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子鹿は落ちる

読み返さない

竜騎士の変わり者といえば、誰もが青竜騎士に所属するある男の名をあげる。
彼はかつてバロンに滅ぼされた国の出身であり、また青竜騎士の副官でもあるサッズという男だ。
彼は誰にも好かれない変わりに、誰からも特に嫌われない。誰からも親しくされない変わりに、誰とでもそこそこ親しくなれる。しかも褐色の肌に鋭い目付き…と、かなり特徴的な容姿をしているにもかかわらず、一度視線をそらすと彼をすぐに忘れてしまうようなところがある。
その変わり者…いや、曲者ぶりは軍の諜報部から何度となく引き抜きの声がかかるほどである。

 *

昼を過ぎた時分。
昼食のピークを過ぎた食堂で彼は一人で食事を取っていた。
今日のメニューは、砂漠で取れる大型のサソリを使った料理だ。殻を外したサソリからとった肉はエビのようにプリプリとしていて白い。それを米やパプリカ、貝などと一緒に香辛料とともに煮込む。変形版のパエリアのようなものと思って差し支えない。
彼は皿に覆いかぶさるような姿勢でガツガツとそれをかきこんでいたが、ふと何かに気づいたように顔を上げると、飯炊き女が少年と話しているのに目を止めた。
少年とは暗黒騎士団に入ってきた、亡国の第二皇子、ウルシラのことである。
彼は食器を返しに来た所であるらしく、飯炊き女に食器を渡していた。
食器は3人分ほどはあるようだ。
おそらく暗黒騎士たちのものを運んできたのだろう。
飯炊き女は食器を受け取ると、それをすぐにカウンターに置き、エプロンのポケットから何か取り出してウルシラに渡している。
多分、飴かチョコレートかそんなものだろう。
サッズは以前にも飯炊き女が彼に菓子を渡しているのを見ている。
ウルシラと女は一言二言会話を交わした後別れ、ウルシラは食堂を出ていき、女は食器をあらためて持つと奥の厨房に入っていった。
サッズはその二人をしっかりと見届け、残った食事を腹におさめると、食器をそのままにウルシラを追うように食堂を後にした。

 *

廊下に出て左右を見るが、すでにウルシラの姿はない。
サッズは廊下を奥の方へと進み、いくつもある中庭の一つに出ると軽くジャンプして2階へと飛んだ。ちょうど廊下を歩いていた侍女が突然現れた騎士にキャッと小さな悲鳴を上げる。彼はそれを無視して回廊になっているそれの向こう側に出ると、ぴょんと飛んで別の塔に移った。
そんなことを数度繰り返して到着したのは3階の塔の壁面だ。
ガーゴイルに似た悪魔を模した彫刻のそばに身を置くと、そこから見下ろす事のできる少し離れた場所の広場を見た。
そこは暗黒騎士たちの溜まり場のような場所だ。
特に決められたわけではないが、北の塔の近くにありあまり陽のあたらないその場所は、暗黒騎士達の好みであるらしくそこで彼らはよく訓練をしている。
広場には今も暗黒騎士3人が暇を持て余すようにしている。
一人は黙々と剣を振るっており、一人は眠っているようだ。そしてもう一人は剣の手入れをしている。それぞれ真っ黒な悪魔を模した鎧甲冑姿。それぞれに鎧の形は少しずつ違っているが、誰が誰かなんてことはサッズにはわからない。
サッズが気配を殺し目を眇めてしばらく待つと、やがてウルシラが駆け足でやってきた。
彼は眠っていた騎士のそばに立って何事かを言っているようだ。
だが男は眠っているのか、それとも無視をしているのか反応を返さない。
ウルシラはしばらく待った後、彼のそばに片膝をついて控えた。
今度はしばらく待っても動きはない。
それでもサッズは待とうと思ったのだが…ふいに剣を振っていた男の視線がサッズを貫いた。
殺意も敵意も感じない。
だが、全身の肌が粟立つような視線だった。
バレていないとは思っていなかったが、視線を送ってくるとまでは思っていなかったサッズは全身をぶるりと震わせると彼らに背を向けて逃げ出した。
「ありゃマズイわ」
ぼそりと彼はつぶやく。
サッズの名誉のために付け加えておくと、決して彼が臆病なのではないということだ。
暗黒騎士を前にしてはいくら豪胆なものでも、神経を逆撫でされるような嫌悪感を感じずにはおれない。
暗黒騎士とはそういうものなのだ。
人間の…いや、いきものの根源を脅かすモノなのだ。

 *

自室に逃げ帰ったサッズはベッドに転がった。
青竜騎士団副長でもある彼は個室を与えられており、部屋には彼一人だ。
サッズは天井を見上げながら、先程見たウルシラの姿を思い出していた。
暗黒騎士団に入り込んだ捨て犬。
ウルシラはこれまで殺されることこそなかったものの、かなりひどい虐待を受けていた。
殴る蹴るは当然のこととして、城の堀に突き落とされたり、熱中症で倒れるまで外を走らされたりとめちゃくちゃをされていた。
城の誰もがそれを知っていたが、暗黒騎士のすることなので誰もが見て見ぬふりをしていた。
それが今日のウルシラは…綺麗なものだった。
絶えることのなかったはずの顔の傷が癒えていた。
顔は憑き物がおちたようにスッキリとしていた。
それに暗黒騎士たちの態度も変わっていた。
ウルシラは、うっすらと闇をまとっていた。

「堕ちたか」

サッズはつぶやき目を閉じると、その上に手首を置いた。

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