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白駒

続き 途中まで読み返してない。

うなるような風、たたきつける雨、そしてひっきりなしに雷が落ちるような日…そんな日をパルディアでは“竜の日”と呼んでいる。
こんな日には「竜が怒っている」とか「竜が暴れている」などといって、ほとんどのものは家の中でじっとしており、また子供たちも小さな頃から「悪い子は竜に飲み込まれてしまう」などと教えられているため、そんな日には誰もがおとなしくいい子にして嵐がおさまるのを待って過ごす。

 *

夜半、セルヴィアが目を覚ましたのは窓に打ち付ける雨の音のせいだった。
「嵐…」
ぽつりと呟き、ベッドの上から手を伸ばしてカーテンをめくったその瞬間、カッと空が光ったかと思うと爆弾が落ちたかのようなすごい音がした。
「わぁ」
思わず声が出た。
時折光る雷。
白い雨粒が風に流され、まるで白波のようだ。
「これは…随分と竜の機嫌が悪そうだ」
今にも折れそうなほどにしなる大木。この嵐は長くなりそうだ。
そうしてしばらく外を見ていたセルヴィアは、ふとあの竜眼の王子は大丈夫だろうかと思った。
もちろん彼は強い男であるし、大丈夫でないわけがない。
シーツにくるまって震えている…なんて想像するのも難しい。
だけれど、彼に思いを寄せるセルヴィアとしては、一度気になるといてもたってもいられなくなった。
「万が一、億が一…」
ほんの少しでも、彼が嵐を苦手としていて、そして眠れぬままに起きているとしたならば…ここで訪ねて行かないわけにはいかない。
99.999パーセントは、なにをしに来た…と言われるとしても、それで諦めるくらいならもうとっくに諦めている。
セルヴィアは、よしと決めるとそそくさと夜着を脱ぎ去り、アルムを訪ねるために支度を始めた。



警備兵たちの目を姿隠しの法術で誤魔化し、セルヴィアはアルムの宮に急いだ。
屋根のついた渡り廊下や回廊は、普通の雨ならば濡れることを防いでくれるがさすがに今日の嵐ではほとんど意味をなさなかった。
下半分をびっしゃりと塗らしたセルヴィアはうんざりとしながら歩き、そしてひっそりと静まり返ったアルムの宮につくと眉を潜めた。
普段から人の少ない宮ではあるが…まったく警備のものの姿が見えぬというのはおかしな話だ。
ひどく怖れられ嫌われているとしても、彼は王子…第一継承権の保持者であるのに。
不審に思いながら、宮の扉に手をかけたセルヴィアはその瞬間に走った電気に驚き手をひいた。
「な…」
静電気…?
いや、違う。
彼が目を凝らして扉を見つめると、扉が電気を帯びて時折青白い光を飛ばしているのが見えた。
「これは…?」
なんだ…?
横を向いて、雨に霞む建物を目を細めてみると…建物全体がぼんやりと青白く光っている事に気づいた。
この荒天…、相次ぐ落雷のせいかとも思ったが、どうやらそうではない。
セルヴィアの目が厳しく細められる。
建物全体が魔力に覆われている…?
「アルム…様?」
いや、それ以外に考えられる要因はない。
尋常な事態ではないと判断したセルヴィアは耐魔力増強の防御法術を唱えると、バチバチと時折音を立てているノブに手を置いた。
屋敷の中はひどい有様だった。
廊下の端に置かれていた棚は倒れ、その上に置かれていた花瓶は無残に砕け散っている。
灯りは一切無いにもかかわらず、やはり全体的に青白く光っており、時折天井から床、床から天井へと細い雷のようなものが落ち(のぼり?)まるで朽ちた…魔物たちが跋扈する古城のような有様だ。
「これは…ひどいな」
それに…一歩進むごとに気温が落ちてるような気がする…。
背筋を撫で上げられるような不快感にセルヴィアは口を曲げた。
「全くアルム様は…」
これ以上は此処に留まりたくないという欲求が強く沸くのをセルヴィアは感じる。
この先には自分にとって良くないものがある。危険だ。さっさときびすを返せ…そう、自分の本能がささやいているのをセルヴィアは感じる。
だが、それでも行かねばならないと彼はまっすぐに歩みをすすめる。
帯電した室内、進むにつれてそれは少しずつ強くなり、プラズマが彼自身の身体にも落ちた。
耐魔力増強の防御法術のおかげで、それは彼の身体を傷つけるには至らなかったが、アルムの部屋に近づいた時に落ちたひときわ大きな落雷には、彼も顔をしかめ肩のあたりに手をあてた。
そして立ち止まったのは、これまで何度も訪れたことのある…しかし、一度として入室を許可されたことのないアルムの自室だ。
セルヴィアの予測通り…というか他に原因は考えられないので当たり前だが…中は一層濃い魔力で満たされているようである。
セルヴィアは耐魔力増強の防御法術を重ねがけすると、すっと息を吸い込み、普通の人間ならば触れただけでショック死しそうな扉に拳を打ち付けた。
「アルム様、起きてますか?セルヴィアです」
声を張り上げるが返事はない。しかしこれは予想されていたことだ。
「貴方の愛しい愛しい恋人のセルヴィアですよ。返事がないってことはいいってことですよね」
入りますよー。
不真面目な事を口では言いつつも、真剣そのものの表情で慎重にノブに触れる。っと、その途端、身体を走った電気に彼は「うっ」と小さくうめいた。
それでも手を離すことはせず、ゆっくりとそれを回して中に入る。
先程も言ったとおり、彼はこれまでアルムの部屋に入ったことは一度としてない。本来であれば物珍しく大量の本の収められた本棚だとか、調度品だとかを見回したところだろうが今はその余裕はない。
軽く部屋を見渡して寝室の位置を確かめると、ビリビリと身体を走る不快感に眉をひそめながらまっすぐにそちらに足を伸ばした。
そして…
「アルム様…」
ベッドの上、シーツにくるまったアルムを見て息を飲んだ。
アルムは眠っているのか、誰もが恐れるような竜眼は今は閉じられている。だがその様子はかなり苦しそうだ。
ぎゅっとシーツを握りしめた手、びっしりと掻いた汗、眉間に寄せられた皺、小刻みに震える身体。そしてその身体からは絶えず攻撃的な魔力があふれでている。
「アルム様…なんてことを…」
荒れ狂う魔力。それは人間がどれほど努力したところで持ちうるようなものではない。
底なしの魔力とはまさにこのこと…。それは泉の如くこんこんと彼の身体の中から湧き出て、アルムという身体の器を溢れでている。
恐ろしい光景にセルヴィアは一瞬思考が空白になった。
だが…このままでは、アルムの身体こそが危ないと気づくと、さっと彼の傍に膝まずき慎重にアルムの手に手を伸ばした。
手が触れるか触れないかのところで、彼は手に痛みを感じた。
しかしそれを無視して手を掴む…と…
「うぅ…ッッ!!!!」
魔力の奔流がセルヴィアの中に容赦なく入ってくる。
そしてそれでセルヴィアは、今まさにアルムという器が決壊の狭間にいた事を知ったのだ。
恐ろしいエネルギー。
セルヴィアは息がつまりそうだった。
セルヴィアは竜眼を持つアルムほどではないが、それでも魔力の容量は大きいはずだった。しかしそれも、アルムから溢れ出したものをすべて受け取る余裕はない。
それはすぐにいっぱいになって、セルヴィアは内側から食い破ろうとするような恐ろしい魔力を感じた。
彼は喉の奥で唸ると、アルムの手をつかんでいない右手をゆっくりと窓の方に上げた。
外は竜の日にふさわしく…アルムの内情を映し出すかのように荒れ狂っている。
「すみませんが…他に手段が思い浮かびません」
苦しげに言うと、彼はほとんど魔力の調整もせず…いや、出来ずに内に溜まった魔力を解放するために術を放った。

