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子鹿は飛んだ

パラレル
ギルベルトとチビルート
シリアスっぽぃのが書きたい気がしたが、気のせいかもしれない。
気が向いたら続く。 読み返さない

世界的に有名な音楽家だった親父は母親とともに飛行機事故で死んだ。
乗客乗員あわせて160以上の死者を出した大事故。
着陸に失敗した鋼鉄が、真っ赤な炎と黒煙に包まれている様を俺はテレビ越しに他人事のように見ていた。まさかあの中に自分の両親がいるとも知らないで。
まだ遊びたりない18だった俺はろくすっぽキャスターの言葉も聞かずテレビを消し、友人たちと遊びに出かけ、翌日になって訪ねてきた警官に両親が永遠に居なくなった事を知らされた。

転がり込む莫大な遺産と、何処から沸いてきたのかもわからない遠い親戚筋たち。
悲しむ暇なんてなかった。
俺は唯一信用していた弁護士の叔父に財産の管理を任せ、金に群がるように沸いてきた連中は一切シャットアウトした。
そしてそれでも逃れられないしがらみに嫌気がさして住まいを変え、大学受験を取りやめて知らぬ場所で生活を始めることにした。
亡国の片田舎にある城。
元はこの辺りを治めていた領主の家に移り住んだ俺は、近所に住む夫婦を雇い入れて静かに暮らしていた。
働く必要は全くなく、むしろ何もしなくとも財産は日々増え続けている(父が生前録音した音楽や本が売れているのだ)
両親が死ぬ前、俺はフリージャーナリストとして世界を回る夢を見たこともあったが、今はその気力もなくなっていた。
昼過ぎに起きて食事をとり、無駄に広い庭を犬達と散歩して本を読んだり、音楽を聞いたりして一日を過ごす。
隠居生活。17世紀だか18世紀だかの貴族になったような気分だ。
今までは都会に暮らしていたから、田舎では寂しいと感じるのではないかと思っていたが、驚くほど馴染んでいる。

そんなある日、俺を二人の客が訪ねてきた。
ここに移り住んではじめての客だ。
金目当てのコジキか、それとも一躍大金持ちになった悲劇の子息を取材に来たジャーナリストか。どちらにしろ追い返そうと思っていたのだが、応対したばぁさん(雇っている夫婦の婦人の方)が言うにはどうやら違うらしい。
適当にあしらって帰って頂くように言う俺に、彼女は何とか会ってくれないかと言う。
はっきりいって気は進まない。だが世話になっているばぁさんの頼みだ。
仕方なく俺は応接間に向かった。

