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難しい言葉はいらない

先生火村と生徒アリス
恋愛未満で火村→←アリスな感じ。
読み返さない。

彼が勝手に自分の部屋にしているらしい社会科準備室(教材置き場)は、いつもタバコの臭いがした。
校内は禁煙なのに、彼は平気でタバコを吸うのだ。
校則に厳しい校長や教頭は…というと何故かだんまり。
彼は授業の無いときはこの部屋にいてタバコをぷかぷか。
職員室にはテスト週間でもないかぎり寄り付かないように見える。
そんな彼は生徒たちに一目を置かれている。ある意味人気者といってもいいが、生徒たちに囲まれてきゃぁきゃぁ言われてるタイプじゃなくて、遠巻きに崇拝されてるってかんじ。
その先生に私は何故か気に入られている(もしくは目を付けられている?)らしく、一年の頃から助手という名の下僕に任ぜられ、朝・昼・晩の出向の他、雑用をさせられている。
それを知っている他の生徒たちは私のことを羨ましがるが、どちらかというと先生方の反応が正しい。
つまり“お気の毒に”ってやつだ。

 ※

「火村先生、来たで」
朝、早めに登校した私はゴーグルとマスク着用で先生の部屋に行く。
相変わらずやにくさい。壁が黄色くべたついているのは、間違いなく彼のタバコのせいだ。
「おはよう、アリス。コーヒーを入れてくれ」
窓際の席に座った先生は、振り返らずに手だけをあげていう。
私は言われた通りにコーヒーを入れる準備をする。
先生の机の上には沢山の本が積み上げられている。本の間にはメモを書いているものらしい紙がアチコチから出ているし、あちこちに付箋が貼られている。
何をしているのかはよくしらないが、授業に関係ないものであることは確かだ。
彼は趣味で“研究”とやらをやっているらしい。その内容は知らないが。

「先生、入ったで」
コーヒーを渡すと、彼はようやく顔を上げ私の顔を見て眉間に皺を寄せた。
「なんだ、まだそんな格好してるのか」
「しゃぁないやないですか、ここ煙いんです」
「いい加減なれろよ、もう一年半だぜ」
ニヤリ…と笑う男の顔は、女性ならば悲鳴を上げて気絶するくらいに色気がある。
かくゆう私も男であるにもかかわらずドキッとしてしまうが、それを表に出さないくらいに矜持はある。
「まぁヤニの匂いにはわりかし慣れたわ、けどなそれで背が伸びひんようになったらこまる」
なにしろ成長期なのだ。…近頃は若干伸びが悪いが。
「父親は170そこそこ、母親は60ないんだからそんなもんだろう」
「って、ちょっとまて、なんで知ってんねん!」
思わずつっこむと、彼はコーヒーにフゥフゥ息を吹きかけながら横顔で笑う。
「172もあれば十分だろ」
「だからなんで知ってんねん!ってか、180ある男が言うても嫌味にしか聞こえへんわ!」
パーンと机を叩いた私は、先生がクツクツわらっているのに気づいてハッとした。
「あかん、こんなことしとる場合ちゃう」
私は我を取り戻すと、ボロボロのソファに陣取るとカバンを開けて中から原稿用紙と筆箱を取り出す。
シャーペンを持ちカチカチとやりながら、書いた分を読み返していると、「まだ書いてたのか」と先生が言った。
「下手な小説」
「下手っていうなや!」
「いや、こないだの『大阪城殺人事件』は結構ひどかったぜ」
「う…」
それは…自覚があったのでなんとも反論のしようがない。
書いているときは天才的なひらめきだと思ったのだが、書き上げたあとでそれは急激に陳腐になりはて、先生に鼻で笑われてしまったのだ。
「こ、今度のは自信作なんや」
「それ、こないだも聞いたセリフだぜ、アリス」
「今度こそ本当なんや!」
「へぇ」
先生はおもしろがるように言ってコーヒーを一口のみ、カップを置くと私の隣に座って書き終わった原稿を手にとった。
まだ書いている途中だというのに。
そう少しムッとするが、先生はけっこう唯我独尊なところがある。言っても無駄だ。
私は先生の気配を気にしながら、昨夜書き上げた3枚ほどを読み返し、それから新しい原稿用紙に向かう。
するとだんだん集中してきて、書くべきセリフが考えるよりも先にペンによって原稿用紙に綴られていく。
今、私が書いているのは物語の中ほどのあたり。
自称名探偵が、ちょっとした推理を披露するところだ。
それは一件穴がないように思え、関係者一同は納得しかけるが…それをあざ笑うかのように第三の殺人が出る…という筋立て。
本当の名探偵は最後の最後あたりにしか出てこない予定だ。

「にやけてる」

突然言われて、「あ?」と間の抜けた声が出た。
顔を上げると、手持ちを読み終わったらしい先生のニヤニヤ笑いがあった。
またけなされるのだろうか。
いや、そうに違いない。
先生の頭はとてもおよろしいので、高校生の分際である私の言葉なんて彼には響かないのだ。
だが出来るなら全てを書き終わった後までお叱りは遠慮してもらいたい。
そんな思いでじっと睨むと、彼は何を思ったのか手を伸ばして私の頭においた。
「な、なんやねん」
「えらく集中してたじゃないか」
「…で?」
問い返すと、彼はふっと視線を逸らした。
その先は…
「あ!!!」
あと数分で始業を示す時計!
私は集中するととことん時間を忘れてしまう悪い癖がある。大慌てで原稿用紙をまとめ、ペンを仕舞いカバンに押し込み立ち上がった。
「ほ、ほんなら俺、行くわ!」
「あぁ、ちゃんと昼休みも来いよ、アリス。今日は教材の整理があるからなー」
「ラージャって、それは先生の仕事やん!」
「ほら、もうチャイムが鳴るぜ」
「あ」
私は無造作に置かれた地球儀に躓きながら部屋を横切り扉に手をかけた。
そして廊下に一歩踏み出したその背に、
「あと、今回のはなかなか面白いじゃねぇか。続き楽しみにしてるぜ、アリス」
先生の言葉がぶつかり、それに押されるように思わず私はつんのめった。
「あ」
バランスを崩した私が窓に両手をついた途端、背中でバタンと扉が閉じる。
バクバクする心臓を抑え、私は先生の部屋を振り返り、それが確かに閉じていることを確かめると両手を頬に当てた。
「あかん…。あれは天然のタラシやわ」
思わずときめいてしまった。顔が熱い。
うー…と唸り座り込んだ私に無情にも始業のチャイムが降り注いだ。

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