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愛おしさに流れ

独にょロマ前提ですが、
書きたかったのはロマーナへ無償の愛を捧ぐアントーニョかな
独とにょロマは脇役かも。
中途半端にだけ読み返した。

白い棒には窓が二つついている。
右側の丸い窓のとなりには終了との文字が添えてあり、そちらはまぁどうでもいい。
問題は左側にある、右のそれよりも少し大きな四角い窓の方だ。
そちらにはうっすらとした線が一本出ていて…

「はぁ…」

何度見ても変わらないそれをゴミ箱に放り捨てると、ロマーナはピンク色の携帯電話を手にとった。

 *

翌日。
とある生徒…いや、ルートヴィヒが登校してきた途端、それまで「おはよー」だの「お前、宿題やってきた?」だの「ねむーい」だのとわいわいがやがややっていた生徒たちが一斉に口を閉じ、ぎょっとしたように彼の姿を見た。
それもそのはず。
彼の姿はいっそ満身創痍といっていいほどに凄まじいものだったからだ。
右腕は石膏で固められ吊られており、松葉杖さえついていないものの左足は引きずっている。額にはぐるぐると包帯があり、頬には大きなガーゼが当てられている。その他にもいくつかの絆創膏や紫色に腫れ上がった傷があったのだ。
それがもし普段から“不良”だの“やんちゃ”だのと評される生徒…例えば彼の兄のような…だったならば…ここまでの注目は浴びなかっただろう。
だが普段の彼は“生真面目”という言葉がピタリとくるような優等生だ。
遅刻はもちろん授業をサボることもない。
成績は優秀で、先生からの信頼も厚い。
もちろん喧嘩なんて仲裁に入ることはあれど、することはない。
それが何故あんなに凄まじい姿になっているのだろうか。
これで彼が所謂もやしっこのような体格ならば、誰もが彼を心配しただろう。中には彼を嘲るものも居たかもしれない。
しかし、彼はその点でも違った。
彼は180センチの身長と、逞しい体を持っていた。
とある東洋人などからは「EUの伊達男」と呼ばれ、また片手で軽くスプーンを握っただけでそれを粉砕した事もあると実しやかに囁かれるほどだ。
故に彼を噂する小さな声も…自然と物騒なものになる。
つまり…「あのルートヴィヒをあそこまでやるなんて、なにもんだよ」とか、「ルートヴィヒがあれだけやられるってことは…相手死んでねぇか?」とか、「真面目が祟ってギャング壊滅したとか?」である。
それは少しずつ大きくなり、最後には3つのギャングを配下に収めた…なんてところにまで行くのだが…まぁそれはいい。
彼は注目を浴び、なにやらヒソヒソと噂されているのを感じながら、しかし口の中も切れていて話すことも辛かったのでびっこを引きながらゆっくりと教室まで歩き、席へとついた。
クラスでも誰もが彼を遠巻きにしている。…が、実はこれは彼が怪我をしているのが要因とばかりは言えない。
彼は先にも言ったようにかなり真面目な性格な上に、イカツイ体格をしている。
あまりクラスに馴染めているとはいえないのだ。
だがもちろん友達がいないわけでもなく…
「ルートヴィヒさん?!」
「ヴェ、どうしたの?!」
まもなく小柄な東洋人の生徒と、甘栗色の髪をした生徒が彼の傍に駆け寄ってきた。

*

同日、11時20分。屋上。

「大丈夫?」

フランシスが柳眉を下げて心配そうに覗きこんだのは、濡れたハンカチを目の上にあて、鼻にティッシュを詰めて大の字に寝転がっているギルベルトだ。
うっすらと口を開けているが、フランシスがしばらく待ってもそこから言葉は放たれない。
フランシスは軽く息をつくと、柵にもたれてグラウンドの方を見ているもう一人の友人、アントーニョの方を見た。
そしてゆっくりと彼の傍に立つ。
左側に立って見る彼の右頬は大きく腫れ上がっている。
つい先程ギルベルトに食らったものだ。その他にも彼は拳を痛めたのか、両手に包帯を巻いている…が、これはギルベルトのせいではない。
だがそんなことより何よりフランシスの目を引くのは、いつも微笑んでいるはずのアントーニョの顔に一切の表情がないことだ。
フランシスは何か言葉をかけようとするが失敗して頭を掻く。
そして「あー…」と無意味な言葉を出した。
「えー…と、拳、大丈夫か?」
とりあえず口に出しただけの言葉は、軽く無視される。
フランシスは気まずそうにムニムニと口を動かした後、グランドの方を見た。
グランドではどこかのクラスがサッカーの紅白戦をやっている。
プロのプレイとは雲泥の差。
だが当人たちはとても楽しそうで、はしゃいだ声が彼らのいる屋上にまで聞こえてくる。
フランシスはそれを見るともなしに見ながら言葉を探す。
そして結局見つけることができなかったのか、ひとりごととして言いたいことをつぶやくことにした。
「あのさ、まぁ、お前が可愛い妹分とられてむしゃくしゃするのはわかるよ。俺だって可愛いセー(シェル)ちゃんあたりに他の男が手ぇだしたら、そりゃ殴りたくもなるもんな。うん。わからないでもない」
うんうんとフランシスが一人でうなづいていると、アントーニョが隣でガンッと手すりを拳で打ち付けた。
「あ、いや、うん。わかってるよ。もちろんわかってるって。まさかの妊娠だもんなぁ…うん。そりゃショックだわ」
フランシスは冷や汗を掻きながら慌てて言った。
そう、今朝満身創痍で現れたルートヴィヒ、後ろで鼻血を出して倒れているギルベルト、そしてフランシスの横で無表情のままアントーニョがぐつぐつと起こっているのは先ほどのフランシスの言葉に要約されている。

