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Sledgehammer 30

読み返さないよ

対バンでのライブ。
いつものごとく難解な歌詞で、セシルがラブソングを歌う。
観客の入りは上々。程良くアルコールの入った客はあったまっていて、のりもいい。
悪くない。
嘘だ。最高にイイ。
勃っちまうほど。
イッちまうほど。
久々にハイになった。
いつもより伸びのいいギターの音、音響もいい仕事してるし、何よりいつもはなんとなく癪に障るセシルの声が気にならない。
最高だ。
だけど…それは唐突にプツンと切れた。
太鼓の音が中途半端に途切れた事によって。
自然演奏していた手も止まり後ろのドラムを見ると、ドラムセットの向こうに座っているはずのエッジがいない…と思うと同時に、横を誰かが通りすぎた。
誰か?
エッジだ!
アホまるだしのピンクのTシャツを着た彼は、一気にステージを走ると止める間もなく観客席に飛び込んだ。
途端、わっとこれまで以上の歓声が上がり、ほどよく暖まっていた彼らに一気に火がついた。
エッジが飛び込んだ中心は人がごちゃごちゃしていてよくわからないが、その回りでは殴り合い、掴み合いが発生しており、それはどんどん周りに飛び火していった。
「おいおい…」
大変だ。何をやってるんだ?何が起こったんだ?
などと観客席を見下ろしていたら、にこやかなセシルが近づいてきた。
そしてあっと言う間もなく下に突き落とされた。
一瞬の浮遊感。
あわててギターを抱き込み、何人かにぶつかり背中から床に落ちた。
そこからはもう考える暇はなかった。とにかく周りはらんちき騒ぎをやっている。俺は新たに豆乳された燃料でしかない。
俺は起き上がると同時に、人をかき分けギターをステージに上げる。そして急いで自分も…と思いきや、俺が落ちた時にぶつかった奴が服を引っ張り、誰かの肘が腰のあたりにぶつかって、俺にもまた火がついてしまった。

 *

殴って蹴って、押して引いて、投げつけて。同じくらいやり返されて、俺はもうふらふらだ。
普通の喧嘩なら自信はあるが、なにせほとんど身動きも出来ない状態、あちこちで乱闘が行われているのだ。一人を殴りつけている間に、他の奴が背中にぶつかり、避けようとしたところに誰かの流れ弾(拳)が降ってくるのだ。
いい加減飽きて人の波をかき分け壁際につくと、そこには最初に飛び込んでいった火の玉男、エッジがいた。
左目の上を大きく腫らして、男前が上がっている。
彼は俺を見るとへらっと笑い、手を上げた。
その笑みがなんとなくセシルを連想させて気分が悪い。俺は彼のすねを蹴り上げた。
「って、ごめん、ごめんって」
「おい、いったい何なんだよ!演奏の途中で放り出しやがって」
「いや、それがさぁ…」
彼が頭を掻きながら言うには、観客席にリディアの姿が見えたのだそうだ。
その彼女の隣にはナンパそうな男がいて、しつこく言い寄っていた。それでカッときて飛び出し…
「そしたらぜんっぜん!リディアと似ても似つかねぇね!」
光に照らされたステージ上からでも、暗い観客席はそれなりに見える。
だが、すべてが見渡せるわけもなく、見間違いなどはよくあることではあるのだが…
「イタッ!いたいって!」
肩にグーパンを入れると、彼は大げさに痛がって身を縮めた。
「っつかさ…たしかに俺も悪かったけど、半分はあいつのせいだろう?」
「あいつ?」
「セシルだよ。ほら、すっげぇ楽しそうだぜ」
言われてステージを振り返ると…
「本当に楽しそうだな…」
本領発揮中のセシルがいた。
彼はステージの上から、上に登ろうとする観客を文字通り蹴散らし、止めに来たバンドマンたちを片っ端からリングに上げて(落として?)いた。
その表情の楽しそうなこと、楽しそうなこと。
「なんつーか、あいつって顔に似合わず、本当にいい性格してるよな」
「…あぁ」
どんちゃん騒ぎで声は聞こえないが、セシルは腹を抱えて笑っている。
そして何を思ったかふらりと舞台袖に消えた。
「あれ、もう飽きたのかな」
「いや…」
彼にしてみれば一番いいところであるはずだ。それなのに飽きて帰るなんてことはありえない。
何か策略があるに違いないと訝しんでいると…案の定セシルは戻ってきた。
手に消化器を持って。
「おい、帰るぞ」
俺はひきつっているセシルの腕をつついて、さっさとその場を去った。
後日、このライブハウスのオーナーにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。
…俺は悪くないのに。

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