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ほどけた指を

独ロマ 死ネタ…だけど、輪廻ネタなので、暗くないです。
読み返さない

小さなロヴィーノは、コインを持って移動屋台のワゴンの前に立った。
まだ小さいので店のすぐ前に立つと店員の死角に入ってしまう。だから店の前といっても少し離れた場所だ。
そこでじっとしていると、やがて接客をしていた男が気づいてにっこりと笑い身体を乗り出す。
ロヴィーノはそうして初めてすぐ近くまでトコトコと歩いて近づき、男に向かってコインを持った手を伸ばす。
「今日は何にする?」
「サンドイッチ」
「またか、よく飽きないなぁ。ちょっと待ってろよ」
男は呆れたようにいってワゴンの中に引っ込んだ。
ロヴィーノはこの店の常連だ。
毎日ここに顔を出してはサンドイッチを買っていく。
店員の男は、ロヴィーノのことを少々心配していた。まだ小さいのに笑顔が少なく、しかもいつもいつも一人だ。
さり気なく聞いたところによると、両親はほとんど家に居ないらしく毎日一人で過ごしているという。虐待はないようだし一応食事の金は与えられているようだが、ほぼ育児放棄を受けている状態であるらしい。
店員の男はプラスチックの容器にサンドイッチを詰めて袋に入れると、“おまけ”としてチョコレートとキャンディを入れてお釣りと共にロヴィーノに渡す。
「おい、坊主、暇なら少し手伝っていかないか?」
そして声をかけると、ロヴィーノは少し驚いたように男を見上げた。
「どうだ、入ってみないか?」
雑多なもので溢れているワゴンの中は、子どもたちにとって宝箱のようなものだということを男は知っている。
ロヴィーノにとってもそうだ。
ロヴィーノは一瞬迷ったような表情を見せた。
「特別にサンドイッチを作らせてやるぞ」
もう一息だな。そう男がもう一声かけたが、これは逆効果になってしまった。
ロヴィーノはよろよろっと一歩二歩と後ろに下がったかと思うと、くるりと男とワゴンに背を向け脱兎の如く逃げ出してしまった。
小さくなっていくロヴィーノの背中、それをみて「ありゃ、焦りすぎたか」男は頭を掻いたが、手応えはまずまずだった。今度きたらもう一度誘ってみようと心に決めた。

 *

サンドイッチを持ったロヴィーノは、小道にある階段に座ってサンドイッチを頬張っていた。
彼の座っている位置からは、多くの人が行き交う大通りが切り取ったように見える。
そこはロヴィーノのお気に入りの場所でもあった。
彼の座る位置は斜めに陽がさして明るい。
だが、大通りの方は影になっていて暗い。
そのコントラストが好きだった。
いや光の具合だけではない。
大通りの人々は並べて忙しく左右に歩いている。なのに一歩小道に入れば、時間はとにかくゆっくり、ゆっくりと流れているのだ。
それがまた面白い。
気づくとすぐ隣に猫がいた。
このあたりを住処にしている野良猫で、ロヴィーノが“ジャンナ”と名付けている猫だ。
彼(彼女?)はロヴィーノが気づいたと見ると、にゃぁとないて食べ物をねだる。
なんとも生意気な猫だ。そう思いつつもロヴィーノも慣れたもの。彼はサンドイッチを開いて中に入っていたシーチキンを少しだけ取り出すと猫のそばに置いてやった。
にあ。
途端、礼のつもりか嬉しそうにないて、ペロペロと舐めるように食べる猫。
ロヴィーノはまた大通りの方に視線を向けた。
そして…“探す”。

彼自身、何を探しているのか明確にはわかっていない。
だが、探す。
そうせねばならないという使命感が湧いたのはいつだったか。
とにかく気づけばいつも“それ”を探していた。
それがモノなのか、人なのか、音楽なのか、匂いなのか…それとももっと別のものなのか…それすらわからずにひたすら探す。
えてして月日、時間というものが若いものであればあるほど、同じ時間でも長く感じるもの。ロヴィーノはもう100年ばかり探し続けているような気分だった。
だが彼は諦めようとはしなかった。
確かに見つけられない日の終わりには、ベッドの上で多少がっかりすることはある。
だが、今日見つけられなければ明日がある。
不思議と彼は“見つけられないで終わる”という可能性を全く考えていなかった。
いつかは見つかる。絶対に。見つけてみせる。だから探さないといけない。
彼は使命…いや宿命にせかされるようにそれを探し続ける。

