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きみしだい 02

動物たちの世話を終え、家に戻ってみるとなにやら良い匂いが部屋中を満たしていた。

「ロヴィーナ…?」

降りる駅を間違え、急遽うちに泊まることになった女の子の名前を呼びながらキッチンを覗くと、彼女は俺の黒いエプロンをつけ、大きな鍋をかき回していた。
彼女は俺に気づくと振り返って「遅い」と一言文句を言った。
「そう…か?しかし山羊や鶏の…いや、何をしてる?」
「何って見てわからない?」
「いや…料理をつくっているようだが」
「なんだわかってるんじゃない」
ふんっと鼻を鳴らしたロヴィーナは、俺を睨み「家畜臭い」と言った。
「出来るまでもう少し時間かかるから、お風呂でも入ってきて」
「…あ、あぁ」
自分でも多少は自覚がある。
だからそれはいいが…風呂を進めてくるのは、なんだか彼女のほうが家主のようで納得がいなかない。

 *

風呂から上がってみれば、夕食の準備は整っていた。
もちろん二人分ちゃんと食卓に並んでいる。
彼女が作った料理は、野菜のトマト煮込みだ。「適当に煮込んだだけ」という彼女の言葉どおりの簡単なものではあったが、味付けは抜群に美味しかった。
飾り気のない料理ではあるが家庭的で、彼女自身作り慣れた料理なのだろうな…というのがよくわかるものだった。
「本当はパスタを入れたかったんだけど…」
そうすればとっても美味しかったのに。
なんで無いんだ…とばかりに睨まれて、俺は苦笑した。
確かにパスタは切らしていたような気がする。
「済まない。いつもは買い置きがあるはずなんだが」
「そ。別にいいけど」
明日出ていく予定の彼女には俺の言い分なんてどうでもいいのだろう。
適当に返事をしたあとは、パンをちぎって口に運び出した。
少し味が濃いといえないこともないが、それは彼女がパスタを絡める予定だったからだろう。
パンにつけても美味しい。2日目にはもっと味が染みこんで美味しくなりそうだ。
「ところでどこに行く予定だったんだ?」
しばらくたち、食べながら彼女に本来の行き先をきいてみると、彼女は「ルヴェイン」と、大都市の名前を上げ俺を呆れさせた。
「ルヴェイン?まだここから2時間も先じゃないか…」
「そうなの?」
「そうなのって…。…君は旅行者か何かなのか?」
「そんなものかも」
すましたように言う彼女に、なんだか俺は嫌な予感がした。
「まさかとは思うが家出とかいわないだろうな?」
俺の言葉に彼女はピクンと指をはねさせ、俺の方をじっと見た。
「おい…」
まさか本当に…。
そう思った時、彼女は「違うわ」と一言いった。
「家出じゃない。だって、一緒に住んでいたお父さんは死んでいるもの」
「母親は?」
「うちは両親が離婚してるのよ」
「それは…。で、ルヴェインにはその母親に会いに?」
「ねぇ、それって尋問?」
彼女は気を悪くしたのだろう、食事の手を止めてこちらをキツく睨む。
「そういうつもりはない」
「だったら詮索?どっちにしろ迷惑だわ」
宿を提供してやるのだからそれくらい聞いてもばちはあたらないと思うのだが、俺は彼女の気の強さに少々呆れ…、しかし警官としてどうしても確認しておかなければ…と口を開いた。
「では、これだけは教えてくれ。ちゃんとルヴェインでのあてはあるんだろうな?」
そう、それだけは聞いておかなければならない。
彼女はうざったそうに俺を見たが、俺が諦めないだろうとわかるとため息をついた。
「一応、ある」
「一応?」
つっこむと、彼女は気まずげに視線を逸した。
「…大丈夫よ」
根拠の示されない“大丈夫”ほど信用の置けないものはない。
「本当に大丈夫なのか?ちゃんと頼れる人はいるんだろうな?」
ルヴェインは比較的治安のよい都市だ。だが、犯罪がゼロというわけではもちろん無い。
彼女のような若い女性を狙う罠はいくつだってあるのだ。
彼女はわりとしっかりしていそうだが…こんな片田舎の駅に降り立ち、そして警官とはいえ一人暮らしの男の家に何の躊躇もなく泊まりこむ所などあまりにも無防備としかいいようがない。
もしコレで俺が悪徳警官の類だったらと思うと…。
「……」
顔を曇らせたまま何も言わない彼女に、俺の不安は大きく膨らむ。
「ロヴィーナ…正直に答えてくれないか?」
「…なに」
「行くあてはあるのか?」
それは先程も聞いたことではあった。
その時の…以前の彼女の反応は“一応、ある”だった。
だが…この時彼女は何も言わなかった。
そのかわりに、彼女は顔をぐにゃりと歪めてポロポロと涙を流しだしたのだった。

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