…」
彼は私に寝首をかかれる心配はしていないのだろうか。他人事ながら心配になる。
「そうだな、もっともな質問だ。だが、お前は信用できるというのが俺の勘だ」
「勘ですか」
「あぁ。俺は勘ってやつを信じるんだ」
他の人間が言ったなら私は失笑したに違いない。
しかし言ったのが森岡となれば話は別だ。
私は彼の言葉に感動すら覚えていた。
「…わかりました」
「本来はあと二人か三人雇い入れる予定なんだがまだ適当な人間がいない。しばらくはお前一人だ。いいな」
「はい」
荷は重い。
しかしそれだけやりがいもあるだろう。
私は自分が、宝探しをする小学生のように胸を高鳴らせているのに気づいた。
こんなにワクワクとした気分を味わうのはイツぶりのことだろう。
森岡はそんな私を見て目を細めると「期待している」と言って、私の肩に手を置いた。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。