スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

パシっていいですか

とりあえず短編 リズムが悪い。

やばい。
なんか本格的に具合悪いかもしれない。
足元がふらふらする。視界が狭い。暑いはずなのに冷や汗がだっらだら出る。動悸に息切れ。何より喉の乾きがはんぱない。
気分は砂漠の真ん中をさまよい歩く遭難者。

「おい、大丈夫か?」

ふと気づくと俺は路肩にしゃがみこんでいた。
どうも一瞬記憶が飛んでいる。気を失っていたのだろうか。
「大丈夫か?なぁ」
「え…?」
声に顔を上げる…が、視界が半分以上閉じていて人物は影にしか見えない。
声からそれが若い男であるということくらいはわかるのだが。
「お前、顔色ひどいぞ?」
だろうな…と思いつつ、俺は後ろに手を回すと、ジーパンの後ろポケットから財布を取りだし彼に差し出した。
「あ?なんだよ」
「パシっていいですか?」

男が財布を受け取った数分後、俺は通りかかったタクシーの運転手に助けられた…らしい。

 ※

気がつけば、俺は病院のベッドで点滴を受けていた。
倒れた原因は、半ば予想していたが、睡眠不足と栄養失調、そして熱中症のトリプルコンボだった。
医者は半ばあきれながら、そして半ば本気で死ぬところだったぞと言い、看護婦は口酸っぱく健康管理について説教されてしまった。
割と本気でヤバかったらしい俺は安全をとって二日間入院させられ、そして退院した。
財布のない俺は、もちろん退院時に金を払うことは出来ず。後日ということに。
……財布…。
運ばれてきた時、財布を持っていなかった俺に、看護婦がもしかしたら盗られたんじゃないかと言ったのだが、倒れる寸前に俺自身が誰かに渡したのを思い出し、すすめられた被害届を出すことはしなかった。
にしても…ついてないな。
看護婦に持たされたスポーツドリンク片手にアパートに向かいながら、俺はなんとなくもう財布は戻ってこないような気分になっていた。
財布の中には何が入っていたっけ。
一万円くらいは入ってたかな?いや、入ってないな。5000円くらいか。
それから某ショップの会員証に、レンタルショップの会員証、歯医者の診察券、ファストフードの割引券…。キャッシュカードは入れていなかったはずだからそれについては大丈夫。
あとー…あ、学生証だ。
ますます最悪だ…と思ったが、もしかしたら学生証を見て学校に届けてくれた可能性も…?
そう考えると俺は少し気分が明るくなった。
二日の入院費用は大きな出費で、実家に連絡し金を振り込んでもらわなくてはならなかったから僅かな金でも回収できるものは回収しておきたかったのだ。
「とりあえず、帰ったら保険証探しとかないとな」
支払いは明日いくことにして、学校に財布が届いていないか確認もしなくてはならない。



翌日、母親に振り込んでもらった金で入院治療代を払った俺は、その足で大学に向かった。
しかし期待していた財布は届いておらず、俺は肩を落としてうなだれた。
しかも二日も無断欠席していたにも関わらず、友人たちはサボりだと信じていて心配のしの字もしてくれない始末。俺が倒れた原因は半分以上彼らにあるというのに。
入院代を半額出せ!っといいたかったが、俺の友人は揃いもそろって金欠病だ。
全く期待が出来ない。というか、するほうがアホだ。
ムカついた俺はそのままアパートへと戻った俺は、そこで彼を見つけた。

