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案山子の御話

バーチャル 近未来

地下の大きな部屋のほとんどは“それ”で埋まっていた。
真っ黒で巨大なマシン。
緑色の小さな光をチラチラと点滅させ、ブゥンと唸っている。
その部屋には人ひとりがようやく通れるスペースがあり、その先に人ひとりが座れる場所がちょこんとある。
“それ”は私が“彼”から受け継いだものだ。
“彼”は私を置いてどこかへ行ってしまった。
永遠のある場所、最後の遊園地、またはリンゴのランプが灯る部屋に。
私は“彼”の役割をつぐことにした。
一週間ほど迷って決めたのだが、別に悩む必要はなかったのだと“彼女”になって気づいた。
“彼”につながる手がかりはこれしかない。

私はどこでも行ける。
そしてどこにも行けない。



いつものように街を歩いていると、私を私と知る男が声をかけてきた。
「やぁアリス、お出掛けか?」
「おん、ちょっとな」
私は関西弁でしゃべったが、おそらく彼には「えぇ、すこしそこまで」とすこし舌足らずな少女の声に聞こえたはずだ。
エプロンドレス姿の、愛らしい少女の外見に相応の。
フリルをふんだんにつかった赤いドレスに白いエプロン。ひざ丈のドレスの下には白いハイソックス。そして赤い靴。頭にはヘッドドレス。
髪は背中まであって、なんていうんだろう、いくつかにわかれてくりっと…コロネのように毛先が巻いている。
顔立ちは基本的には日本人顔だが、色が白くて瞳が少し大きく“デザイン”されている。
そう、この体は“彼”が用意したものだ。
顔がスマイリーマークな、コートの男は私には似合わないと、こんな少女趣味な体を。
最初はこんなロリな姿…と敬遠していたが、わざわざ“彼”が用意してくれたものだ。
近頃ではなれてしまった。
「そういえば東区の方に新しい店がオープンしたらしいよ」
「東区に?」
「そう、洒落たバーだよ。入り口を見つけるのが難しいらしいけど」
「へぇ」
「僕も無理だったんだよね、でもアリスならきっと入れる。興味があったら行ってみたら?」
「そうだね」
私は“愛らしく”コクンと頷くと、彼と別れて東区に向かって歩き出した。
特に予定はなかったのだ。それもいいだろう。
この世界では瞬間的に思った場所に出るなんて簡単だけれど、私は歩いて移動するのが好きだ。
時々危険なこともあるけれど、私に手をだすような人はまず素人といっていいから気にしない。

今日は曇り。
いまにも泣き出しそうな重く垂れ込めた雲り空だ。
地区のオーナー次第だが、一雨来るかもしれない。
私は東区の新しい店とやらに行く前に、傘を買いに雑貨店に入ることにした。
女性が好みそうなかわいらしくこじんまりとした店内。
中にはぬいぐるみやペン、メモ帳、マグネットなどこざこざとしたものがところせましと並べ立てられている。
私が店を見渡していると、「こんにちわ」と奥から黄色のエプロンをつけた若い男性が出てきた。
「全部手作りなんだ。安くしとくから、気に入ったのは気軽にいってね」
「手作り?あんたの?」
花の髪留めやビーズのリングも彼が作ったものだろうか。
「いくつかは知り合いが作ったものだけど」
まぁ、この世界では外見なんて芸能人の熱愛発覚ほどどうでもいいものだ。
「ふぅん。傘を探しとるんやけど」
「傘?傘ならこっちだよ」
傘はショーウィンドウの裏側のスペースにあった。
白い洒落た傘立てには、女の子向けの傘が10本ほど刺さっていた。
どれもサイズが小さくてやたらと少女趣味なものだ。ピンク色にクマの図柄とか、白地に大きな赤の水玉+ふりふりとか、ゴスロリっぽぃ黒の傘とか…。
「もしかして日傘?」
「いえ、兼用ですよ。あと、簡単なのですが防壁もついてます」
「ふぅん」
私はいくつかの傘を開いたり閉じたりした後、赤いワンピースに合わせて赤い傘を選んだ。
「大人用だから少し大きいね」
「そうか?」
「少し小さくしとこうか」
よくわからないが、店員がいうのだからそうなのだろう。コクンと頷くと、彼は魔法をかけるように指をくるくると動かした。
チチンプイプイ。
そんな感じ。
すると、私が持っていた傘は少しだけ小さくなった。
「うん。それでいいよ」
「ありがと。これなんぼ?」
「6500クレジット。だけど6000でいいよ」
傘…にしては少し値がはる。しかしそれだけの価値はある意匠だ。
「今なら、クマのキーホルダーも上げるよ」
彼は私が迷っていると思ったのか、そんなことを言って近くの棚から黄色いクマのついたキーホルダーをとった。
「どう?」
私はぷらぷらと揺れるクマを見ながらコクンと頷いた。
私自身は欲しいとは思わないが、この“ペルソナ”にはそれがとてもよく似合う。
交渉が成立すると、彼はカードを取り出し、私はそれに触れた。
これで決済は完了だ。

外に出るとタイミングを計っていたかのように雨がふりだした。
案外本当に計っていたのかもしれない。
傘にあたるパタパタという雨の音が耳に心地いい。
私は名も知らぬ歌を口ずさみながら歩き出した。

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