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梅妃

部屋に戻ると、ソファにどうどうと座ってくつろぐ男が一人。
その男は飾り棚にあった酒をかってに持ち出し、グラスに注いで飲んでいた。
アーシェは一瞬呆気にとられ…そしてすぐに正気に戻ると後ろを付いて部屋に入ろうとした従者を慌てて振り返り、彼らを下がらせた。
そうして彼らが扉を閉じる間すらもどかしく、自分でそれを閉じるとカシャンと錠を下ろした。

ホッとため息をつく背に、クククっと笑う男の声。
「バルフレア!」
怒りを露に出し振り返ると、彼はハハハと快活に笑った。
「あんたの驚いた顔と言ったら…傑作だぜ、王女…いや、女王様」
アーシェは言い返そうと大きく口をあけ…結局何も言わずにため息をついた。
「驚きもするわよ」
そう言って、彼の向いのソファに座り、彼が酒を注いでくれたグラスを手に取り少しだけ口をつけた。
そして…
「それ…」
彼女はテーブルの上に何枚かの写真が置かれているのに気づき、苦い顔をした。
彼女の新しい結婚相手候補の写真。今朝方、大臣の一人が持ってきて…そして突き返し、何度かの問答のあと、結局にそこに置かれたままになっていたものだった。
こんなことなら破り捨てておくのだったとアーシェは後悔したが、今更隠そうなんてことをしても無駄なの事。しかし、それでも彼女は今すぐそれを彼の目から隠してしまいたかった。
彼女はきゅっと唇を結び、手を伸ばしたのだが…彼女の手がそれに触れる前に、それらはバルフレアに奪われてしまった。
「バルフレア!」
「なんだよ。いい出走メンバーじゃないか」
「競馬みたいに言わないで!」
「似たようなもんだろう。」
賞金はあんただ。
そう言われてアーシェの顔は歪む。
「…他に言うことはないの?」
「一人はちょっと年がいきすぎちゃいねぇか?…まぁ、確かにいい家の出ではあるし、財力・権力ともになかなかだが」
「他には?」
「一人はあまり性質がよろしくなさそうだ。こりゃ絶対女に暴力を振るうタイプだね。やめといたほうがいい」
バルフレアは、
「他には?」
彼女が欲っしている言葉を口にしてくれない。
「こっちの男はおぼっちゃん。凡庸としてて何の価値もない。マザコンの典型。無能な部下に食い物にされるタイプだな。」
わざとなのか、
「他には?」
じらしているのか。
「この男は野心家タイプ。頭もいいし、政(まつりごと)にも通じている。ただし、ちょっと人望はいただけない。部下には嫌われるタイプだ。
それとも…本心をいっているのか。
「…」
「そして最後の一人。こいつは…まぁ、この中じゃぁ一番マシかもな。なかなかいい男だし、年齢だってあんたと釣り合う。ただ問題は家柄だ。かなり弱いな…。金は持ってるが所謂成金…どうした?」
言葉を止めてバルフレアは沈んだ顔をするアーシェを見た。
アーシェは、その言葉に笑おうとして失敗し、グラスをもう一度口につけた。
望んだ言葉をくれはしないバルフレア。
しかし、それは半ば想像できたはずだ。
なのに…アーシェはそれに自分がひどく傷ついていることをしってショックをうけていた。
「王女様?」
「…なんでも…ないわ」
「なんでもって顔じゃないけどな」
バルフレアは立ち上がり、テーブルを迂回して彼女の隣に座った。
「顔色が悪い」
「疲れのせいよ」
「そうかい?」
「そうよ」
彼女が答えると、バルフレアは小さく笑った。
アーシェが顔を上げると、面白がるようなバルフレアの瞳。
見透かされている。
アーシェは悔しさに奥歯を噛み締めた。
すると、
「あんたは…」
ため息をつくようにバルフレアが口を開いた。
「相変わらずだな」
「どういう意味ですか?」
「プライドが高いというか…意地っ張りというか、それとも素直じゃないというか…」
「可愛げがなくてすみませんね」
「おいおい、可愛げがないとはいってないだろう?」
「そうとしか聞こえません」
「あのなぁ……いや…まぁ少しは素直になってほしいなとは思うがね」
アーシェはバルフレアをきつく睨んだ。
「俺に言って欲しいことがあるんだろう?」
「…そんなもの…」
「ないわけないよな。」
やはり見透かされている。
「だったらそれを言えってねだればいいじゃねぇか。」
「私は…別に…」
口ごもる。
だが本当はある。
バルフレアに言って欲しい言葉が。
結婚相手の候補を見て、その一人ひとりの評価をするのではなくて…そうではなくて…
言って欲しい言葉は…
「言えないか?」
自分からねだることはできない。でも、言って欲しい。
それは高慢な考えだろうか?
いや、違う。
言わないのは彼の意地悪であって…
「あなたは…素直じゃない私を可愛いといったわ」
そう切り返すと、バルフレアは「そうだったな」と苦笑し手を伸ばして彼女の肩を抱いた。
「なら仕方ねぇよな。」
弱い抵抗を示す彼女を無理に引き寄せて、コツリと額を合わせ、鼻の触れるほどの距離で…

「結婚なんてするんじゃねぇよ。」

お前は俺のものだろう?王女様。

彼はアーシェが一番欲していた言葉を口にした。

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