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Sledgehammer 29

一年以上ぶり

「カウンセラーの仕事っていうのはさ」

セシルは親指の爪をかじりながら言った。
「つまり、精神的に不安定な人を助けるってことでしょ?」
みっともない。
俺が彼の腕を引き口から親指を救いだすと、彼は少しだけ濡れた親指を見つめ、俺の手から取り返すと服で拭いた。
きたねぇ。
つぶやいた俺のセリフは当然のように無視された。
「つまり、ばらばらになりそうな心を整理したり、足りないものを補完したり、目録をつけたり、出口を示したり、モノの鑑賞方法を教えたり、言葉の解釈方法を教えたり、そういうものでしょう?」
「まぁ、そうかもな」
俺はカウンセリングについての専門家ではないし、カウンセリングを受けた経験も無いので、実際どういうものかは知らないが、まぁ間違った事は言っていないと感じたので頷いた。
ちなみに此処で彼が言っているカウンセラーとは、精神科医に近いものではないかと思う。
「患者?レシピエント?クランケ?を、うまくいくように導く役割。導き手ってことだと思うんだよね」
「あぁ」
相槌をうつと、セシルは何が不満だったのか口を尖らせた。
「だからね、導く先が問題だと思うわけだよ」
「導く先?」
「そう。先生は多分こう言う『患者さんの求めている先に導く』ってね。道筋を見つけて、そこに誘導するってね」
「まぁ…そうかもな」
そうだろうと思う。
もちろん、これはセシルの考えに俺が同調したものであって、世間一般、または専門家からは大顰蹙を買うような話かもしれない事はご了承していただきたい。
これはただのセシルの妄想だ。妄言だ。与太話だ。
真剣に聞く方がアホだ。
「けど、それが本当かどうかは誰にもわからないと思う」
「というと?」
「患者さんは自分がどのような状態にあるか正確にはわかっていないし、出口だってぼんやりとしか見えていない」
「そうだな」
「しかもカウンセリングというやつは、大体に置いて一対一で行われるものじゃない?」
「多分…。とてもプライベートなものだしな」
「だとしたら、先生が自分の思う方向に誘導してはいないと何故言える?」
「おい」
不穏な言葉に思わず咎める声が出てしまった。
ただの与太とはいっても、さすがにそれはないだろう。
「お前、それはカウンセリングで飯食ってる人間への侮辱だぞ。セシル」
「え?あ、ごめんなさい」
ペコリと頭を下げるセシル。
俺に謝られた所で仕方が無いのだが。
俺がタバコをふかしていると、彼は少し考え「違う」と言った。
「違った。そういう話じゃなかった」
「は?」
「違うんだよ、そういう話をしたかったんじゃなくて、あのね、つまり、カウンセラーをする人。つまり心理学に通じる人は、その人を助けるんじゃなくて、壊すことも出来るんじゃないかってことが言いたかったんだ」
言い切った…とでもいうようにすっきりした顔をしているセシルだが、言っている事はあまり変わっていない気がする。
というより悪化してないか?
「…つまり、悪意を持ったマッド・カウンセラーが羨ましいって話か?」
患者のただでさえ壊れそうな心を粉砕して、廃人に追い込むっのが面白そうだって?もしくは狂人にするのが?殺人鬼にするのが?
知ってたけど、なんてひどいことを考える男だろうと俺は唸った。
わたあめみたいな外見しているくせに、腹の中は真っ黒だ。しかもタールのように粘っこくて匂いもきつい。俺以外だと耐性がなくて気分を悪くするか、卒倒する。もしくは中毒になって人生を棒に振る。
実は最後のパターンが一番多かったりして、俺は常々セシルほど悪い男はいないなと思っている。
未だかつてこんなに最低な男を俺はセシル以外に知らない。
「それは邪推だって、カイン」
「どうだかな。どうせそんなマッド・カウンセラーに取り行って、人の壊し方のレクチャーを受けに行きたいって話だろう?」
指摘すると、彼は明らかに『ギクリ』とした表情を浮かべた。
「セシル」
低く名を呼ぶと、セシルは目を泳がせさまよった挙句また親指の爪を噛んだ。
その腕をぐいと引っ張ると、彼はますます目を泳がせ、なにやら傍にあった紙をぐしゃぐしゃと丸めてゴミ箱に捨てた。
「お前…」
まさかすでにレクチャーを受けて、おかしな歌詞を書いていたって話じゃないよな?
じろりと睨むと、セシルは何故かくしゃみした。
なぜそこでくしゃみをすると呆れていると、彼は追求を避けるように「お腹がすいたねぇ」といって、無邪気を装って微笑んだ。
もちろん俺は痛い目には会いたくないので、騙されてやる。

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