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紅蓮灰雨 04

木張りの天井。
程よく暖まった室内。

「また、死に損なったか」



「呆れるほどよく食べるわね」

セレスの言葉を無視して俺はリーゾを口に掻き込み、ウィンナーを口に押し込んだ。
どちらも大して旨いとは思わないが、今は味は二の次だ。
がっついて食い物を次から次に口へと運び…
「そんなに急がなくても誰もとらないわよ」
詰まりかけた胸を叩くとセレスが水を渡してくれ、俺は一気にそれを飲み干した。
そこでようやく人心地ついた俺は大きく息をつき、食べる速度を落とした。
「…お前が俺を助けたのか?」
俺の言葉にセレスは肩をすくめた。
「別に助けたなんてものじゃないわ。落ちてたから拾っただけよ」
「へぇ」
不機嫌なセレスの言葉に嘘はないだろう。
彼女は元々情に厚いと聞いたことがある。すでに敵同士でない俺は、彼女の憐れみをかったらしい。
「何をしていたか聞いてもいい?」
「何を?別になにもしちゃいないさ」
肩をすくめて汚れた手を布で拭うと、立ち上がって体を軽く動かし調子を見た。
「今はどこに?」
「ゾルデ」
「そうじゃなくて」
まったくいやになるほどに丈夫な体だ。
シルメリアの奴が何か手を加えたのかもしれない。
俺の体は生前よりタフになっている気がするし、調子もいいような気がする。年齢だって心なしか若くなっているようだ。
「どこに拠点を置いてるのかってことよ」
「生憎俺は根無し草でね」
左手に巻き付けられた包帯。
特に問題が無さそうなのでくるくるとほどいてゆく。
手首がだるいのは長い時間愛剣を振るい続けていたいたからで、問題はない。
「今、何をしているの?…包帯のことじゃなくて、どうやって暮らしてるのかって話」
「お前は俺の母親かよ」
俺にはそんな世話焼きの母親がいた覚えはないが。
ため息をついて睨み付けるが、セレスはピクリとも表情を動かさない。
「教えて」
「追い剥ぎの真似事を」
「冗談はやめて」
「なんだっていいだろう」
丸めた包帯を放り投げ、俺はベッドに腰かけると鎧の一式を引き寄せる。
「何をして暮らしているの」
「しつこいな」
「いいでしょう」
「人道に反することをやられてちゃ、同じエインフェリアだった…いや、カミール17将とよばれた者として格好悪いってか?」
「どうしてそうひねくれてる!」
「へぇ、じゃぁお前は俺を心配しているわけか。戦のない世界で俺が野垂れ死ぬんじゃねぇかって?」
腹の底がカッと熱くなり、怒りに体が震えた。
そんなことどうでもいいくせに。
「おかしな同情は相手にとって迷惑なだけじゃなくて、てめぇの寿命を縮めることになるぜ」
「だからどうしてそんなにひねくれている!」
俺もカッカしているが、向こうも相当だ。
俺は意識的に深く息をして気持ちを落ち着けると、装備を整えてゆく。
無言で甲冑を着ていく俺と、そんな俺をじっと見つめるセレス。
俺は自分の胸にむなしさが広がっているのに気づいて、自分がセレスに多少の希望を抱いていたのだと知る。
彼女は俺よりも先に解放されており、風の便りに剣を棄てたと聞いていたにも関わらずだ。
彼女はもう良くも悪くも普通の女だ。
俺の首を落としたあの女はもういない。
兜をじっと見つめ、曇りを拭い頭に被る。
「謝礼はする」
壁に立てられた剣をとり言うと「何処へいく」と聞かれた。
「安心しろ、踏み倒しゃしねぇよ」
何なら念書でも書くと言えば、彼女はまた怒りを堪えるような顔をした。
この女はこんなにも感情的だったろうか?…いや、そもそも俺はこの女については殆ど何も知らない。
「何が言いたい?」
「行く宛がないなら、私に付き合わないかと思って」
「お前の情人になれって?」
わざとらしく頭から爪先までを目でなぞると、セレスは顔を真っ赤にして怒った。
それで下らぬ会話は終わりだろう。
俺は剣を背負い、そのまま出ていこうとしたが…

「待ちなさい」

思いがけず呼び止められた。
驚いて振り返ると、相変わらず怖い顔をした女が俺を睨んでいた。
あの顔は…以前にも見たことがある。
遠い昔に。
死に損なう前に。
「…まだ何か用か」
「行く宛がないのなら、私と一緒に行かない?」
「…どこへ?」
興味をひかれて聞くと、彼女はほんの僅か目を眇めた。
「シルメリアの…いえ、アリーシャの足跡をたどる旅をしたいと思っているの」
「何故?」
「…一度、きちんと今回の旅を考えたいと思っていたから…」
俺の問いに一拍を空けて答えたセレス。
彼女の言葉に嘘はないだろうが、口をついて出た方便に近いものというほうが正しいだろう。
「彼女の足跡をたどり、今一度ゆっくりと考えたいんだ。彼女の考え、感じたこと、その思い…すべてをもう一度、彼女の身になって追考したい」
これもだ。
けして嘘ではないが、だからといって彼女自身が真に欲しているものではない。
何故そんなことを口にするのか、俺にはわからない。
少なくとも惚れた男を引き留めるため…なんて可愛い理由ではないはずだ。
何を考えている?
彼女の目論見、それが何かはわからない。気になるが、問いただすつもりはない。だが彼女の提案には心を牽かれるものがあった。
彼女との旅…。
セレスならば…俺の願いがわかるはずだ。俺の望み、俺の希望が。
ならば…
「いいぜ」
俺は、彼女の前で今度こそ本当に死ねるのかも知れない。

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