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Sledgehammer 32

駄文 読み返さない

利用しているライブハウスのひとつに、毎月一回パーティを企画しているところがある。
毎回テーマは違うが、“往年のオールディーズをロックにアレンジ”とか“アニメ主題歌特集”とか“マニアック!フランス映画挿入歌”とか、ジャ○ラック的にはアウトっぽいテーマを掲げて大いに盛り上がる。
俺らも何度か行ったことがあるが、あれはなかなか面白い。
といっても、参加したのは演奏する側ではなく観客側でだ。
“1980年代でフィーバー!”って時は、女の子はみんなボディコンスーツ(?)着てて、ふわふわのついた扇をふっていて面白かったし、“社交ダンス部☆”ってやつの時はみんなフォーマルでドレスアップして、フロアでワルツを踊ったっけ。
企画は毎回好評であるらしく、チケットはかなりのスピードで売れてしまう。
普段はパッとしないライブハウスなのだが、この時ばかりは違っていて、噂によるとライブハウス側はその一回で一ヶ月の採算をとっている…なんてことも言われている。
いや、実際それくらいすごいのだ。
チケットが数倍の値で転売されたり、真剣に忍び込もうとする奴が出たりするくらいには。

そんなライブにお誘いの話がかかった時、俺やエッジはともかくセシルは渋った。
近頃真面目にライブ活動をしていたもので、少々音楽活動に飽きているのだ。
俺達のバンドというのは、他の“ちゃんと”バンドしている所と違ってかなり不真面目だ。
はっきりいって、そんな奴らに俺達の活動方針(やりたい時にやる…みたいな)はきっと許されないものだろう。真面目にやらないし、音楽会社から声をかけてもらってもスルー、ライブも時々ドタキャン、その割に人気はそこそこ。まぁ、同業者(?)にはかなり嫌われている。それで喧嘩を売られたことだって何度もある。

「やりたくない」

ブスッとしていうセシルを見て、俺とエッジは目を合わせた。
「…俺は別にどっちでもいいぜ」
エッジはひょいと肩をすくめていう。
「あ、でも、ギャラいいんだっけ?」
「あぁ」
普通俺達のようなバンドはカツカツで、ライブで稼ぐという意味合いは殆ど無い。
ライブといったって、誰もやってくれと頼まれて開催するわけじゃない。
自分たちがやりたいから、自分たちで企画してやるのだ。
ライブハウスとか機材の料金をチケットでなんとか採算合わせるくらいで、ギャラなんてほとんどあってないもの。
いや、むしろ赤字だしているバンドの方が多いかもしれない。
だが、例のパーティは主催者がライブハウス側だ。
だからこそちゃんとしたギャラが入る。
まぁそれだって決して多いとは言わないが、それでも俺たちにとってはなかなかな額。
「なんぼ?」
大阪の商人みたいな言い方で聞いたエッジは俺が告げたギャランティにヒュゥと口笛を吹くと、セシルの方を伺いながら「やっぱりでたいかもなぁ~」なんて言った。
それで芳しい反応がかえってこないと見ると、「それでどんなパーティ?」と俺に顔を戻す。
俺はオファーをもらった時に受け取ったチラシ(の叩き台)をエッジに見せた。
ちなみに開催日は、今から1ヵ月少し後。参加予定のバンドは7組である。
「コスプレ・ナイト?」
「あぁ、なんでもいいからコスプレするんだと」
「コスプレって着ぐるみとか?」
「じゃないか?」
そういうとエッジは面白そうだと一気に乗り気になった。そして某所にある貸衣装店の話をしだした。
そこは中学や高校の文化祭でとてもお世話になっていたらしい。
一般的な結婚式などのフォーマル衣装はもちろん、きぐるみや警察官、ナースなどの衣装も置いてあるらしい。
ものによって値段は違うが、1着3000円くらいから貸し出してもらえるらしい。
「へぇ」
コスプレなんかには全く興味は無かったが、エッジに話を聞くと少し面白そうだな…と思えるようになった。
「やろうぜ、俺、戦国武将とかやりたいなぁ~」
そりゃ賃料が高そうだ。
だが確かに面白そうではある。
戦国武将がギターもったり、ドラム叩いたりするのだ。なかなか見栄えがしそうじゃないか。
かなり演奏しづらいだろうし、暑いだろうが。
セシルはどうか…と、彼の方を見ると、彼は床で寝そべってスライムみたいにドロドロに伸びていた。
俺が不機嫌に眉を潜めると、エッジが「まぁまぁ」と俺をなだめる。
可哀想に、エッジもまたセシルに慣れかけているらしい。
哀れみの目で見ていると、なぜか照れた。きめぇ。

