スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ゼロの夜想曲 48

舞踏会が終わり、玲治は酔っ払ったルイズを引きずるようにして部屋へと連れ帰った。
そう飲んではいないはずなのに完全につぶれてしまったのは、彼女が元々酒に弱い体質なのか、それともやはりまだ疲れが完全に抜けていないせいか。
無残に引き裂かれたドレス・・・と言えば淫猥な雰囲気になるが、実際には特にこれといった色っぽい話もなかった彼女をベッドに放り入れ、よく眠っているのを確かめると玲治はまた部屋を出た。
向かう先は、長い夜を過ごす際によく使う場所。
学院の屋上・・・いや、屋根の上である。


「旦那ぁ、何をおっぱじめる気ぃですか?」

供に選ばれたデルフリンガーが声をかける。
玲治は彼からよく見えるように屋根の瓦の隙間に剣先を突き入れまっすぐに立てると、フードを跳ねあげローブの中から“破壊のピラミッド”を取り出した。
「旦那・・・それ・・・宝物庫に返したんじゃ?」
「なんだ、お前見てなかったのか?返したのはフーケが錬金したレプリカだ」
「レプリカ?なんでそんなことを?ハッ・・・ま、まさか、そいつを使ってここを灰燼に帰せしめよう・・・なぁんてことは・・・」
刀身をブルブルと震わせるデルフリンガーに玲治は「それもいいかもな」と笑った。
「旦那!」
「冗談だ。冗談。今はな」
「今は・・・って・・・」
絶句するデルフリンガー。
「そんな・・・笑いごとじゃないでしょうがぁ」
「おかしいさ。お前、破壊する力として作られたんだろうが、それなのに力を恐れるのか?」
「・・・そりゃそうですけど・・・。」
もごもごと口(?)の中で言うデルフリンガーに一瞥をくれた後、玲治は手の中の“破壊のピラミッド”こと、ヤヒロノヒモロギを見つめた。
それはかつて崩壊し、新たな世界のゆりかごとなった世界で重要な役割を果たしたものだ。
今、それは全くの空っぽ。何の力も持っていない。
「大丈夫さ。今は。」
ぽつりと玲治は言った。
「旦那?」
「どちらにしろ、今はフーケを倒したときの力は使えない。それに俺は別にただ破壊すること望んでいるわけじゃない。いや、確かにそれも選択肢の一つでもあることは認めるが・・・俺が望んでいるのは・・・もう一度・・・」
「もう一度?」
「・・・・・・いや・・・それはまだ決が出てない」
「ケツ?尻がどうか・・・」
「まぁいい。俺が機嫌のいい理由が知りたかったんだろ?」
話題を切り上げ、デルフリンガーに改めて向き直る玲治は不敵に笑っていた。それを見て、どうもあまり聞きたくないような気持ちになったデルフリンガーだが、ここで「やっぱりいいです」とは言えなかった。
「・・・なんなんですかぃ?旦那」
「まぁ見てろよ」
気の乗らない様子のデルフリンガーを少しだけ笑い、玲治はヤヒロノヒモロギを両掌の上に載せまっすぐに差し出した。
そして、玲治は口の中で何事かを小さくつぶやく・・・。

にわかに雲が月明かりを隠し、学院が影に落ちた。

「旦那?」

不安を覚えたフルフリンガーが一体何事かと問おうとしたとき・・・

「なっ・・・?!」
学園の中から赤い光が一つ二つっとポウッと浮かび上がってきた。
小さな小さな赤い光の粒。それはだんだん数を増やし、まるで鬼火のようにゆらゆらと揺れながら夜空に浮かび上がる。
「な・・な・・・ななななな、何なんですかぃ!ありゃぁ!」
何十、何百と湧き出てきたそれは、最初ふらふらとさまよいながら上空へと浮かび上がり・・・そしてある程度まとまるとゆっくりと回転し、一つの流れとなって玲治の方へと近づき・・・やがて、ヤヒロノヒモロギへと吸収されていく。
幻想的な・・・しかしなんとも言えず背筋の凍るような気味の悪い光景。

「何だったんですかい?・・・ありゃぁ」

しばらくして全ての赤い粒子がヤヒロノヒモロギに吸い込まれた後、落ち着きを取り戻したデルフリンガーがもう一度問う。
「・・・・さっき、お前は俺が随分と少食だとからかったな?」
「え?!いや、別にからかったわけじゃぁ・・・」
もごもごと言うデルフリンガーに分かっているというように玲治は一つ頷き、
「さっきは俺の舌に合わないといった・・・もちろん、それもあるが、一番の理由はそれが殆ど意味をなさないからだ」
と続けた。
「言っただろう?俺は悪魔。人間の食い物じゃ腹は膨れないのさ」
「は、はぁ。なるほど」
「俺の血となり肉となるのもの・・・それは人の食い物ではなくマガツヒだ」
「マガ・・・ツ・・?」
「マガツヒだ。お前もさっきみただろう?」
「あの赤い蛍みたいな・・・?」
「そうだ」
玲治は頷いた。
「でもありゃ一体・・・」
言いかけてデルフリンガーはそれが学園内からフツフツとわいてきたことを思い出した。どこか一箇所からというわけではなく、建物全体から噴出していた。
・・・まさか?
黙り込んだデルフリンガーを見て、玲治がニヤリと笑うものだから彼は耐え切れず「旦那!」と悲鳴のような声をあげた。
「はは。大丈夫だ。別にさっきのは人の魂じゃない」
それを聞いて一旦息をついたデルフリンガーだが、まだ疑惑が全て晴れたわけじゃない。
「じゃぁあれは?」
「あれは・・・そうだな。何と言ったらいいか・・・人の活力、情動のうねり、感情の振幅・・・。」
「?」
「人が人でありうるべきために必要なもの・・・かな」
「よくわからねぇが・・・それを食らうんで?」
デルフリンガーの問いに玲治は頷いた。
「あぁ。俺がいくら望んだ所で持ちえないものだ。」
「・・・やっぱりよくわからねぇが・・・。さっきのマガツヒ?ってのは、旦那の口じゃなくて、その破壊のピラミッドに吸い込まれましたよね?」
「今は食らう必要がないからな」
満たされている。という玲治にデルフリンガーはまたゾッとした。
彼には、今は腹がいっぱいだから大人しくしているだけだ・・・というニュアンスに聞こえたのだ。
「じゃ・・・じゃぁ、その破壊のピラミッドは貯蔵庫ってわけで?」
「貯蔵庫?あぁ。そんな言い方もできるな。だが、これの本来の役割は違う。こいつの本来の目的は道を開くことだ。」
「道って?旦那の元いた世界ですかぃ?」
「いや、違う・・・とも一概には言えないか。」
ついさっきまで金色の目をしていた瞳がいつのまにか赤へとその色を変え、彼が目を細めることで赤が滲んだ。
「何しろ、ごちゃごちゃとルールが入り組んでいるからな。まぁ、どちらにしろ期待していい。退屈はさせないぜ」
くつくつと楽しそうに笑う笑う玲治に、デルフリンガーは目眩を起しそうだった。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。