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熱烈視線にお手上げ

ヒムアリのつもりだったが、どうにもアリヒ臭い

夕方、書斎から出てきた私はソファに仰向けになって眠っている火村の腰のあたりに股がって座った。
あくまでそっと。
しかし体重はしっかりとかけて。
まさかこれで起きないわけはない。
だが火村は少しだけ身動ぎしたものの、どうやら寝たフリをしてくれるらしく目は閉じたままだった。
私はそれをいい事に大学時代からの友人であり、女にはめっぽうもてる男の整った顔を正面からじっくりと見つめた。
見慣れた顔…ではあるが、じっくりと見つめる機会はあまりない。
筋の通った形のよい鼻に、薄い唇。男らしい眉、今は閉じられている鋭い瞳。痩せたのか少しだけこけた頬、横になったことでざっくばらんになった硬そうな髪。胸のあたりに無造作になげられた骨ばった男らしい手。日本人にしては太い首はスーツがよく似合い、肩も張って程よい筋肉が服の上からも察せられる。
だらしないネクタイはご愛敬だろう。
この容姿でで一分の隙もなくりゅうとスーツを着られては、完璧を通り越して嫌みでしかない。
ただでさえこの容姿で頭がカミソリのように切れるのだから。

私は赤く染まる部屋の中で五分ほどもじっくりと彼をただ見つめただろうか。
火村としてはいい迷惑だろうが、一度寝たフリをしてしまったのが運の尽きと諦めてもらおう。
私は彼のネクタイを触り、襟を触った。
慎重かつ繊細に。
襟口を指でなぞり、そっと首を触り、わずかに感じる脈を探り、その体温に自分のそれを合わせ、頬を触り鼻を触り耳を触り髪を触り…。
その辺りで我慢ができなくなったのか、火村はそっと目を開いた。
私のものよりも黒が濃い瞳。
彼は苦しげで泣きそうな顔をしていた。
こんな表情を浮かべる彼を、私ははじめて見た。
私が怖いのだろうか?
つとめて笑顔を浮かべ頬を撫でるが、彼はさらに苦しげな表情で目を細めるだけだった。
「どうしたんや?」
そっと聞くと、彼はしばらく躊躇い口を開いた。
「俺にとってお前は最高の謎だ」
彼の言葉に私の胸はギュッと締め付けられた。
しかしその痛みは一瞬で、それはすぐに甘い暖かさにとって代わった。
「いつからや?」
「多分、出会ったその時から」
私の自惚れでなければ…これは愛の告白であろう。
難解な愛の告白であろう。
私は感動に胸が震えた。
そして、私はその瞬間に、恋に落とされた。
まさに。その瞬間に。
もちろんそれまでにゆっくりと下地はつくられていたのだろうが、私が恋を自覚したのはまさにこの時、この瞬間だった。
私はあえぐように口を開き、いくつか息をすると…
「俺にとっても君が最大の謎やな」
かすれた声で愛を告白し微笑んでみせた。
上手く笑えていたかは微妙だが…彼には私の心がちゃんと伝わったようだった。
彼は顔をくしゃりと歪めると、私の名を呼び引き寄せた。

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