 *

結局、セシルのバイオリズム(?)はその日から完全に底辺まで落ちてしまったらしく、これは諦めたほうがよさそうだと俺は思った。
だが今度はエッジがギャランティに目がくらんだらしく渋る。
仕方なく先方にはどうなるかわからないが…伝えた上で、一応OKを出したものの…セシルは俺が強制しないと喋らないし食べないし眠らないの最悪な状態になってしまった。
完全に病気の域ではあるが、彼の場合、普段が迷惑千万なので、俺としては普段よりも楽に過ごせた。
人形みたいに喋らないし、動かないが、割りと言うことは聞くのだ。動きがゾンビみたいだが。
しかしこれではライブどころではない。
そして、とうとう開催日5日前。やっぱりキャンセルの電話を入れようか…というところになって、彼は突然復活を果たした。
そして喉を慣らすのもそこそこ、衣装は任せてくれと言うと、とそのまま行方不明になってしまった。

 *

そして当日。

楽屋に入ってセシルを待っていた俺達は、「お待たせ」と現れた妖艶な美女を見てぎょっと目を見開いた。
もちろんすぐにそれがセシルだと気づいたが、それでも一瞬マジで誰かわからなかった。
彼は長い銀髪のウィッグをつけ、真っ赤な着物をわざと崩して着ていた。
なんというか…彼は遊郭にいそうな?って、身長180近くもある遊女がいるわけはないのだが、まぁまさにそんな感じの、フェロモンムンムンといった感じの美女になりきっていた。
「毒婦だ」
エッジのひきつった声に俺もまた顔をひきつらせた。
毒婦。
言い得て妙というか。まさにそのまんまだ。
確かに毒婦としか言いようがない姿だ。
虫に例えるなら女郎蜘蛛といったところか。
「似合う?」
にっこりと笑ったセシルに俺たちが何も言えずに言うと、彼は「似合いますやろか?」と、嘘くさい京都弁を口にしてきた。
「似合い…はする」
俺が言うとエッジはその隣でコクコクうなづいた。
「でも、怖すぎる」
「おう、めちゃくちゃこええ…」
似合いすぎて怖いというか…、今にも頭からかぶりつかれて体液全部吸い取られそうで怖いというか…もう、身の毛もよだつほどに恐ろしい。
エッジもだが、俺の顔も真っ青に違いない。
気をつけてないと奥歯がガタガタなりだしそうだ。
そんなことを思いながらセシルを凝視していると、セシルははんなりと微笑み「ほら」と両手に持っていた紙袋を投げつけた。
胸で受け止めたそれの中には…モスグリーンの服が入っていた。
取り出すと中身はどうやら軍服のようだ。しかも俺の記憶が間違いでなければ第二次大戦中のナチス・ドイツの…。
「で、こっちがブーツでしょ、あ、軍帽も。それで…」
と、セシルがもうひとつの袋から取り出したのは…大きな鉤十字のついた旗だった。
「これ、ステージの奥に貼ろうとおもって」
俺もエッジもドン引きだ。
しかし急浮上したセシルは一向に来にした様子はなく、どこからかキセルを取り出すとそれを唇に挟んで、男の精を食らって生きる女吸血鬼のように艶やかに微笑んだ。

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