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きみしだい 04

「まぁ今のうちにゆっくりしとけばいいさ。どうせお前はすぐに本署に呼ばれる。そうなりゃ馬車馬のように働かされるんだから」

一日の業務を終え日誌をつけているルートヴィヒに、スタド署長は楽しそうに、それでいて同情するように語った。そして、
「それより、お嬢さんとは上手くやっているか?」
にやりとからかう。
ルートヴィヒは憮然として「預かっているだけですよ」と返した。
ルートヴィヒは噂好きの老人たちはともかく、上司にはちゃんと事情を説明をして納得させたつもりだ。
だが、肝心の上司はそれをわかっていても、そのネタで若い部下をからかうのが楽しくてしょうがないらしい。
まだ下世話なネタを振ってこないだけマシだが、それでもすこしばかりうんざりしている。
「ルヴェイン本署には何度か連絡をいれて親族の捜索をせっついてるんですが、なかなか真剣になってもらえてないみたいで」
「まぁそうだろうな。彼女はまだ未成年とはいえ、それなりに分別はつく年だ。その上、警察が保護してるんじゃ優先度は下がるだろうな」
「やっぱりそうですか」
「あぁ、なんせ向こうは大都会だからな」
事件や事故は日常茶飯事。
警官が足りないと日々悲鳴を上げている状態だという。
署長も昔は向こうにいたらしいのだが、そのときのことはルートヴィヒは詳しく知らない。
向こうに居た頃は非常に優秀な刑事だったのだとちらっと小耳に挟んだだけで、詳しい話については彼がいつも口を濁してしまうからだ。
「まぁ、彼女のお陰で町が華やかになった。俺としてはもうしばらくは滞在してほしいな」
「確かに賑やかになったのは認めます」
渋い顔でルートヴィヒは言う。
「今までは奥の部屋から出てこなかったご婦人がわざわざ表に出てきて噂話をするくらいですから」
他にも棚の修理の間中傍にはりつかれてうわさ話を聞かされたり、とある家を訪問すれば五人のご婦人が待ち構えていたり。
「しかもまったく人の話を聞いてくれない」
そのくせ、ポロッと言った一言「家畜の世話をしてくれる」だの「料理が上手い」だのはちゃんと聞いていて、あとで尾ひれがついて戻ってくるのだ。始末におえないとはこのことだ。
「はは、外堀が順調に埋められてるみたいだな」
「笑い事じゃありません」
彼女が出ていくまでの我慢…といいたいが、これで彼女の母親が見つかり、家から出ていった際にはなんと言われるのだろうかと考えるとまったく笑えない。
ルートヴィヒが振られたとなれば(もちろんこれは真実ではないが)率先して彼女を探しだし、ルートヴィヒと寄りを戻すように泣きつくか、それとも孫娘たちをこぞって彼にすすめてくるか…。
「とにかく、次の休みにはロヴィーナをつれてルヴェインを探してみますよ」
明後日は久しぶりに休日。その日にはルートヴィヒの変わりの警官が本署からやってくることになっている。
日誌を書き終えルートヴィヒが席を立つと「じゃぁ次はデートの噂が出まわるなぁ」とブルック署長は楽しそうに言った。

*

家に帰るとその日も家畜の世話は終わっており、ロヴィーナはキッチンに立っていた。
今日の夕食は家畜の鶏が今朝生んだばかりの卵(もちろんロヴィーナが拾ってきた)を使ったオムレツだ。上には魚介のトマト煮込みがのっている。
ルートヴィヒはそれを見て心がほわっと暖かくなるのと同時に、仕事の疲れが半分になるのを感じた。
「美味そうだ」
ルートヴィヒが言うと、ロヴィーナは怒りながら照れている…というような複雑な顔をして口の中でなにやらもごもごと呟いた。

二人が向かい合って食事をしているとロヴィーナが「そういえば」と口を開いた。
「今日、またお客さんがきたよ」
ルートヴィヒが途端ギクリとしながら彼女の表情をうかがうと、困惑したように首を傾いでいた。
「ねぇ、ルートヴィヒ。あんた何か変な事は言ってないわよね?」
「…変なこと?」
「そう」
じろりと睨まれルートヴィヒは体を後ろに引いた。
「いや、身に覚えはないが」
その目は盛大に泳いでいるが…別に嘘は言っていない。
何も、誰にも彼は“変な事”は言っていない。彼は事実に沿ったそのままを告げている。
…ただ、向こう側の解釈と理解が想像を遥かにふっとんだ所着地するだけだ。
しかしやはり後ろめたさはある。
ルートヴィヒは喉の渇きに水をごくごくと飲んだ。
「なんだかすごいのよ」
「なにがだ?」
半ば予想はついているものの聞いてみると、ルートヴィヒとロヴィーナの仲を探る思わしげな質問を受けたり、円満な結婚生活心得なるものを聞いたり、姑との付き合い方を愚痴まじりに聞かされたり…らしい。
ルートヴィヒは大きくため息をついて「すまん」と彼女に謝罪した。
「なにしろ田舎で話題に飢えているんだ…。だが害はないと思うから…聞き流しておいてくれないか」
どうせ彼女は母親が見つかればここを出ていくのだから、その間だけでも我慢してほしいとルートヴィヒは言った。
「訂正をまったく聞き入れてもらえないんだ」
そして項垂れる。
ロヴィーナは彼に文句のひとつやふたつ、嫌みったらしく言ってやろうと考えていたのだががっくりと肩を下げているルートヴィヒを前にすれと、それもかわいそうな気がしてきた。
なにしろ彼女自身訪ねてきた人に何度もしつこく、そして時に声をあらげておかしな想像はやめて欲しい、全部誤解だと言ってそれをまるっと無視されているのだ。
一概に彼を責めることも出来ない。
だがそれでも“結婚も秒読み!”みたいな感じで年配の人がやってくるのは本当に疲れる。もちろん彼もそれは同じだろうが。
「そのうち“結婚式では使ってね”って手作りのウェディングドレスを持ってくるかも…」
ロヴィーナがぼやくとルートヴィヒは「笑えない」と言ってイカのリングにフォークを刺した。

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