「あ、帰ってきたし」

「は?」

アパートの俺の部屋の扉に背を預けて、高校生くらいの男が座っていた。
襟足の長い薄い茶色の髪、かなりの美人…だが、喧嘩でもしたのかあちこちに怪我をしている。
服装はちゃらちゃらした感じで、指にゴツいリングをいくつも嵌めている。見覚えのない男だ。
「誰?」
「なんだよ、覚えてねぇの?薄情だな」
立ち上がると、彼は思ったより小柄だった。といっても俺が180ちょっとあるから、170ちょいはありそうだけど。
しかし、誰だったか。向こうは俺のことを知っているようだが…。
じっと顔を見つめるが…思い出せない。
「あんたなぁ~…パシらせた相手くらい覚えてろっての。しかも財布預けたまんまでさぁ」
彼は俺が覚えてないと悟ったのか、可笑しそうに笑っていった。
「あぁ、もしかして、あのときの…?」
「思い出した?あそこ近くに自販機なくてさ、少し離れた場所まで買いにいったんだよ。んで帰ってきたらあんたいないし」
「あー…そっか。悪い…なんかタクシーで病院に連れてかれたみたいでさぁ」
「なんだよ、人パシらせといて」
そういって彼は財布を返してくれた。
中身を確認したい衝動にかられたが…まさか、届けてくれた本人の前でやるわけにはいかない。
「それにしてもよくここがわかったね」
「んなの、学生証にあったし、それにここショウ…ダチの家の近くなんだよ」
わざわざありがたいことだ。
「そうか、ありがとう。寄ってく?茶くらいなら入れるけど」
ドアを開けて言うと、彼は少し考えコクンと頷いた。
このアパートの部屋は対して広くない。
扉を開ければほぼすべてが見渡せる。
すぐ左手がキッチンで、右手がバストイレ、奥がリビング兼寝室。それで全てだ。
興味深げに見る男を奥におしやり、アイスコーヒーとスロットの景品でもらったチョコレート菓子を用意した。
「はい、どーぞ」
「サンキュ、大神誠(おおがみまこと)さん?」
「あぁ」
「俺、ナツルね、伊織ナツルっていうの」
「伊織くんね」
「ナツルでいいっての」
彼は名字で呼ばれるのが嫌なのか、少しぶっきらぼうに言った。
「あんた、大学生なんだろ?年上じゃん。あ、敬語つかったがいい?」
「どうでもいいよ、気にしないし。ナツルは高校生?」
「そ、近くの公立。アホしかいないとこ」
彼は高校二年で俺の二つ下。所謂不良というやつで喧嘩ばかりしているのだそうだ。彼についている傷もつい先ごろ喧嘩をしてつけたものらしい。
「久々に学校にいこうとしてたら、なんかうずくまってる人いるし。しかも人、パシらせられるし」
俺をパシらせるヤツなんていないよ?と愉快そうに笑うナツルは喧嘩の腕はかなり立つ方なのだろう。少し誇らしげな顔をしている。
「っでなんであんなことなってたの?」
「あー、あれなぁ」
俺がタバコを取り出すと、ナツルが一本をねだったので仕方なくそれを渡してやる。
「三日間夏風邪で寝込んでてろくに食べてなかった時に飲み会に引っ張られてさ。店が揚げ物しかねぇの。で、食えるもんがないからひたすらタバコ吸って時間潰して…ダチのとこ転がり込んで酒飲んでさぁ」
話している途中でナツルはくつくつと笑いだしていた。
「いや、笑い事じゃねぇし」
「そうだけど、うける。アホじゃん。なにやってんの、あんた。っつか、大学生ってアホなの?それともあんただけ?」
「いやいや、一応俺の学部偏差値高いからね?」
「えー、まじかよ」
「マジだっつの。将来はエリートだぜ?」
「お、じゃぁ俺、将来のエリートに恩を売ったわけだ」
ナツルとの会話は面白かった。
互いの学校の話や、彼の喧嘩の話。俺の地元の話に互いの趣味であるバイクの話。
気づけばすっかり夕暮れになり、一緒に飯を食いに行くことになった。
財布の礼ってことで近くの中華屋に向かい、互いにラーメンつつきながらまた長々としゃべって携帯番号交換して。
そして、俺たちはそれから急速に親しくなった。

これから長い長い付き合いになる…なんて事は、まぁ多少予想はしていたが…。しかしそれ以上の事には、この時には当たり前だが全く考えていなかった。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。