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可愛い人

火星ダーク・バラード
水島 烈 × アデリーン 本編後 地球
よみかえさない

地球に降り立って早いもので二月が過ぎた。
地球よりもずっと重い重力に最初はとても戸惑い、上手く動かない体に苛立ったものだけれど今では随分なれた。
地球に関する各種の驚きはおいておいて…
火星生まれの人は体が地球の環境になれるまでに随分と時間がかかるのだそうだけれど、私はプログレッシヴだからかすぐに慣れることが出来た。
今はアメリカにある(といっても、国家の概念は随分と曖昧になってしまっているのだけれど)カンザスという州のとある街に烈と二人で住んでいる。
一時は人口過剰と環境破壊で打ち捨てられたこともあった場所らしいが、今は自然を取り戻しており中堅の都市になっている。
私と烈はその街の中心から少し外れた所にあるアパートメントで暮らしている。
彼は私の能力の事を慮って郊外に家を借りようとしたのだが、そんなことに無駄なお金を使うことはないと私が反対してこのアパートメントを借りた。
古いアパートメントで、最新の設備は何もない。
まるで20世紀にタイムスリップしたみたいだと烈は呆れたように言っていたけれど、私はわりとこの生活を楽しんでいる。
わざわざ手でひねらないと水がでない蛇口とか、いちいち手であけなきゃいけない扉とか、3種類しか明るさの調整が出来ない照明とか、天井でからから回る扇風機とか…いろいろね。

 *

「メロンパンの焼き上がりって何時ですか~?」
「あと三十分だ!」
「はーい!…ってことで、三十分後なんですけど…」
「あら、そう…じゃぁ別の用事を済ませてから来るわね」
「はい!ありがとうございます!」

私は現在、アパートメントの近くのパン屋でアルバイトをしている。
火星でもアルバイトをしていたことがあるから、接客には慣れている。
でも、なんだか地球の人たちは、火星の人たちよりも人と人との距離が近い気がする。もちろんそれはこの街の人たちだけってことなのかもしれないけれど…でも、ここの人たちはみんな気のいい人ばかりみたい。例外だっているけれど…ね。
焼きたてのパンを棚にのせ、額の汗を拭っていると「あー、一段落ついたわね」と同じくこの店でバイトをしているユーリが言った。
私より二つ年上で、そばかすの愛らしい子だ。彼女自身はそばかすの事をきにしているけれど、私はチャームポイントだと思っている。
「うん。さ、トレイとトング洗っちゃお」
「おっけー」
二人で並んでお客さんが使ったトングとトレイを洗っていると「ねぇ」とユーリが話しかけてきた。
「アデリーンって、恋人いるの?」
「え?」
「あのね、知り合いの男の子でね、アデリーンの事紹介してほしいって子がいるんだぁ」
「え、えぇ?」
私は突然のことに上手く反応できなかった。
それをどうとったのかユーリはへへへっと嬉しそうに笑う。
「けっこーかっこいいよ~。人気ある男の子なんだ。赤毛の子でね、頭もいいんだよ」
「あの…ユーリ?」
「でね、そのかわりに、私を貴方の保護者って人に紹介してくれない?」
「え?!」
「時々アデリーンを迎えに来る人が貴方の保護者なのよね?あの人っていくつくらいなの?まだ30にはなってないわよね?」
「ちょ、ちょっと」
話が急すぎて頭がおいつかない。
でも、ちょっと…保護者って、烈のことよね?
「なんか危険な香りがしてセクシーだよね~。うちのお姉ちゃんがさ、超好みなんだって!それでね…」
「ゆ、ユーリ!」
「え?」
慌てて話を遮ると、ユーリは驚いたような顔をしていた。
「なに?あ、もしかして彼氏いたの?」
彼氏…の言葉にすぐさま思い浮かぶのは烈の顔だ。
元PDのせいか目付きが鋭く強面。だけどハンサム。ユーリが言うように、今は私の“保護者”ということになってはいるけれど…だけど…
「アデリーン?顔が赤いわ」
「あのね、ユーリ…」
「なに?」
「烈は…、あの人は…」
「うん?」
年齢こそはなれてはいるけれど、はっきりと“そう”だと言われたことはないけれど…。
「えっ、うそでしょ?」
私の顔色を読んだのか、目と口をまんまるにして驚いた。
「アデリーンとあの人って…“そういう関係”なの?!」
「ちょっと!声が大きい!」
今はフロアにはお客さんはいないけれど、裏には職人さんがいるのだ。
ユーリの口を手で抑え、そちらを窺う…と、こちらには気づかずにせっせとパンを作っている。
「もう!」
「ごめん!でも…本当なの?」
顔を赤くしているユーリに私はコクリと頷いた。
今はまだ恋人ごっこみたいな感じだけれど、確かに彼からは私への好意を感じている。それと同時に…それと同じ…いや、それよりもずっと大きい戸惑いも感じられるのだが…。
もし、彼が私と同じように感情波が読めればいいのに。私の半分でも…1/10でもいいから。
そうしたら私の言葉が上辺だけではないこと、心の底から本気であることがわかるだろうに。
いやそれがわかっても臆病な彼は、私が若さがそういう激情に走らせているのだろうと疑うんだろう。
「すごい!じゃぁ、もしかして同棲しているのね?きゃっ!」
ユーリが頬を染めて手で隠す。
一人で盛り上がる彼女に呆れながら、しかし火星でのシャーミアン以来初めて彼の事を相談できる相手だ。実は少し嬉しかったりする。
「それじゃぁコーディにも姉にも断っとかなきゃだめね」
ユーリは一人でブツブツと言い出した。
「はぁ…でもアデリーンに恋人いたんだぁ~。しかもすっごい年上の。やるよねぇ~。歳の差いくつくらいなの?…あ、別に反対じゃないのよ。たしかにおじさんかなぁ~って思わないこともないけどさ、あの人結構ステキだし。それに…そう考えると、アデリーンって彼にメロメロじゃない?」
「え…えぇ」
それは自覚がある。
苦笑すると、「のろけてる!」と彼女は頬をふくらませた。
「いーわよねぇ~、私も彼氏ほしいなぁ~」
アデリーンはやはり苦笑しながらおしゃべりなユーリの話を聞きながら、そっと壁に掛けられた時計を見た。
終業時間まであと1時間と半分。
烈は今日、早めに仕事が終わるといっていたから…もしかしたら迎えに来てくれるかもしれない。
そうしたら今日はどこかで一緒に夕食を食べて帰ろうかしら。
そんなことを考えていたら「もう、何にやけてるの!」とユーリに怒られてしまった。

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