スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

カーボンシルク

独兄妹 独にょた
気が向いたら続く 兄妹愛

黒のタンクトップに丈の短い皮のジャケット、カーゴパンツにゴツいベルト。編み上げのアーミーブーツ。
フロアにゴツゴツという音を立てて歩く女にナイトバーの客の視線が集まる。
ショートカットの金色の髪がサラリと揺れる。しなやかな手足にくびれた腰、豊かな胸。モデルのような身のこなしに男たちは舐めるような視線を彼女に向ける。
しかし、女…ドイツはそのすべての視線を無視し、まっすぐに進むとカウンターに座るプロイセンの横に腰をおろした。
どちらも目もさめるような美形だ。
しかしドイツは冒頭に記したような姿であったし、プロイセンも白いTシャツにカーゴパンツ姿であったから二人を色っぽい関係には見えない。
むしろ剣呑な雰囲気すら感じさせ、注目していた客たちはなんとなく興ざめした気持ちで視線を彼らから離した。

ドイツが隣につくとプロイセンが軽く手をあげマスターに合図を送る。すると事前に頼んでいたのだろう。マスターは無言でビールを用意しドイツの前に置いた。
「まずはお疲れと言おうか、ヴェスト。スイスでの演習はどうだった?」
ドイツは冷えたビールを一口飲んで「あぁ」と頷いた。
「さすがスイスだな。よく訓練されていた。特に雪の山岳地帯での統率力には舌を巻くものがある。うちも合同演習に向けて随分と兵を叩いたつもりだったが、まだまだ足りなかったようだ」
不満げな顔をするドイツにプロイセンは苦笑を浮かべる。
「それは訓練不足じゃなくて経験不足だ」
「しかしスタートは同じだったのに登頂に半日も遅れが出た。あまりの失策に私は顔から火が出るかと思った」
「ケセセ、スイスの野郎はなんて?」
「…一日の遅れは予測していたが、半日に抑えたのはさすがだと」
「なんだ。誉められたんじゃないか。…知ってるだろ?ヴェスト。スイスは世辞を言えるような奴じゃない。本気で誉めてんだよ」
「半日もの遅れをとってか?」
「向こうは山岳のスペシャリストだぜ?スイスが褒めたんだお前らはよくやったんだろうよ」
慰めるプロイセンをドイツは甘いというようにチラと睨んでため息をついた。
「兄さんのところに1チーム再訓練に出そうと思ったんだが…」
ドイツの言葉にプロイセンは面白そうに目を細めた。
「うちはいつでもいいぜ」
「私ではしごきが足りないようだからな」
私が女のせいか甘く見られるんだとぼやくドイツをプロイセンは笑う。
「んなことはないだろう。お前んとこはうちより厳しいらしいって怖がられてるぜ」
「バカを言うな。うちは兄さんの所に比べると砂糖菓子みたいなものだ」
二人は譲り合うように言うが、実際には五十歩百歩といったところだ。
それでもどちらがより厳しいかを比べるならば、プロイセンの方かもしれない。
しかしそれは彼らの教官を勤める部署の違いだともいえる。
ドイツが一般兵の訓練を担当しているのに対し、プロイセンは特殊部隊の新人の叩き上げを担当しているからだ。
「ところでよう、ヴェスト。お前が留守の間にアメリカから電話があったぜ」
「アメリカから?珍しいな。なんの用だったんだ?」
「軍の訓練に特別講師として参加しないかって」
「なんだって?」
驚くドイツにプロイセンはにやりとする。
「面白いだろ?」
「面白い?あぁ確かにな…というか…」
「ん?」
「いや、時代も変わったものだと思って」
プロイセンは確かにと大笑いする。
「そうだよな。時代はかわったもんだぜ。本当に」
大きな大戦を思い出す二人。
そう、変わったのだ。時代は。
少なくとも彼らの間では銃を突きつけあい、いがみ合う時代は終わった。
もう彼らはイギリスのことをトミーとは言わないし、アメリカのことを“アーミー”と呼ぶこともない。…イギリスは未だにドイツのことを“クラウツ”と呼ぶことはあるが。
「まぁアメリカも大変だよな」
「なに?」
「ほら、米軍の士気低下っつーか、いろいろ不祥事が重なったろ」
「あぁ、それでか…」
そのニュースはドイツでも流れている。米兵が捕虜にいたずらしたとか、遺体に侮辱的な行為をしたとか…そういった類の報道のことだ。
そのせいでもともと反米感情がよくなかった地域では、ますますその傾向が強くかたくなになっているらしい。
「デモンストレーション…とは言ってたけど、まぁぶっちゃけ叩きなおしてほしいってのもあるんじゃないか?」
海外からの視察も入れて、体質改善に真剣に挑んでいるというアピールとともに、実質的にも根性を叩き直してほしいということだろう。
それには彼らドイツとプロイセンはうってつけという所か。
「アメリカも参加するのか?」
「いや、そんな話は聞いていないが、どうだろうな」
「そうか」
久々に手合わせを期待していたのだがというドイツにプロイセンも同意する。
「メタボだなんだっつっても自称“ヒーロー”、自称“世界の警察”だからな。あいつ個人の実力は確かに見てみたいな」
「だろう。だがまぁあいつも忙しいからな」
「お互い様だろ」
俺は違うが。と、プロイセン。
「兄さんはよくやってくれてるさ。で、いつ行くんだ?講師ということは私たちだけで渡米するのか?」
「そういうことになるだろうな。時期はなるべく早くとしか聞いてないからこっちの都合でいいんじゃないか?」
「そうか」
目を細めるドイツ。
獰猛な笑み。
その横顔にプロイセンは一瞬かつての自分が重なって見えた気がした。
「どうした?」
にやにやしている兄が気持ち悪くなってドイツが聞くと、プロイセンはいや…といって視線を反らし「面白くなりそうだな」と呟いた。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。