事と次第を整理するとこうなる。
ギルベルトの弟であるルートヴィヒとアントーニョの妹分であるロマーナは恋人同士として付き合っていたのだが(付き合うまでに紆余曲折があり、また付き合いだしてからも幾つかのトラブルがあったが、まぁ順調にお付き合いをしていた)、それが昨日、なんとロマーナが妊娠してしまったことが判明したのだ。
メールによってそれが伝えられたのはお腹に宿った父親であるルートヴィヒとアントーニョの二人だけだった。
彼らは慌てて彼女の家に向かい…その途中でばったりと出くわし、乱闘になったのだ。いや、ルートヴィヒは一切抵抗をせずアントーニョにされるがままになっていたから乱闘という言葉は適当ではないかもしれない。とにかくそれが今朝の彼が満身創痍であった理由であり、またアントーニョが拳を痛めた理由でもある。
次にギルベルトだ。
彼はつい先程方まで可愛いルートヴィヒが誰に痛め付けられたのか知らず、かなりカリカリきていた。ギルベルトが言った「生かしちゃおかねぇ」というセリフはまんざら嘘でもなかっただろう。
そこにアントーニョが「あれは自分がやった」と告白、お互い一発づつを入れあわやというところでアントーニョから事情を聞いていたフランシスが経緯を暴露。交際を認めさえすれ、キスすら弟にはまだ早いと思っていたギルベルトはその時点でショック死…燃え尽きたのだ。

