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猫の飼い方、飼われ方 06

読み返してない

半野良の猫のようなロマーノはドイツの家に気ままにやってきては気ままに帰って行く。
ドイツには随分慣れたが犬はまだ苦手らしく、やってくるとドイツに犬をどうにかしろと無言の圧力をかけてくる。またドイツの兄であるプロイセンは大嫌いであるらしく見かける度に毛を逆立てて威嚇している。といっても、プロイセンが面白がって過剰に構いすぎるのが主な原因だとドイツは思っている。多分、プロイセンが大人になれば(なれるかどうかは別にして)案外上手くいくのではないかとドイツは思っている。
ともかく彼は前からスペインの家に入り浸っていたようだし、たぶん自分の家を第二の別荘とでも思っているのだろうとドイツは思っていた。
何しろ、近頃ロマーノは本格的に屋根裏を自分の根城にするらしく、屋根裏の荷物を階下の二階の廊下によく放り投げているくらいなのだから。

 ※

その日やってきたロマーノは、手に大きなクッションを持っていた。
彼は出迎えたドイツの横を素知らぬ顔で通りすぎ、二階へ上ると先端の曲がった棒で天井のフックを引っかけ階段を下ろすと屋根裏へと上っていった。
そして荷物の中から発掘したくたびれたソファにそれを置いた。
陽にやけて少し黄みを帯びた白いソファは、スプリングがかなりゆるくなっていて座ると沈みすぎるくらいに沈む。そのソファに、持ってきた赤い鮮やかなクッションは中々似合った。
ロマーノは満足してソファに座ると、周りを見渡した。
まだまだ荷物はたっぷりと蔵められているが、過ごしやすい程度のスペースは確保されている。
ロマーノがこれまで持ち込んできたのは、サッカーやファッションの雑誌にスタンドライト。それから毛布に先ほどのクッションだ。
発掘したものはソファと、大きな美術誌。それから足が少しぐらついているテーブル。
勝手に与えられたものは天井についた新しい電気と床に敷かれたラグ。他、ロマーノが片付けようとして失敗した荷物の整理整頓。
随分居心地はよくなった。
これでテレビやパソコンがあれば完璧かもしれないが、そちらについては置く予定はない。
ロマーノは居場所を作りたいとは思っているが、屋根裏に引きこもりたいわけではない。
だから冷暖房の類も持ち込むつもりはなかった。
ソファに横になっていると、近頃気候が過ごしやすくなったのも相まってうとうととしてきた。
少し前までは屋根裏では寒すぎて寝れず、階下の適当な部屋のベッド(主にドイツのもの)を拝借していたが、今は少し肌寒さを感じるくらいだ。
うつらうつらしながら毛布をとってこようかと思ったロマーノだが、結局面倒くささが先だってそのまま眠ってしまうことにした。
そうだ、ラジオを持ち込もう。いやダメだ。ここじゃドイツ語の放送しか入らない。
そんなことを考えながら眠った。



目を覚ますと夕方だった。
日が落ちると急激に寒くなるのがこのところのドイツの気候なのだが、寒さは感じない。
むしろほかほかしていると思えば、寝る間際にあきらめた毛布が体の上にのっていた。
自分でかけた覚えはないから…と考え、それ以上は考えるのをやめた。
どうも面白くない結論が出そうだったからだ。
大きくあくびをしたあと毛布から出ると、案の定屋根裏はひどく冷え込んでいた。
ロマーノはぶるりと一度だけ震え、階段のある方へと近づき階下の様子を探る。
そして静まり返っているのを確かめてそっと階下へと降り、また耳を済ます。すると一階で人の気配がした。
ドイツだろうか…と思うが、まだ安心はできない。ロマーノは獲物を狙う猫のような足取りで階段をそっと降りると、リビングから顔を出して中を伺う。
途端、床に寝転がっていた犬たちが一斉に耳をピンと立ててロマーノの方を見た。
げっ。
内心冷や汗をかいてロマーノが硬直していると、頭のいい犬たちはだまって立ち上がるとそのままロマーノの横をすり抜けてどこかへ行ってしまった。
賢い…いや、小賢しい犬だ。
ロマーノは胸をなで下ろしながら可愛げのない事を思い、もう一度リビングを覗き込んで確かにプロイセンが居ないことを確かめると、足音を殺したまま中へ入った。
リビングには誰もいない。ダイニングにも。だがキッチンには一人いる。
黒いエプロンをつけたドイツ…。
時間的に夕食の準備をしているのだろう。
このまま帰ろうか、それとも夕食を出せと言ってやろうか。
ロマーノが思案していると、ふとドイツが振り返って驚いたような顔をした。
「なんだ起きてたのか」
「うっせぇ」
いつもの癖で悪態をつくと、ドイツはひょいと肩をすくめ「夕食はどうする?」と聞いてきた。
「白アスパラがあるんだ。初物だぞ」
ドイツ人は春になると決まって白アスパラを食べる。かなり大振りなアスパラで、四本も食べればお腹がいっぱいになるほどだ。
ロマーノが黙っていると、ドイツは「何本食べる?」と聞いてきた。そのもう食べると決定しているようないい様が、ロマーノ自身持て余しているツンツンとした自尊心の一本に突き刺さった。
「いらねーよ!ばぁか!」
そして気づけば、そう叩きつけていた。
白アスパラは好きなのに。食べたかったのに。そう思っても一度口から出た言葉は取り返せず、またそれを訂正するほどにはロマーノの気性は素直ではなかった。
これなら黙って食卓についておけばよかったと思っても後の祭り。
『帰る』という選択肢しか残らない自分に悔しくてたまらなかった。
その上、
「そうか」
二分の一くらいの確率で引き止めるはずのドイツにもにべなく振られてしまった。
ロマーノはますます意気消沈したが、それを見せるほどに彼のプライドは安くはない。
「帰る」
彼は拗ねた気持ちで口に出し、そのまま帰ろうとした。
すると「ロマーノ」と呼び止められ、彼はますますつむじを曲げた。
一度、黙って帰そうとしたくせに、帰りだした途端呼び止めたのが尺に触るのだ。
これで何がなんでも帰らなければならなくなったとロマーノはムカムカしながら振り返ると…
「わっ!」
その胸元に何かが投げられ、ロマーノは慌ててそれをキャッチした。
手のひらに握った固いもの。握ったそれを開けば、中に赤いリボンの付けられた鍵が一つ。
「なんだよこれ」
ころりと手のひらで一度転がしロマーノがドイツを見ると、彼は「この家の鍵だ」と何でもないことのように言った。
ロマーノはその言葉にどう反応すればいいかとっさにわからなかった。
怒ればいいのか、飽きれればいいのか、それとも喜べばいいのか…さっぱりわからなかった。
「何度か俺達が居ないときにもやってきただろう?だから渡しておく。まぁお前は悪さをしないだろうしな」
ドイツはそれだけをいうと、任務完了とでもいうようにまた食事の支度に戻る。
対面キッチンの向こうに見えるドイツの広い背中。ロマーノはなんだか置いて行かれた気持ちになって落ち着かず、それはまた怒りに変わった。
彼はよっぽどドイツの背中に手の中の鍵を投げつけてやろうかと思った。
実際手を振り上げもした。
だがあと一歩の所で踏みとどまり、ふんと鼻を鳴らしてポケットに鍵を入れた。
そして何か捨て台詞を吐いてやろうと思ったのだが、何も出てこない。
ロマーノは仕方がなく高らかに舌打ちをすると、足音も荒くリビングを出るとドアをバタンと大きな音を立てて閉めた。

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