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にっちもさっちも

悪友+ルート バンドもの?

「ルッツ、太鼓やらね?」

夕食の時、ちょうどステーキを切り分けた時にギルベルトは言った。
ルートヴィヒは前後なく唐突に言われた言葉に面食らい、「太鼓?」と間の抜けた声を上げた。
ルートヴィヒの頭の中では、マーチングバンドの赤い衣装をつけ、腰に三つの太鼓をぶら下げた少年がタッタカタっと小気味良くリズムを打ちならしたが…
「アントーニョとフランシスとバンドやろうってなってさ」
どうやら、少し違ったらしい。
「俺がボーカルでフランシスがギターで、アントーニョがベースやんだよ」
で、太鼓が足りないとギルベルトは言った。
「だったら、兄さんがギターも一緒にやって、ドラムはフランシスに任せたらどうだ?」
「それも考えたけどよ、俺、歌に集中するとどうにも手がうごかねぇんだよ」
まぁ合間には演奏もするつもりだけど。
「だからお前が太鼓やってくれよ、ルッツ」
「そう言われても…やったことがないから無理だ」
「大丈夫だよ、ルッツは器用だからある程度はなんでもできるようになるさ」
にかっと笑って言うギルベルトだが、ルートヴィヒとしては素直には喜べない。
ギルベルトの言葉は誉めているように聞こえるが、裏を返せば“器用貧乏”といっているのと変わらない。
何でもある程度まではできるようになるが、ある一定の水準以上にはなれない。
ルートヴィヒ自身自覚をしていることではあるが、面と向かって言われると少しばかり傷つく。
しかしわざわざ“どうせ俺は…”なんて拗ねて見せるのもみっともない。
ルートヴィヒは「考えておく」とだけ言って切り分けたステーキを口に入れた。

 ※

数日後、半ば予想はしていたがルートヴィヒは強引にバンドに引き込まれていた。
高校の使われていない教室に引っ張りこまれたかと思えば、ルートヴィヒ以外の三人はバンドの名前をあぁだこうだと話している。
聞いてみれば彼ら、とにかく思い付いたからバンドを結成してみただけで、かろうじてギルベルトとフランシスがギターを弾ける他は、スコアさえまともに読めない素人集団であった。
ドラムがまったくの素人であったルートヴィヒは、「俺もまったくやったことないねん」というアントーニョに救われたような気持ちになると同時にひどく呆れたものだ。
「こう、かっこいいのにしようぜ!パンツァーファウストとかアルバトロスみたいな!」
「いやだよ、そんな暴力的なの。もっと優雅なのにしようぜ、テ・デウムとかどうよ、意味深でいいだろ?」
「ところでやぁ、俺、カスタネットやったらプロ級やねんけど、カスタネットやったらあかんの?」
「っつーか、こないだギター引っ張り出したら錆び付いてたんだけど、糸?紐?張り替えんのどうしたらいいんだ?」
「俺さぁ、スーツきてやりたいんだよねぇ~細身の黒スーツ。こうシックにさぁ」
「なぁ、ロヴィーノも入れへん?ロヴィーノ、ハーモニカ吹けるんやで~」
だんだんバラバラな話になっていく。
しかしそれに気づいているのか、それともそもそも相手の話なんて聞いてもいなかったのか、三人は平気で言葉を重ねていく。
ギルベルトはギターについてのうんちくを話しだし、フランシスはファッションについてのうんちくを。そしてアントーニョは弟分のロヴィーノがいかに可愛いかの自慢だ。
ルートヴィヒはそんな三人の話を聞くともなしに聞きながら、音楽室から拝借してきたドラム入門の本を読み、そして同じく音楽室から借りてきたスティックを握りこんだ。
そして開いた机をタンタンと軽く叩いてみた。

どれくらいたっただろう。
ひたすらタカタカと机を叩いていたルートヴィヒの指が痛くなりだした頃、
「うっせぇな!デスメタルに決まってんだろう!」
という兄の怒鳴り声がフイに耳に飛び込んできて、彼はビクンと体を震わせて三人の方を見た。
三人はなにやら立ち上がって互いに不満そうな顔をしている。
「あかん、そんなん、ロヴィーノに怖がられてしまうやん!ラテンポップにしよや!」
ギルベルトに向かってアントーニョが主張すると、フランスは大げさにため息をつきながら顔を振る。
「おいおい、わかってないよね、お前ら。ここはやっぱ伝統のシャンソンだろ、シャンソン!」
「おい!俺にそんな女々しい音楽歌えっていうのかよ!」
「ちょ、それは差別的発言だと思うけど?!」
「差別は別にして、俺もシャンソンはどうかとおもうでー。なんで高校生のバンドでシャンソンやねん。ありえんわぁ」
「だろ?やっぱメタルだろう!メタル!」
「いやだよ、あんなうるさい音楽。まぁギルの声にはあってそうだけど」
「あははは、同感や」
「おい、それ全く褒めてねぇようにきこえるんだけど?」
「そういってるし、ねー」
「ねー」
「ゴルァ!!!」
三人を見ながらルートヴィヒは心底呆れた。
バンド名や衣装が決まってないのはいいにしても…楽器もまともに演奏できない、楽器も揃ってない、スコアも読めない(書けない)、もちろん作曲もしたことがない、作詞も多分ない…その上、どんな音楽をやるかまで白紙状態だったらしい。
そんな状態でよく人を誘えたものだと思うが…相手はノリだけで生きているような彼らだ。文句を言ってもしょうがない。
今にも取っ組み合いを始めそうな三人を見て、ルートヴィヒは止めるべきかどうかを迷い…結局やめた。
彼らの喧嘩は仲良くやっていくためのコミュニケーションの一種だ。
邪魔しては悪い。
ルートヴィヒは簡単に帰り支度を整えると、ドタバタとやっている三人の横を通り過ぎると部屋を出た。
結論は後で教えてもらえるだろう。
バンドなんてヤメタ!!と来るか、それとも決まったぜ、ルッツ!!と来るか。
確率は半々といったところか。
廊下を歩きながら、出来ればやってみたいな…と思っている自分に気づき、ルートヴィヒは一人苦笑した。

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