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傷を飲み込んだ或の日

WW2 ドイツ降伏直後あたり。
歴史背景なんかは考えてはいけない。 微グロ
なんだこれ 駄文

うつぶせに寝かされたドイツ。
満身創痍のその背には、鋭利な何かによって描かれた鉤十字。
鉄十字は何度もなんどもなぞられているらしく、深いものは数センチにも及び、膿んでいるものや未だ血が滲んでいるもの、焼かれているものもある。
それは思わず目を背けたくなるような凄まじい有様だった。
気の弱い女性ならば気を失うかもしれないし、男でも血になれないものなら思わず胃の中から酸っぱいものがこみ上げてくるような光景だった。
いや、豪胆な男だって足元が震えるほどにはドイツの今の状態はひどかった。
それに彼が横にされている部屋もひどかった。
一目で不衛生とわかる汚い部屋は地下にあるのか窓が無い。一応病室ではあるのだろう、それらしいものが部屋には置かれているが、白いカーテンのついた衝立は薄汚れており、床に転がった点滴液の入った袋はどこかに穴が開いているのか中は半分になって床を濡らしていた。
その他にも薬品の瓶が割れて落ちていたり、何か走り書きがされた紙が捨てられていたり、割れた注射器が落ちていたりする。
そしてそれに伴った匂いもまたひどかった。
血のにおいに薬品の匂い、それに焦げ臭い匂い、そしてそんなものでも隠せぬ濃い死の香り。

 *

「…じゃぁ、僕は用事があるから」
行くね。
そう言って、長身の男は意味有りげな微笑みを浮かべて部屋を出ていった。
残されたのは意識を失ったままのドイツと、そしてもう二人。
本来ならもう二人この場にいるはずなのだが、一人は家のゴタゴタで帰国しており、もう一人は未だ降伏せずしぶとく抵抗する日本の相手に奔走している。
此処にいる二人はしばらく沈黙していたが、やがて「ひでぇなぁ」と片方、イギリスが口を開いた。
「ザクセンだって此処までひどくはなかったぜ」
「ザクセンにあったのか?」
「あぁ…ちらっとだけな」
フランスの問いにタバコに火をつけながらイギリスは答える。
「ボロボロのくせに、俺を見て睨みつけやがった」
らしいっとフランスが笑うと、イギリスは舌打ちをし「それよりどうする」と顎でドイツをさした。
「どうするって、このままこうしとくわけにはいかないでしょ」
「いかねぇか」
「いかないよ。まぁ放っておきたいのはわからないでもないけどね」
俺も痛い目に合わされてるし。苦笑するフランス。イギリスはその横で不快そうに眉間に皺をよせ「そうでもねぇよ」とつぶやいた。
「確かにこいつには煮え湯を何度飲まされたかかわからねぇ。恨んでるし憎たらしいさ。だが…なぁ」
「…まぁ、同じだな。俺と。…で、どうする」
「何をだ」
「イタリアが面会したがってる」
「イタリアが?」
「あぁ。まぁ実際にはイタリアだけじゃなくて、ドイツの部下や上司、恨み持ってるやつや様子を探りたいやつ、口裏を合わせたいやつなんかがごまんと面会を希望してるが」
「イタリアはともかく他のは断ってんだろうな?」
「それは当たり前。…て、イタリアには許可を出すのか?」
意地の悪いところのあるイギリスにしては少し意外に感じてフランスが聞くと、彼は「構わないさ」と冷たく笑った。
「大体あいつに何ができるってんだ?」
あの腰抜けに。
口角を皮肉につり上げるイギリス。
「どうせ泣いて喚くくらいしか出来ないさ」
「…かもな。じゃぁ許可しとくよ」
「好きにさせてやれよ。…あぁ、あいつらに治療も任せちまおうぜ。ドイツ人にやらせるのもうちの奴らにやらせるのも何かと頭が痛いからな」
イギリスの言葉をじっと聞き、フランスはこくりと頷いた。
「わかったよ」
イギリスはフランスの返事を聞くと、早々にその部屋を出ていった。
残されたフランスは、ピクリとも動かないドイツを見つめため息をついた。
「俺としてはあまり許可はしたくなかったんだけどね」
フランスは悲しげな顔で独白する。
「あのバカな子達が悲しむのは、お兄さん胸が痛くなっちゃうからね。…でも、仕方がないよな。最初に悲しませたのはお前なんだからさ」



