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紅蓮灰雨

アドニス!アドニス!
名前一切でてこないけれど、セレスです。

一度は失ったはずの肉体を得た私は港町ゾルデで私は働いていた。
街に家を借り、教会で働きながら未だディパン消滅の衝撃から立ち直っていない人々の助けをしていたのだ。
親が死に孤児になった子どもたちの世話や、住み慣れた故郷を追われ弱気になっている老人たちの介助、魔物に襲われた人々の看病やリハビリの手伝い、他にも教会に持ち込まれる厄介ごとの相談など多種多様の仕事がある。
やりがいのある仕事。
忙しいけれど、トラブルもあるけれど、…だけど、穏やかな日々。
私は充足感を感じていた。

 *

そんなある日。
使わなくなった剣をそろそろ物置にでもしまってしまおうかと思っていた頃だ、その話を耳にしたのは。
その時私は教会の一角で子どもたちに簡単な算数の問題を教えていた。
子どもたちの身近な“猫”や“キャンディ”を例にあげての簡単な足し算と引き算のお勉強。
子どもたちに問題を出して、彼らがノートに鉛筆を走らせている時、

「まさか山賊なんてもんじゃないだろうね、近頃は仕事にあぶれた危ないやつらがウロウロしてるって話じゃないか」
「いや、そんなもんじゃねぇよ、なぁサン」
「あぁ、ありゃもっと恐ろしいもんさ、死に取り憑かれてた。俺にはそういうのが見えるんだよ、昔からな」

聞こえてきた話に私は顔を上げそちらを見ると、少し離れた場所で女性と初老の男性二人が話している。
特に深く聞こうとまでは思っていなかったのだが、女性と目があってしまった。
女性は私の方を見るとすぐに「あんたも気をつけたほうがいいよ」と声をかけてきた。
「はい?」
「さっきね、森で危ない男を見たってこの人らが言ってるのさ」
「危ない男…ですか」
困惑しながら首を傾げると、彼らはその男について詳しく話してくれた。
「光を吸い込むような真っ黒な全身鎧をつけていてね、これまた真っ黒な大きな剣を抱えてた」
「そいつのところだけ妙に空気が重いかんじでなぁ…まるで影のようだった」
「そいつが魔物どもに切りかかっていくんだが、そりゃもう強いのなんの…まるで化物よ、あの恐ろしい生き物たちを一刀両断にするんだ。嘘じゃないぞ、頭から股下まで真っ二つよ」
「ありゃぁ死に取り憑かれているよ、本当に恐ろしいことだ。あぁいうやつを修羅というのか、羅刹というのか…」
とにかく気をつけたほうがいい、森には近づくな…彼らは言っていたが途中からほとんど話が耳に入らなかった。
私は子どもたちの相手もそこそこに、まるで何かに追い立てられるように教会から飛び出し…

そして気がつくと、家の中、倉庫にしまう予定だった愛剣の前に立っていた。

私は右手で速る胸を押さえ、その手を握りしめた。
教会での彼らの言葉に私が思い浮かべたのはただ一人。
誤りであればいいと思うが、おそらく予感は当たっているだろう。
私は“あれ”のことをよく知らない。
だけどわかる事はある。
同じ時代を生き、同じ戦場に立ち、剣を合わせ、そして首を打ちとった者として。
彼は私の元に来るだろうか……、自分に問うてそれはないと首を振った。
あの時、彼を討つ事が出来たのは本当に運がよかったからだ。
いや、運も実力の内という言葉があるから正確には『運』ではない。奇跡だ。
本当に奇跡だった。
それに、あの頃の私とは違い、今の私は鈍りきっている。
そんな私の元に彼が足を運ぶとは思えない。
命を狙われることを恐れたのではない。
では何故私は此処にこうして愛剣を前に佇んでいるのか…。
考えた時、私の脳裏をよぎったのは、彼のロゼの瞳だった。

彼はまだ…まだ解放されないのか。

エインフェリアからではない。
生前から彼を囚え離さないもの。
言葉を交わしたのはたったの一度きり。
剣を交えるにあたり、互いの名を名乗ったその時のみ。
だから彼を囚え続けるものの名を彼の口から聞いたことはもちろんない。
だが私は彼の目を見た瞬間に気づいたのだ。
黒刃のアドニス。
彼を囚え離さない、黒い凶鳥。

死を呼び、死を招き、死を召す黒い凶鳥。
殺す、殺せ、殺し尽くせ、そして殺してみせろと啼き喚く凶鳥。

「行かなければ…」

私はロゼの瞳を思い出しながら、愛剣に手を伸ばした。

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