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悪魔の涙 07

「君、人が嫌いなん?」

私が問うと、銃をいじっていた火村は怪訝な顔をして私を振り返った。
「なんだって?」
「やから君は、人が嫌いなんか?ってきいとる」
もう一度聞くと、火村は何か考えるように少しだけ間をあけ、「朝井博士か」と忌々しげに言った。
朝井博士というのは、私たちの“社”の先輩だ。とはいっても博士の名が示す通り内勤、精神汚染の専門家でありその筋の権威でもある。
私にとっては尊敬すべき人で、日頃意見を聞いたりアドバイスを受けたりして親しくしているが、火村はなぜか彼女を苦手としている節がある。
「他には何かいってたか?」
「ん、君が、人嫌いやから、研究に協力してくれへんのやろうなって」
「は、自分が嫌われてないとかは思わないわけか」
「別に嫌ってはないやろ?」
皮肉たっぷりに言う火村に呆れながら言うと、何故か火村も呆れた顔を私に返してきた。
今のはどういう意味だ?
「それで…?」
「それでって…べつに。いつもの通り、君に研究を手伝って欲しいいうとったよ」
火村は壊すに特化した能力の持ち主だが、彼くらいの力を持っていれば“汚染”のモデリングができるんじゃないか…というのが、朝井博士の考えだ。
そしてそれは私も正しいと思っている。
彼は攻撃的な実働員だが、頭だってものすごくいいのだ。彼が朝井博士に協力すれば、きっと彼女の研究は大幅に前進するに違いない。
そうしたら…もしかしたら精神汚染や思考汚染の原因や、根本的な解決法がわかるかもしれない。
「君やったらやれるやろ?」
「どうだろうな」
火村は興味がないように言って、愛おしげに銃を撫で出す。
その仕草がやけにいやらしく見えるのは…もちろん私の気のせいだろう。
「君の仕事のことやん。もっと協力したらええのに」
「興味がないんだよ、そういうのにはな」
「モデリングが?」
「モデリング…というより、彼女のアプローチの仕方に」
「それってどういう意味や?」
彼の言葉の意味がわからず胡乱な目で見るが、火村は一向に動じた様子はない。
むしろ機嫌良さげに鼻を鳴らす。
「つまり、俺は俺ってことさ」
「それはそうかもしらんけど…協力したってもええやん?…汚染が近頃ひどいのはしっとるやろう?そのメカニズムを解き明かしたいとは思わへんの?」
「そんなことしたら、俺たちは職を無くしちまう」
「火村、真面目な話やで?」
「俺だって真面目だぜ?言ったろ、俺は興味がないんだよ」
「興味がないとかあるとか…そういう問題やないやろ?」
私は少し腹が立ってきた。
精神汚染というものがどういうものか知らないわけでもないだろうに…なんでそんな無責任の事を言えるのだろう。
「火村!」
避難する私に彼は片方の眉を器用に上げて見せる。
「怒るなよ、アリス」
「怒るやろ!君がそんなひどいこと平気でいうとは思わへんかった!俺は君の事買いかぶっとったみたいや!」
「失望したか?」
「絶望や!」
火村は怒る私をじっと見つめ、ため息をついた。
飲み込みのわるい子供に呆れるように。
「なんやねん」
「…あのなぁ、アリス、お前、毒されすぎだ」
「は?」
「というより、そもそも何もわかっていなかったのか?」
「なんやて?」
ムッとする私に火村は持っていた銃を持ち上げ「コレに何が入っているかしっているか?」と聞いた。
「なんやねん…?」
よくわからずに首を傾げると、彼はカートリッジを取り出し弾をひとつ取り出した。
「普通の銃の弾と見た目は変わらない。だが、中身は違う」
「それって今関係あるんか?」
「あるから話している。…アリス、ではこの弾の中身はなんだと思う?」
「弾の中身って…わからんけど」
というか、普通の銃の弾の中身もよく知らない。
特殊な金属でもつまっているのだろうか…?聖別されたの銀とかか?
私が答えずにいると、火村はカートリッジに弾を戻しながら「中身は秩序だ」と言った。
「秩序?」
「そう、“俺の秩序”が入っている。それで俺は感染者を破壊、攻撃しているんだ」
「ち。秩序ってなんやねん?」
「秩序は秩序だ。理でも因果律でもいいが」
理屈でもいい。
火村の言葉に私は頭がくらりとするのを感じた。
一体火村はなんの話をしているのだ?
いや、もしかしてからかわれているのか?
頭を押さえる私を見て、火村はため息をついたようだった。
「アリス、お前の仕事っていうのは、そういうものなんだよ」
「そういうって…なんやねん」
「適切な言葉はまだない。だが、これは…なんというか…哲学的な問題なんだ」
「哲学?」
「そう、自分が自分であるということの戦いなんだ。存在意義の戦いだな」
「意味がわからん」
吐き捨てると火村はシニカルに笑った。
「だろうな。 けど、少しはわかっただろう?俺と朝井博士は“哲学”が合わないんだよ、だから彼女と一緒に研究をしたところで不毛なだけ…きっと水掛け論になっちまう。…けど、それは朝井博士が間違っているというわけじゃない」
「でも、君がまちがっとるわけでもないんやな?」
「そういうことだ。…わかってないってツラだな」
「…そんなん、わかるわけないわ。俺は君ほど頭の出来はよくないんや」
私の言葉に彼はニヤニヤと笑い、そのうち色々わかってくるさと知ったような事を言った。

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