フランシスはアントーニョの気持ちもよくわかるが、同時にルートヴィヒに同情もしている。
フランシスは恋多き男で、さすがに妊娠させた事はないが何度か女性を挟んでのトラブルに見舞われたことがある。
フランシスはルートヴィヒがロマーナと付き合うまでにかなり頑張ったのを知っているし、避妊を失敗したのはドジだとしかいいようがないが、アントーニョに向かって責任は取るというような事を言ったらしい事については立派なもんだと思っている。なにせ妊娠したのが高校生なら、させたのだって高校生なのだから。大抵の男はその時点で逃げ腰になるだろう。
しかもキレたアントーニョにリンチを受けて無抵抗で逃げもしなかったのだ。
「アントーニョだってルートヴィヒを信頼してロマーナちゃんを預けたんだろ?」
フランシスが言うと、無視を決め込んでいたアントーニョが「だからやアホ」と苦々しげに言った。
「信頼裏切りおってからに!傷ものにしたばかりか、腹膨らましたやて?クソ、もうあと数本骨折ったらんと気い済まんわ」
「いやいや、それはやりすぎだって」
フランシスは慌てて彼を止める。
「いや、別にルートヴィヒの味方するわけじゃないよ?たださ、相手はあのルートヴィヒだぜ。中途半端に手ぇ出すわけはないと思ってるわけよ」
あの奥手でかちかちに固い男がだ。
「わかるだろ?俺が女の腹を膨らませるのとは全く意味が違うだろ?」
言っていて少しむなしさを感じるフランシスではあるが、これは妥当な例えだと言える。
証拠にアントーニョの口は「お前やったら三度は殺しとるわ」という物騒な台詞が飛び出す。
「ま、まぁ、そうだろ?確かに高校生で子供作っちゃうのはアレだよ?けどもう少し信用してあげてもさぁ…」
「何がいいたいねん」
ギロリと睨まれて、フランシスは両手をあげる。
「あー…えっと、ルートヴィヒはお前が思っているよりもずっと誠実な男だと思うよってこと。あとできちゃったものはしょうがない?みたいな?それとこれ以上の暴力は必要ないし…それに…」
言いかけてフランシスはなだめるように彼を見た。
「わかってるだろ?ロマーナちゃんは別にお前にそんなの望んでないってこと」
「……」
「ルートヴィヒに当たるよりさ、ロマーナちゃん支えてやんなきゃさ。そんなこえぇ顔してたらロマーナちゃんだって不安になるぜ?それにほら」
そういってフランシスはグラウンドの端の方を指差した。
そこには二人の生徒が正門に向かって歩いている。
足を引きずるガタイのいい男と、それを支えるようにして歩くチョコレートブラウンの少女。
いうまでもない。ルートヴィヒとロマーナだ。
おそらく熱が出たルートヴィヒの早退にロマーナが付き添っているのだろう。
誰が見ても仲睦まじいカップルの姿にフランシスは「な」と言った。
「別にロマーナちゃんは怒ってもないし、悲しんでもないんじゃないか?」
もちろん全く怒っていない…とは思わないけど…あれで彼女は強いとフランシスは思っている。
アントーニョは彼女が可愛くて可愛くて猫可愛がりしているようだけれど、中身はもう立派な女だ。
女っていうのは一度肝が据わると、本当に強くなれるってことをフランシスは経験上よーくしっている。そしてフランシスは、彼女の肝はとっくに座ってるんじゃないかと思っている。
子どもができたからじゃない。
多分、ルートヴィヒと付き合うと決まってからすぐにだ。
なぜならフランシスは彼女がルートヴィヒと付き合う様になってから“いい女だ”と目を見張るようになったからだ。
これまでガキ臭い女だと思っていたのが、急に“女”になった。
それこそこれまでの自分の目が節穴だったと猛省する程には。
それに彼女はイタリア人だ。
イタリアの女というのはいい意味でとても強い。
妊娠が判明した時こそ、彼女は怒ったし、困惑したし、未来を悲観したかもしれないが…案外一晩明けた今はケロっとしているような気がする。
イタリア人の男性は情熱的だ…なんていわれるが、どうしてどうしてそれを受け止めるイタリアの女だって大した情熱家なのだ。
そんなことをひとりごとのようにぼやきつつ、
「あんまり拗ねてると、ロマーナちゃんに愛想つかされるんじゃないか?」
なんて言ってみると、アントーニョは盛大に渋い顔をした。
アントーニョがいくら認めなかったところで、もう彼女は彼の可愛い妹分ではない。
彼女はアントーニョという兄貴分の庇護から抜け出し、愛する男の腕の中に収まってしまったのだ。
「…偉そうにいいなや」
アントーニョの言葉にフランシスはうんうんとうなづきながら、「でも間違っちゃいないでしょ?」と返す。
するとアントーニョはくしゃりと顔を歪めると、手すりにおいた腕に顔をうずめてしまった。
フランシスはそんなアントーニョの背中を軽く叩いてやりながら困ったものだとため息をついた。
多分きっとアントーニョだってわかって入るのだとフランシスは思う。
ロマーナから届いたメールの内容を彼はしらないが、おそらくアントーニョに泣きつくようなメールではなかったはずだ。
もしかしたらかなりそっけない文章で「子どもができた」ということを伝えただけかもしれない。
いや、そちらのほうが可能性は高い。
そして、だから、アントーニョは手がつけられないほどに怒ったのではないかとフランシスは予想している。
彼は大事に大事に鳥かごに入れて育てていた彼女が逃げ出してしまった事にこそ怒ったという可能性。
そしてまた、彼女がいつのまにか他の人間のもとで囀ずるようになったことに全く気づいていなかった自分に腹を立てていた可能性。
二つは随分と高い確率で“ある”。
つまりそれはルートヴィヒや赤ん坊のことなんて二の次三の次だったのかもしれないということである。
アントーニョがロマーナに向けるものが、恋愛を含んだ愛情だとはフランシスは思わない。
しかしそんなものよりもずっと大きな愛情を彼女に注いでいたのだろうということは想像に難しくない。
まぁそれについてはとても分かりやすい例傍にいた(後ろでぶっ倒れている男)からこそ気づいたのかもしれないが。
フランシスが触れているアントーニョの背中は小刻みに震えている。
泣いているのだろうか?
フランシスはその背中をいくぶん強く叩くと、「しっかりしてくれよ、もうすぐ“おじいちゃん”になるんだからさぁ」とからかった。
それに対してアントーニョは何も言わなかった。
だが肘でフランシスの胸をつついてきたので、“わかって”はいるのだろう。
フランシスはアントーニョの癖のある髪をかき回し、後ろを振り返った。
さて、もう一人の“おじいちゃん”はどうしたものか。

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