翌日。
空爆によりボロボロになった病院に二人はやってきた。
それはベルリンから離れた郊外にあって、ドイツは都市部にいるとばかり思っていた二人は少し意外に思った。
辺りは荒れ果てていて寒々としていた。それでも戦争が終わったからか、鳥たちの声が華やいで聞こえる。
二人をここまでつれてきたイギリスの兵士はさっと車を降りると、先に立って歩き出した。
彼の説明によると、現在この病院には十数人の患者がいるらしく、彼らは一様に精神に変調をきたした者であるらしい。
「強いショックを受けたんでしょうね」
と、彼は何でもない事のように言った。
それで二人は彼が戦場で戦ったことがないのだなと気づいた。彼の口調にどこか患者をバカにするようなところがあったからだ。
イタリアは少し不機嫌になり、隣の兄を見た。
兄のロマーノはイタリアよりもずっと不機嫌な顔で、先に歩くイギリス人の背中を睨んでいた。

やがて彼はとある一室で足を止めた。そして、部屋の前に置かれた椅子に座った軍人と何事かを話し、二人を振り返った。
「取り敢えず今日は一時間だけです。明日からは自由にしてもらって構いません」
「自由に?」
「えぇ。そうです。彼には最低限の治療しか施されていませんから」
「え?」
「治療もご自由にしていただいて結構ですよ。まぁあなた方もお忙しいでしょうからそう頻繁には来られないでしょうけど」
そう言って微笑む男はひどく軽薄に見えて、二人は彼をとても恐ろしく思った。
その彼は鍵を回すと、二人に道をあけた。
「どうぞ。必要なものがあれば中の内線で事務に通じますから仰ってください。何でもとは言いませんが、ある程度の融通はつきます」
イタリアとロマーノは顔を合わせ、イタリアの方が一歩踏み出してノブに手を置いた。

明かりが落とされ暗い部屋。中に入ったイタリアは壁に手を這わせてスイッチを探り、ボタンを押した。
少しのタイムラグののち、チカチカっと音を立てて電灯がつき部屋の中が明らかになる。
部屋はイギリスやフランスが見舞った時のままに汚れている上に、雑多なもので散らかっている。
イタリアはその事に少し悲しくなった。
だがそれもドイツの姿を彼の目が捉えた瞬間に凍りついた。

背中が真っ赤だ。

イタリアは最初それが何かわからなかった。
だが段々と理解が進むにつれ、彼の顔から血の気が失せ、見ているものが信じられなくなった。
うつ伏せに横たわるドイツ。
その逞しく広い背中には大きな赤黒い鉤十字。
それはペンキで描かれたものではなく、入れ墨でもなく、それは、それは…

「あ……あぁ…っ」

叫び出しそうになったイタリアの口を隣から延びてきたロマーノの手が塞ぐ。
「大きな声を出すなよ。そんなことしたら、表の奴等の思う壺だ」
気づかない内にぶるぶると震えていたイタリアは、口を抑えられたまま兄の方を見て頷いた。
そして兄の手が離れると、自らの両手で口を抑え悲鳴をあげないように封印した。
「チクショウ」
悔しそうにロマーノは呟き、目の辺りを腕でぐいっと拭うとベッドに近づき跪いた。
イタリアも後に続こうとしたのだが、どうにも足が震えてままならず、その場で両手で口を抑えポロポロと涙を流すしかできなかった。

