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020 物足りない

セシロザ前提で カイセシカイ ッポィはなし。
ロザはでてきません。 セシロザ好きには地雷
駄文 最後締まらなかった

親友であるセシルには2つの家がある。
一つは彼の兄がセシルに買い与えたマンション。駅から歩いて5分ほどにある高層マンションだ。
住んでいるものは家族のものが大多数で、単身者は少ない。
3LDKで一つずつの部屋はかなり広く、入れられた家具もセシルの兄が選んだ一流の品ばかり。まるでモデルルームのように美しく洗練されている。
だがセシルがこちらの家で過ごす事は少ない。
彼がもっぱら自宅として使っているのは、築10年と少しの新しいとは言えず、だからといって古いとも言えない微妙なラインの学生が主に住んでいる小さなアパートだ。
1Kの小さな部屋。
ベッドと小さな机、テレビ。それだけでいっぱいになってしまうような部屋。
その部屋のものや、家賃はすべてセシルが稼いだ金で払っている。
何故彼が毎月十分すぎる仕送りを兄から受け取っておきながら、それに一切手を付けず、あまつさえバイトまでして小さなアパートを借りて暮らしているのか。
頑ななまでに経済的に成功している兄の援助を退けるのは何故か。
何か深い理由があるのだろうが、まだ俺はそれに触れることが出来ないでいる。

 *

「セシル」

玄関を開けた途端、ぷんと香ったアルコール。
いや香ったなんて生易しいものじゃない。まるで酒をそこらにぶちまけたようなすごいアルコールの匂いだ。
「セシル、いるんだろう」
名を呼びながら電気をつけると、ベッドを背に床に三角座りをしているセシルが視界に入った。
彼の傍には酒の空瓶がいくつも転がっている。
「セシル」
靴を脱ぎ部屋にあがりこんだ俺は、壁にかけてあるカレンダーの今日の日付に大きな赤いバツ印を見つけた。
蹴り飛ばしそうになった瓶を拾い上げ、それをテーブルに置く。
額を膝にくっつけ動かないセシル。
「大丈夫か?」
軽く揺すっても反応のない彼に少し心配になる。
まさか急性アルコール中毒とかいうやつではなかろうか。
強くゆすろうとしたした瞬間「ん」とセシルが声を上げ、ゆっくりと顔を上げた。
アルコールにとろんとした目、かなり参っているようではあるが、とりあえずは大丈夫そうだ。
「お前、今日兄貴と会ったのか?」
俺を見ているようで見ていない目。
言葉を聞いているようで、聞いていないような表情。
返事はないが、彼が此処まで荒れるのはそれ意外ではありえない。
「水を飲むか?」
しばらく待って違う言葉を投げてみたが今度も反応はない。
俺は小さくため息をついて立ち上がると、キッチンの小さな冷蔵庫を開けミネラルウォーターをとってセシルのもとに引き返した。
「飲めるか?」
顔を覗き込むと、セシルはまたとろんとした目で俺を見つめ「もう飲めない」とかすれた声で言った。
「馬鹿、酒じゃなくて水だ」
「だから…」
「いいから飲め」
ペットボトルの口を無理やりセシルに押し付けて傾ける。
半分以上はこぼれてしまったが、喉に入った分と服が濡れた分とで少し目が覚めたらしい。
セシルはんーと唸りながら少し体を起こしてベッドに背を預けると、足を伸ばした。
セシルの横顔。口元から頬、首、肩と水で濡れている。
ぐずりと鼻をすするセシルに泣いているのかとぎょっとするが、涙はこぼれてはいなかった。だが彼の目の潤みはアルコールのせいだけではないだろう。
「…ローザを呼ぼうか」
俺とセシルは親友同士ではあるが、彼を慰めるのは恋人の役割だろう。俺がでしゃばるべきではないと思ったのだが、彼は首を横に振った。
ローザは弱ったセシルを見て愛想を尽かすような女じゃない。
恋人なのだから弱味くらい見せてもいいだろうに。
完全に折れている癖に虚勢をはるセシルは痛々しくて胸が痛くなる。…と、同時に俺は薄暗い喜びを感じている自分に嫌悪を抱いた。
薄暗い喜び。それについて言い訳にもならない言い訳をさせてもらうならば、別に俺はセシルがひどく参っていることについて喜びを感じているのではない。
俺が後ろめたい優越感を感じているのは、セシルが決してローザには見せない弱さを目にしていることについてだ。
言ってしまえば、俺はセシルに親友以上の想いを抱いているといっていい。
といっても、親友の枠から踏み出すつもりはなく、心に秘めた思いである。しかしこういう時、浅ましい思いが自分を急き立てる。
今なら、弱りきっている今なら、もしかしたら彼は自分の思いに応えてくれるのではないか。触れさせてくれるのではないか、流されてくれるのではないか。
ひどく浅ましく醜い思い。
だがその思いはいくら殺そうとしても、しぶとく生き残り…いやそれどころか時として俺を激しく駆り立てる。
何も言わない俺を不審に思ったのか、顔を上げるセシル。
セシルの目に映る俺はどんなものだろう。きっとひどく歪んでいるに違いない。それが証拠にセシルはひどく驚いた顔で目を見開いていた。
「カイン?」
なんだ?
そう平然と返せる自身がなかった俺は曖昧に視線をそらすことしかできなかった。
卑怯者め。
弱っている人の心に浸け込むなんて最低の人間のやることだ。
わかっている。
なのに、人の心というものは不思議だ。罪深いとわかっていても尚、俺はその誘惑に揺れている。
俺は固く目を閉じ、欲望を抑えこむ。
今までのように、今もまた。
「カイン?」
「…あぁ、なんだ?」
「どうかしたのかい?」
「どうかしたのはお前だろう、セシル」
自分の思いに固く固く蓋をして、目を開き微笑んでみせる。
「でも…」
「お前から香るアルコールに酔ったようだ。お前は気づいていないかもしれないがひどい臭いだぜ」
大丈夫、俺は上手く笑えている。
俺とセシルは親友だ。
昨日も、今日も、明日も、これまでも、これからも、ずっと。
怪訝な顔をするセシルに手を伸ばし、目にかかった髪を横に払ってやる。
セシルは眩しそうな顔をして俺を見、それからすぐに不機嫌そうに口をへの字に曲げた。
子供扱いされたとでも思ったのだろうか。
セシルの額を軽くデコピンして、俺は自分がいつも通りに振る舞えていることに安堵していた。
もう大丈夫だ。
調子を取り戻した俺はセシルから少し離れると、転がっていた瓶を集めだした。
「それにしてもよく飲んだな」
敷かれているラグも随分飲んだようだが。
「あーぁ、ひどいな」
少し離れた場所がぐっしょりと濡れているのに気づいて呆れ返った。
ジンの空瓶、ラグが飲んだらしい焼酎の瓶、転がった酎ハイの缶。テーブルに上げて、そのテーブルをずらしてラグをくるくるっと巻いていく。すると、フローリングまでもじっとりと濡れているのに気づいた。
「あぁ、もう…」
手のかかる。
「お前な、明日は絶対二日酔いだからな、覚悟しとけよ」
そうして片付けに夢中になっていた俺だから、セシルがどんな目で俺を見ていたかなんて気づくわけはなかった。
まして、彼が微熱まじりの声で俺の名を小さく呟いたことなど。

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