ゆっくりと陽が傾いていく。
シーチキンを食べ終わった猫…ジャンナは一度ロヴィーノの横を立ち去ったが、いつのまにか戻ってきていて今は丸くなって眠っている。
ゴーン、ゴーン、ゴーン…遠くで鐘が鳴った。
鐘の音は6つ。
そろそろ家に帰る時間だ。
帰った所で誰もいないが、6時半になると近所のおばさんがロヴィーノの食事をもってきてくれる。
その時には家にいなければならない。
今日も見つけることは出来なかった。…そう思った時だった。
大通りの方…相変わらず人通りの多い通りを一人の男が通り過ぎた。
その男が通ったのは一瞬のことだった。
時間にして1秒となかっただろう。
それを見たロヴィーノだって、それが男で背が高かった…くらいしか判別ができなかった。
だがその瞬間、ロヴィーノの小さな胸がドンっと大きな音を立てた。
「あ…」
ロヴィーノは思わずかすれた声を上げる。
どくどくどくっと鼓動が早くなり、全身がカッと熱くなった。
「みつけた」
なんの証拠もない。だが自分の心が、魂がそうだと言っている。
彼は探しものをついに見つけたのだ。
ロヴィーノは焦って彼の方に駆け出そうとし、とっさにジャンナを抱き上げた。
自分でも何故そうしたかわからない行動だったが、もしかしたら一人では心細かったのかもしれない。
彼はジャンナを両手でかかえると、出来る限りの速さで走った。

 *

ロヴィーノは人ごみをかき分け、男のすぐ後ろを歩いていた。
男はロヴィーノから見ると見上げるとほどに大きい。
黒いコートを着た男は、足早に歩いていて、ロヴィーノはどうしても駆け足にならねばならないのだが、それを邪魔するのがジャンナだ。
それでもジャンナがおとなしいからまだいい。
ロヴィーノはどう話しかけようか考えながらもう100メートルばかし男を尾行していた。
ロヴィーノはなんどか口を開き、そして虚しく閉じた。
両親にあまりかまってもらった覚えのないロヴィーノは、これまでほとんど人と接したことがなかった。故に知らぬ人に話しかけるということに漠然とした恐怖があった。
どうしよう、どうしようと考えながら追っていると、やがて静かだったジャンナもブラブラとした不安定な体勢に腹を立てたのか暴れだした。
身を捩ってロヴィーノの腕から逃れようとするジャンナ。必死に抑えこみながら走るロヴィーノ。
みぁああ!
嫌そうにジャンナが鳴いた瞬間、前を歩いていた男の足がぴたっと止まった。
走っていたロヴィーノは慌てて足を止め、やはりジャンナをぎゅっと抱きしめ男を見上げた。
足を止めた男はゆっくりと足を止め後ろを振り返り、そしてゆっくりと足元…つまりロヴィーノの方を見ると、驚いたように目を見開いた。
男は当たり前だがロヴィーノよりもずいぶん年上に見えた。だがそれでもロヴィーノの両親よりは年下だろう。
見事な金髪をきれいに後ろに撫で付けた男は、とても澄んだ青い目をしていた。
その男は固まっているロヴィーノの前で腰を降ろすと、うれしそうに目を細めた。

「まさか、お前から探してくれるとは思っても居なかったな」

ハッとロヴィーノが息を飲んだ瞬間、彼は男の腕の中に包まれていた。
その瞬間、またロヴィーノの胸はドンっと大きく跳ねた。
そして何故か泣きたい気持ちになった。
ロヴィーノはいつの間にかジャンナが腕の中から逃げていったのに気づかなかった。
小さくふるえるロヴィーノ。
体を離したその男は立ち上がると、ロヴィーノに手を差し出した。
「さぁ行こうか」
初対面であるはずなのにごく自然にそう誘う男。
どれほど警戒心の薄い子供でも、これで男の手を握る子供なんてそうはいないだろう。
だがロヴィーノは、泣きそうになっていたロヴィーノはその男の手に小さなそれをのせ、男の指をぎゅっと握りしめた。
そして「さぁ行こう」と歩き出した男にロヴィーノは呼びかけた。

「ドイツ」

と。

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