案内のイギリス人が言った通り、ドイツは本当に最低限の治療しか受けていないようだった。
つまりそれは死なない程度の治療であり、積極的に回復させるためのものではなく、現状維持、もしくは生き続けられる程度の処置だ。
死んだように眠るドイツを間近に見て、ロマーノは涙を溢れさせかけ、慌てて上を見て涙を飲み込んだ。
泣いてはだめだ。
悔しがってはだめだ。
怒ってはだめだ。
怒鳴ってはだめだ。
ロマーノは自分に言い聞かせた。
激しい感情を見せれば、ドアの外の奴等を喜ばせるだけだ。
だから絶対に駄目だと彼は奥歯をきつく噛み締めた。
弟にはそんな芸当は出来ないのはわかっている。だからせめて自分だけは、何にも感じていないふりをするのだ。
彼は必死に平静を装い、ドイツの様子を見た。
彼はぐったりとして深く眠っているらしい。背中の傷は深く、一体何で傷つけたものだか太く深い傷が何本も無数に走っている。
傷の具合は恐ろしく悪い。
彼の傍にいるだけでその高い体温を感じる。
びっしりとかいた汗、不衛生極まりない環境。
「チクショウ…」
また涙が出そうになってロマーノは慌てて頭を振った。
とりあえず今日はもう時間がないから、何もできやしないだろう。
だから、次に来るときに何を持ってくればいいかを考えておかなくてはならない。
まずは…彼にはシーツと変えの包帯と、消毒液とモルヒネと…あと…あと…。

「兄ちゃん」

声をかけられ後ろを振り返ると、目を真っ赤にしたイタリアが立っていた。
イタリアは一目見て大泣きしたのがわかるような顔をしていたが、今は涙をかろうじて堪えている。
必死に、必死にこらえているせいか、彼は普段決してしないような怖い顔をしていた。
「ドイツ、どう?」
「どうって…」
どう答えていいものかロマーノは迷い「大丈夫」となんの根拠もないことを全く説得力もない声で言った。
イタリアはその言葉をどう受け取ったのか、目と鼻を真っ赤にしたまま唇を噛み締めて頷いた。
「こいつ…ムキムキだし。す、すぐに良くなる」
「ふ、う…うん」
グズリと鼻をすするイタリアは、もう色々と限界が近いようだった。
それでも兄の言いつけを頑なに守ろうとするように、精一杯の虚勢を張っている。
「つ、次はい、いろ、いろと持ってこ、こようね、に、兄ちゃん」
「あ、あぁ」
ごしごしと何度も目を擦り、それからロマーノはふと気づいてポケットを探ると清潔なハンカチを取り出した。そして、ドイツの顔にびっしりと浮かぶ汗をそっと拭った。
今、彼に、彼らにできることはその程度しかなかった。
気を抜くとすぐに涙がこぼれてしまいそうになる。
彼らはもう半ば意地で泣かぬように必死に耐えていた。

 *

面会時間の制限より少し前に二人は外へと出てきた。
案内役の男は見張りの男と喋りながら彼らを待っていたのだが、出てきた二人が思ったよりも冷めた表情を浮かべているのに気づき、少しだけ落胆した。
もっとぐちゃぐちゃに泣いている姿を想像していたのに、つまらないな…そう思いながらも男はにこやかに微笑みを浮かべた。
「どうでした?思ったより元気そうだったでしょう」
思い切りの嫌味にも、しかし二人は何も返さなかった。
ただ小さく見張りの男が笑っただけ。
案内の男はそれに一瞬だけ冷めた表情を浮かべ、すぐに偽物じみた笑顔を浮かべると二人を追いかけて歩き出した。

 *

三人が立ち去ってしばらく。
見張りの男は雑誌を読んでいたのだが、ふいに後ろの部屋でガタンっと何か物音が聞こえた。
男はビクンと肩を揺らし、そっと雑誌を椅子の下に置くと立ち上がった。
ドアの施錠を外し、そして部屋の中を覗き込む。
部屋には小さな明かりがともされていて、そしてベッドには背中にひどい怪我を追った男が眠っている。
「気のせいか」
男はつぶやき、ドアを閉める。
そして先ほどの男の背を思い出して眉間に皺を寄せた。
背中のハーケンクロイツ。
アレは全くひどいものだ。
見ただけで吐き気がするようだ。
「それにしても、いったい何をやったんだかな…」
あれは間違いなく拷問の後だろうと男は思う。
ドイツのやつらにやられたのか…それとも、こちらの奴らにやられたのか。
どちらにしろ、よっぽどのことをやったには違いない。
男はお気の毒にと口の中でつぶやき、また雑誌の続きを眺めはじめた。

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