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041 まだまだ先は長く 02

01の続きのような
今回はカインとセシル。
直接はでてこないけど、相変わらずモブも話の裏に居ます
読み返さないが、微妙に不満。

酒を持って現れたセシルを見てカインは「珍しい」と口にしたが、セシルが淋しげに微笑んでいるのに気づいてなんとなく理由を察した。
ローザがアルベールとの婚約を正式に受け入れたのだろう。
かつてはカインもまたセシルと同じように彼女に思慕を寄せていた。
だがカインのそれはすでにセピアにあせかけている。
痛みは感じても、彼の胸は血を流すことはなかった。

カインはグラスを2つ出すと、セシルの手から酒瓶を奪いそれを注いだ。
「まぁ飲めよ」
そういうと、セシルは小さく笑って「僕が持ってきたんだけどね」と言った。
カインはその言葉を無視して戸棚を探り、何か酒の肴になるものは…と探したが、わずかなナッツしか見当たらなかった。彼は代わりにいくつかの酒瓶(どれも口を切ったものではあったが、それなりに量はのこっていた)を取り出しセシルの前に置くと、部屋の外に顔を出し近くにいるであろう部下に向かって何かツマミを持ってくるように声を上げた。
「悪いね、急に」
「いや、暇だったからな。下で部下とカードでもしようかと思ってたところだ」
ちなみに下というのは、青竜騎士団の詰所のことだ。
そこには24時間必ず誰かしら詰めている。
「うん、何人かカードをしてたね。赤毛の子がずいぶん負けが混んでたみたいだけど」
「あぁアイツか…。弱いのにすぐに熱くなるんだ」
「そうみたいだね。何人か止めようとしてたんだけど…」
「まったく。あいつには給料前に何度か泣きつかれてるんだ」
「それは…大変だ」
そんなことを話しているうちに、兵士が上がってきてクリームチーズののったカナッペと動物の内蔵を煮込んだものを持ってきた。
そしてそれをきっかけに流れた空気が少しだけスローになり、それと同時にセシルの顔に影が落ちた。
カインはどう話を切りだそうかと思いながら琥珀の酒を口に運ぶ…と、「ローザが…ローザ様がアルベール様との結婚を決意されたそうだよ」とセシルの方から口を開いた。
セシル、カイン、そしてローザは幼なじみ同士。
互いの名を呼ぶときに敬称をつけたことはこれまでは一切なかったが、アルベールと結婚し王妃に納まるとあってはローザのことを呼び捨てにはできない。
セシルもカインも彼女の臣下になるのだ。
セシルの言葉でそれを改めて思い知らされたカインは「そうか」といってセシルの表情を窺った。
口約束でしかなかったとはいえ…一時セシルとローザは将来を誓い合った仲でもある。その胸中はいかほどのものだろう。
「大丈夫か?」
「大丈夫…と言いたいところだけどね」
セシルは苦笑した。
「思ったより、堪えているよ」
「だろうな」
カインですら過ぎ去った恋に多少の傷みを感じているのだ。
セシルの心はそれこそ血の涙を流しているだろう。
セシルはカインの視線に気づくとクスリと笑った。
「アルベール様は良い人だから、きっと彼女も幸せになれるよ」
「確かに、アルベール様は良い人だ」
だが幸せになれるかどうかは別だという言葉をカインは飲み込む。

今更いっても仕方がない事なのだ。
先の大戦でのバロンの立場は、ゴルベーザ率いる一味に占拠され望まず悪事の片棒を担がされたという立場になっている。
バロン王には一切の罪はなくむしろ悲劇の王であるとされ、今も武に優れ政治的優れた賢王だったと国民らの信望は高い。
バロンの再建にあたって、新しい王に建国王バロンの血筋を望むのは当然の成り行きだった。
だがそれで世が平定するかといえばそうではない。なぜなら、残念ながらアルベールにはそれほど濃い血が流れていないからだ。
とすれば、おかしな考えを持つものが少なからず現れる。
それを封じ込めるためには強力な後ろ盾が必要だ。
いくつかの貴族たちはすぐにアルベールを支持することに回ったが、未だ盤石とはいえない。
そこで出てきたのがこの度の結婚話だ。
王妃候補としては何人もがいたが、その中でもローザが飛び抜けて有力視されていたのは当然の流れだ。
歴代の大臣を務めていたファレル家の息女にして、世界を救った勇者の一人となればこれ以上のものはない。
おそらく誰も文句のつけようがないだろう。
正統なバロンの血をひく王と、勇者の王妃。
そうなればこそ新生バロンとして申し分のないスタートが切れる。
国民たちは過去から未来へと…明るい未来を夢見ることができる。

「…忙しくなるな」
「そうだね」
「アルベール様とは話したか?」
「うん…何度かね」
セシルはその時のことを思い起こすように目を細めた。
「いい方だよ、本当に。一度は僕が暗黒騎士の詰所に居た時にも来てくださった」
「暗黒騎士の?」
カインはセシルの言葉に驚いた。
というのも、暗黒騎士の詰所には歴戦の勇士ですら穢れを嫌って必要がなければ決して近づかない場所だからだ。
普通、次期国王がわざわざ自分の足で向かうような場所ではない。
「それは…すごいな」
「ほんと、すごいよねぇ。それに僕に頭まで下げてさ…」
しんみりというセシル。
長い間を開けた後「まいったよ」とポツンと言った。
「恨み言の一つや二ついってやりゃよかったんだよ」
「そうもいかないでしょ。どっちかっていうと、僕の方が頭を下げなきゃいけないところだと思うし…なのに土下座する勢いでさ…。」
それを聞いてカインはさもありなんと思う。
彼はアルベールを親しくしっているわけではないが、近頃は口を効く機会がそれなりにあるし、以前からもベイガンや周りから人柄くらいは聞いている。
アルベールという男は、少し精神的に弱い…というか、優しすぎる面があるのだ。
「ローザ…様からは?」
「彼女からも頭を下げられてしまった」
「未来の陛下と王妃にか。そりゃすごいな」
少しだけちゃかすと、セシルも笑った。
「本当に、男泣かせで女泣かせ。悪い男になったみたいだよ」
「そのものだ」
「…そっか」
「それでお前はなんて?」
「どうもこうも…謝罪を受けるような立場ではないし…。陛下には、よろしくお願いしますと…ローザ様には、これからは臣下として誠心誠意勤めたいとお伝えしたよ」
なんとも複雑な関係だ。
彼らは三人ともおそらく最上の幸せを自ら手放した。
そうして自らを犠牲にした上で、バロンのために奉仕しようとしている。
個人の感情ではどうにもならない。
無責任にセシルにローザと駆け落ちしろなんていうことはカインには言えない。
それにそれを了承するような二人ではない。
アルベールだってそうだ。詳しくはきいたことはないが、彼にも婚約者がいたとかいう話をちらと小耳に挟んだことがある。
本当に複雑だ。
だが…それでも彼らが不幸にならなければいいとカインは思う。
最上の幸せはなくても…それを犠牲にして手にしたものが素晴らしいものであれば、彼らは少なくとも不幸にはならない…いや、幸せになれるはずだ。
カインはそう思いながらもよくやったと言葉をかけ、セシルの頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。
セシルは一瞬泣きそうな顔を見せたが、それも本当に一瞬のことで、彼は晴れやかな笑顔を作ってみせた。

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