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その先のずっと先までを

独と仏の話
なんてことはない話 駄文 よみかえさん

ドイツとフランスは会議後、詰めきれなかった案件を話すために会議場近くのオープンカフェに入った。
会議場がフランスの地元だったこともあり、カフェは彼の馴染みの店でもあった。
ずらりと通りに並ぶ建物は18世紀あたりにたてられたものばかり、住む人や入る店舗は変わっていても古きよき時代の名残がある。
カフェは明るく雰囲気がよく、また映画の撮影にもそのまま使えるような洒落た外観をしており、観光客はもちろん地元の住人にも贔屓にしているものは多い。
ゆっくりと談笑を楽しんでいるらしい女性客、はじめてのデートなのだろうか少し緊張した面持ちで人待ちをする若い男性客、新聞を読む恰幅のよい男性客に、熱心に携帯をいじる若い女性。
やっていることはそれぞれだが、誰もがカフェに充実を感じている事がうかがえる。案件が暗礁に乗り上げてしまった二人を除けば…であるが。
フランスがこのカフェを選んだんは少しでも雰囲気が明るくなれば…という思惑があったのだが、それは席について20分で無駄だったということに気づいた。
最初はお互いに穏やかに話そうと努力していたにも関わらず、ふたりとも案件については妥協することが出来ず、だんだんと険悪な雰囲気になってしまったのだ。
これでは雰囲気のよい場所を選んだ意味がない。
いやむしろこの場所で楽しむ人達にとっては、彼らは害悪でしかないだろう。

何度かめにやりあったあと、フランスはそっと息をつき冷え切ったコーヒーに口をつけた。
まずい。
もう一杯頼むべきだろうか。
だがそうすれば、また長い時間ドイツと顔を付き合わせていなければならない。
それは嫌だ。嫌ではあるが、ここらでお開き…なんてコチラから切り出すのも負けたようで気に食わない。
だったら徹底的にやってやるか…と思いはするが、しかしその気力も尽きかけていた。
正面を見ると、ドイツもまた疲れと不機嫌さを漂わせている。
折れてくれないだろうか…とフランシスは考えるが、それがはかない望みであることを彼は知っている。
ドイツはかたくて真面目…というのももちろんあるが、それ以上に若くて融通が利かない。
彼はきっと折れないだろう。
ということはやっぱり自分が年上として折れてやるべきなのか…。
だが気が進まない…。
そんなことをフランシスが思っていると、ふいに彼のスーツの裾がツンツンっと引かれた。
「ん?」
何かと思いながらそちらをみると、5歳くらいの愛らしい少女がいるではないか。
フランシスは目を丸くして驚いた。
可愛らしい少女だった。
りんごのように色づいた頬、くるんと大きな青い目。天使のようなちゅるちゅるの髪は、サイドに赤いリボンで結ばれている。
赤いワンピースも素敵で、映画に出る子役みたいだとフランスは思った。
「なにかな?マドモアゼル」
先程までの不機嫌はどこへやら、にっこりと愛想よく笑ったフランスに彼女はぱちくりと目を瞬いた。そして…
「ねぇ、あなたは吸血鬼なの?」
なんとも突拍子のないことを言う。
「お兄さんが吸血鬼?」
フランスはくすくすと笑い「それなら」とドイツを見た。
「向こうのお兄さんの方じゃないか?髪を後ろに撫で付けているし、黒いスーツもそれっぽい」
椅子には黒くて長いコートだってかかっている。
フランスがそういうと、女の子はドイツに視線を移した。
ドイツは戸惑ったような顔をして、目を泳がせる。
「あなたも吸血鬼?血を吸うの?」
「いや…俺は違う」
ドイツ訛りの固いフランス語に、自称世界のお兄さんは苦笑する。
「じゃぁやっぱりあなたが吸血鬼?」
「ん~、その前に、どうしてお兄さんが吸血鬼だと思ったの?」
「だっていってたもの」
「誰が?」
「おばあちゃんよ。もう98歳なのよ」
「なんて言ってたんだい?」
「あのね、ずっと長く生きてる人がいるって。その人たちは、“フランスの人”なんだって。他にも“イギリスの人”や“ドイツの人”がいるんだって」
少女の言葉にフランスもドイツも驚いた。
彼女の言っていることはまさしく自分達のことではないだろうか。
彼らのような国の存在は、一般にはほとんど知られては居ないが、だからといって特に隠すことはしていない。それでも彼らの存在を“国”として認識している人間はとても少ないのだ。
「でも、長生きをするなら、吸血鬼でしょ?あなたは棺桶でねているの?」
「うーん、その前に、どうしてお兄さんが吸血鬼だと思ったの?」
フランスの問いに、彼女は不満そうに口を尖らせた。
「だからおばあちゃんがいってたっていったじゃない」
フランスとしてはおばあちゃんがなんと言ったのか、なぜ彼女がフランスが“そう”だと思ったのかが知りたかったのだが、どうも彼女には難しそうだ。
「ねぇ、あなたは吸血鬼?」
急かすように言う少女に苦笑し「違うかな」とフランスは言った。
「でもおばあちゃんの言った人なら俺かもしれないね」
「それってどういう意味?」
「そうだなぁ…あぁ、それは向こうのお兄ちゃんに聞いたらどうかな?」
フランスの言葉に彼女はテーブルを迂回し、大胆にもドイツの足に手をおいて下から覗き込むように彼を見た。
その無邪気な仕草に、普段子供には怖がられることの多いドイツはカチンと固まった。
もしかしたら彼は、これまで一度としてこんなふうに子供に触れられたことはないのかもしれない。
「あなたは“何処の人”なの?」
「あ、えっとドイツだ」
「ドイツ!知ってる!今度パパとママと一緒に旅行にいくのよ!」
ぱっと笑顔を見せる少女にドイツも少しだけ嬉しそうにした。
「そうか」
「おしろを見るっていってたわ!」
「城?あぁ、それはきっとノイシュバンシュタインだろうな。あれはなかなか見ごたえがあるな」
「ノイ…?」
「ノイシュバンシュタイン。バイエルンにある城だ」
自国の話題のせいかドイツの口調は柔らかい。
それを見てフランスは苦笑する。
「バイエルンはどこの国?」
「バイエルンは俺の…いや、ドイツにあるな」
「俺の?」
「言葉のあやというやつだ…」
いつのまにか話は完全にずれてしまっている。
だがそれでいいのだろうとフランスは思う。
別にわざわざ本当の事を教えてやる必要はないし…、なにより彼女が楽しければそれが一番いいのだろう。
フランスは手を上げてウェイターを呼ぶと、冷めてしまったコーヒーのおかわりを頼んだ。
きっともう少ししたら…今はドイツの観光地の話を熱心に聞いている少女の母親が、彼女を迎えに来るだろう。
そうしたら第二ラウンド…いや、会議が第一ラウンドで、先程までが第二ラウンドだとしたら、第三ランドだが…が、始まることになる。
こちらは譲る気はないし、向こうだってそうだろう。
だが、彼女のお陰でなんとなく妥協点が見つけられそうな気がした。
「それにしても…」
これは結構面白い見世物だ。
いつもの調子を取り戻したフランスは、携帯電話を取り出すと撮影モードに切り替え、少女と“楽しそうに”談笑するドイツへと向けた。
そしてパチリと一枚。
「ふふふ、これはプーちゃんに送っちゃおうかね」
フランスはによによと笑いながら素早くそれを古い友人であり、ドイツの兄でもある男へと送信してしまうと、コーヒーを持ってきたウェイターに「メルシ」と機嫌よくお礼を言った。

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