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Destroy 04

よみかえさない
歩いた覚えもないのに、気づけばウルシラはセシルのすぐ前に立っていた。
悪魔を模した兜。その下に透けて見える穏やかな笑み。
そのギャップは目眩を覚えるほどで背筋が凍る。
ウルシラは蒼白な顔をしてセシルを見上げ、小さく口を開き細い吐息を繰り返す。

「ウルシラ」

セシルの小手をつけた冷たい手がウルシラの腕を救い上げ、手のひらに呪われた忌まわしき黒い刃のついた小剣を押し付ける。
柄を握ることの出来ないウルシラの手を包むようにそれを握らせ、「さぁ」とセシルは言った。

「その切っ先を彼の胸に」

唖然とした表情を見せるウルシラ。
未だよくわかっていない彼だが…もう逃げられない。

「いやだ!!!はなせ!!はなせよ!!!チクショウ!!!」

ウルシラはやがてその柄を自分の力でぐっと掴むと、兜の奥でセシルが目を細めたような気がした。
セシルはゆっくりと剣から手を引き、彼の細い肩に両手を置いて生贄へと向かわせる。

少年は引きつった顔でウルシラを見た。
「てめぇ、何する気だよ…な…に、考えてるんだよ!!」
少年はなんとか逃げようと体を暴れさせるが、大の男たちに抑えられていては無駄な抵抗でしかない。
しかしそれでも彼はそうせざるえないのだろう。
両手両足を固定されたまま、首、胴体でなんとか逃れようと体をよじる。
「い、いやだ、やめろよ!!俺が何したっていうんだよ!!!お前らが悪いんじゃないか!!!」
少年は必死に抗議するが、それを言葉に耳を傾けるものはもうここにはただの一人も居ない。
震える両手で小剣を持ったウルシラですら、彼の声を何一つ言葉として捉えることは出来ない。

「ほら、ここだぜ」
そして、少年の右手を固定していた騎士が少年の胸の中心の少し左を指さす。
「あーぁ、せっかくの獲物がお前かよ」
左手を持っていた騎士が嘆くように言う。
ウルシラが戸惑うように左右に視線を泳がせると、「ウルシラ」とセシルがまた彼の名を呼び、注意を少年に戻させる。
そしてトンっと背中を押した。

それで十分だった。

ウルシラはゆっくりと前にすすみ、少年の腰の辺りを跨いだ。
そして膝をおり、小剣を持った両手をまっすぐに持ち上げた。
ウルシラの目は陶酔するようにまっすぐ標的である少年の胸を見ていた。
少年が必死に声を上げるが、それはもう雑音にすら捉えられない。
ウルシラは自分の鼓動だけを聞いていた。
それはひどく穏やかに聞こえた。
胎児の時に聞いたであろう母親の鼓動のように。
穏やかで、心を安らげる、眠くなるほどに短調で優しい鼓動。

その瞬間、ウルシラは笑った。
とても嬉しそうに。とても楽しそうに。

その瞬間、少年は目を見開いた。
驚いたように。信じられないものを見たように。
そして恐ろしいものを見たように。

その瞬間、黒い騎士たちは嗤った。
ざまぁみろ。よくやった。堕としてやった。堕ちてきた。

「――…・・・― ―…!」

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