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少年少女よ刹那主義であれ!

火アリ火
読み返さない!

互いに長い長い片想いをようやく終わらせ、はじめての口づけを交わそうとした彼らは…しかし後数センチで唇が触れるという瞬間に体を離した。

「アリス…?」
「今の…あれ?」

この行為に戸惑いや嫌悪を感じたわけではない。
彼らはふと以前全く同じことをやったような…、昔の行為をなぞったような感覚におそわれたのだ。
いわゆるデジャブ。既視感。
彼らは互いにこれまでに何度かそれを感じたことがある。だがそれは懐かしいセピアの香り。一瞬で鼻先を通りすぎていくものだ。
しかし今彼らが感じたそれはとても強い匂いと影を持っていた。
それは確実にあった未来を思い出させるもので…だからこそ二人は大いに動揺し動きを止めたのだ。
無いはずの過去が圧倒的な現実感を持って立ち上がってくる。
その事にアリスはふっと過去に思いを馳せ、そして火村は少しの恐怖を感じた。

「なぁ。覚えとる?今の」

やがて口を開いたのはアリスだった。
火村はその言葉を聞いて、アリスは自分とは違う感性の持ち主なのだと改めて感じながら頷いた。
彼は大袈裟かもしれないが…いや実際大袈裟だが、先ほどのデジャブに揺り動かされる恐怖を抱いた。…というのに、アリスは全く気にも止めていないのだ。
「火村?」
アリスは火村の顔色に気付いて首を傾げ、それから笑った。
「なに怖がっとるん?」
「怖いわけじゃない。ただ…今のは…」
「あほやな。あれは唯の現実や」
「現実?」
「あぁ。そう。確かにあったけど忘れてしまったただの現実」
アリスの言葉に火村は自分の不安がさっと晴れるのを感じた。
力の抜けた火村をアリスは見つめ、それから不意打ちに唇を合わせてさっと離れた。
「アリス!」
意外にロマンチストな所を隠し持った火村は、彼とのはじめてのキスを意識する前に奪われて抗議の声を上げた。
だがアリスはまったく気にも止めず、「あ、思い出したかも」と呟いた。
「何をだよ」
「はは、拗ねなや、英夫君」
「誰のせいだよ」
「まぁまぁ、ちゅうくらい、これからなんぼでもしたるから」
そういって笑うアリスに、火村は黙って目を細めた。
惚れた弱味とでも言おうか、彼はアリスを意識し出した時からいつだって劣勢にたたされ続けている。それは多分これからも変わらない。
「…で、なにを思い出したんだよ」
「だからさっきのデジャブ。火村、多分俺たち以前にもちゅうしてるで」
ちゅう…という表現は止めてくれないものだろうかと思いながら、どういうことかと火村は聞き返した。
「うん。俺もまだ曖昧やけど確かに昔、俺は君とちゅうをしたことがある」
「まさか」
火村にそんな覚えはなかった。
妄想の上なら何度もあったし、寝ているアリスを見て奪ってやろうと思った事も数多くあったが、しかし実際に唇をつけた事はなかった。誓って。
ならばまさかアリスは…と火村は彼を見た。
火村と視線を合わせたアリスは不思議そうに首をかしげ「あ、ちゃうよ」と火村の考えを読んだかのように首と手を振った。
「そんなやましいことはせぇへんよ!」
「ふぅん」
火村が胡乱な目をしてアリスを見ると「本当やから!」と彼は焦ったように言った。
「わかってるさ」
「……もう。…やなくて、ちゅうの話な、ちゅうの!」
「あぁ、で?」
キスを仕掛けたあたりまではいい雰囲気だったはずなのに、あのデジャブのせいで嘘のように消えてしまっていた。火村は口を尖らせるアリスから少し離れてタバコに火をつけた。
「いつやったかなぁ」
うーんと悩むアリスの横で、火村はテーブルに手を伸ばし灰皿を引き寄せた。
「絶対、間違いなくあったんやって。君覚えてない?」
「だから覚えてないって」
というか、誰かと間違っていないか?…というセリフは、喉まで出かかって飲み込まれた。
「絶対にあんねんって…多分…学生ん時」
「学生って…何年前だよ」
「えーっと…10年くらい?」
「…で?」
「んー…なんかすっごくふたりとも酔っとって…」
「あぁ…あの頃はむちゃくちゃな飲み方を良くしていたから…」
若いころは…酒を覚えたての頃は、今のように酒を楽しむような上等な真似は出来なかった。
金はないくせにビールばかり買い込んで、ろくにツマミもない状態でただただ浴びるように飲んで、酔っ払っていた。
それが楽しかった。くだらない話で盛り上がって笑って、飲んで、そしてそのあたりでごろ寝して。
懐かしさに二人は思わず目を細める。
「よく君ん…あ、場所は多分北白川の君の下宿や」
「ふぅん」
「で…ふたりともTシャツ来てた気ぃするから…夏?」
あぁ、あかん思い出せん!
そう言ってゴロリと横になったアリス。
その瞬間、火村の目の前を忘れたはずの過去が現れた。

夏、北白川の下宿、二人だけの酒盛り、そこで交わした触れるだけのキス…。

だがそれは一瞬鮮明に思い出された次の瞬間には、彼の鼻先をすり抜けどこかへと行ってしまった。
火村は一瞬だけ、その一瞬だけ瞠目し、それからアリスがうだうだと言っている姿を見て苦笑した。
そして、
「アリス」
うだうだ言っているアリスの唇を掠めるように奪った。

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