応接間には二人の客が俺を待っていた。
一人は黒のスーツをぱりっと着た細身で長身の老紳士。
そしてもう一人は…十歳くらいの少年だった。白いシャツに、吊りの半ズボン。膝下までの白いソックス。
金色の髪に青い目。やたらとお上品なおぼっちゃんだ。
俺が部屋に入ると、まず紳士が立ち上がり、続いて子供が慌てたように立ち上がった。
「お忙しいところ時間をとっていただきありがとうございます」
そういって頭を下げた紳士が差し出した名刺には、親父が生前タクトをとっていたことのあるオーケストラの代表とあった。
親父の作品の事だろうかと思ったが、そちらは全て叔父に任せている。
「いえ、それでどのようなご用件でしょう」
ソファをすすめることもなく、立ったまま話を切り出すと、彼も歓迎されない空気を読んだのか少し顔を強ばらせた。
「はい。実はこの子なのですが…」
紳士に背を押されて子供は一歩前に出ると、ちらっと俺を見上げ、すぐにまた顔をふせた。そのいじましい態度が、俺のいらだちを助長する。
「彼はルートヴィヒといい、貴方のお父上が後見人をしていた子供なのです」
「は?」
なんだその話は。
寝耳に水の話に驚く俺に「本当の事です」と男は言った。
「と言っても正式なものではございませんで、金銭的な世話をしてやっていたというだけなのですが」
「…それで」
結局か、金に群がるハエか。
ギロリと睨むと男は心外とばかりに胸に手を当てた。
「いえ、遺産関係で随分気が立っているご様子ですが、私は決して金を要求しているわけではありません」
「へぇ、そうか」
子供を見ると泣きそうな顔でズボンを握りしめている。
「本当です!本来なら此処にも訪ねるつもりはなく、この子の面倒はこちらで見るつもりでした」
「なら今からでもそうしたらどうだ?帰りの飛行機代くらいなら出してやるぜ」
俺はだんだん腹が立ってきた。
遺産については散々な目にあっている。
親父を世話したことがあるだの、昔出資したことがあるだの、遺産の半分は自分にと生前口約束していただの、親父の浮気相手で子供までいるだの…。
次から次に手を変え品を変え…その果てが、親父の隠し子か?
クソッタレが。
「わりぃが帰ってくれないか」
「誤解です!私たちは…」
「おい!お客様がお帰りだ!」
「違うんです!!話を聞いてください!!!」
俺の腕に取りすがる男。俺は乱暴にそれを振り払い、こんな事なら屈強な男を一人二人雇ったほうがよかったと思った。
慌ててこちらにやってくるばぁさんとじぃさん。二人は俺と紳士を見比べてオロオロしている。
全く役に立たない。ならばこちらから出ていくまでだと一歩足を踏み出すと、紳士がまた手を伸ばし、こんどはガッチリと俺の腕を掴んだ。
「お願いです!これだけでも読んでください!」
そして俺に黄なびた封筒を渡した。
俺は読む気などさらさらなかったが、彼はそうしなければ納得がいかないようだったので仕方なくそれを受け取り中を開けた。
『私に万が一が起こった場合に備えてこれを記す』
そんな書き出しではじまった手紙は、確かに見覚えのある親父の筆跡で内心戸惑う。しかし、文字を似せた偽物とも限らない。
手紙には親父らしい簡潔で飾りのない文章で、自分(親父)が間違いなくルートヴィヒの後見人であり保護者であると書かれていた。
そして万一のことがあれば妻(母)にその養育を任せる旨、またその際に妻もない時には、息子ギルベルトに一切を任せるとあった。
くだらない。
そう吐き捨てようかと思ったが、手紙には中にもう一通蝋で封印された手紙が入っていた。
「そちらは奥様かギルベルト様に直接宛てられたもので、私たちは一切の中身を知りません」
紳士の言う通り、古くなった蝋が一部ひび割れてはいたものの、しっかりと封印されたままだった。
そしてその蝋には、我が家の家紋がしっかりと見える。
俺は血の気が引くような思いでそれを開けた。
これは間違いなく本物だと、俺の本能が告げていた。
『愛する妻***、そしてギルベルト』
手紙の書き出しはそうなっていた。
『これを君たちが読んでいるということは、私はすでにこの世にはいないのだろう。私は君たちに最後の別れを告げることができただろうか、それともそれは叶わなかったのだろうか。』
「親父…」
『私にそれを知るすべはないが、最後の瞬間まで私が幸せだったということは疑いようがない。私は口が下手で、思ったことの十分も相手に気持ちを伝える事が出来ない男だ。だが手紙ならば…』
親父の心情を綴る手紙に俺は目の奥が熱くなるのを感じ、俺は慌てて手紙を閉じると目をギュッと閉じて泣き出しそうな衝動を耐えた。
親父…。
「…ギルベルト様」
気遣うようなばぁさんの声。
これをこれ以上ここで読む気にはなれなかった。
「わかっていただけましたか?」
男の声に俺は軽く手を上げ、背を向けた。
「待…「わかったよ」」
俺は打ちのめされた気分だ。
もう親父は居ないのだ。母も居ないのだと…俺はこの時になって初めてつきつけられた気分だった。
「もう、十分だ」
俺はふらふらと歩きながら言った。
「ギルベルト様…」
「では…」
「そのガキは…置いていけ」
俺は振り返ることなく、そのまま自室へと逃げ込んだ。

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