 *

翌朝。

うっすらと目を開けたアルムは、ハッと身体を起こすと窓の外を見た。
無残に壊れた窓の向こうは曇っており、小雨がまだぱらついていたが雷は通り過ぎたようだった。
彼はほうっと息をつき、自分の身体を見下ろして怪我が無いことを確かめると首を傾げた。
竜の日…。
年に一か二度ほど、ひどく天候の荒れる日には自分でも魔力をコントロールすることが出来ずに、彼は自分の周辺と言わず自らの身体までもをひどく傷つけてしまい、その激痛に耐えられずに気を失ってしまうのが恒例のこととなっていた。
それなのに今朝は、傷ひとつ見当たらない。
それに目覚めの時には、いつも墓場から出てきた腐乱死体にでもなったような気分の目覚めが、今日は爽やかである。
今回の発作はさほどでもなかったのだろうか?
いや。
アルムは自分で自分の考えを否定した。
昨夜はかなりヒ同状態だった。風が吹き出した頃には、すでに魔力の奔流に流されかけており、慌てて屋敷のものを下がらせたのだ。この分では、もしかしたら明日は血の海の中で目をさますかもしれない。そんな風に思ったくらいだ。なのに…とそこまで考え、そこで自分の右手が何かに捕らわれていることに気づいた。彼は視線をそちらに流し、そして驚く。
「セル…ヴィア?」
彼の手を捉えていたのは呼んだ覚えのないセルヴィアだった。
「何故…」
彼はアルムの手を左手で握り、上半身をベッドに預ける形で眠っている。
アルムは驚き手を引こうとしたが、寝ているにもかかわらず彼は力強く、手を抜く事ができない。
反射的にカッと頭に血の登ったアルムだが、力を振るう寸前にその力を抜いた。
「……野良犬が」
何故彼が此処にいるのかはわからないが…
「余計なことを…」
自由な手をギュッと握る。
彼がアルム自身が制御出来なかった力を、外側から解放してくれたのだろう。…自分の身体を媒介として。
感謝していないといえば嘘になるが、頼んでも居ないことを勝手にやられた事に腹が立つ。それに感謝などしてみせて、セルヴィアを調子づかせるのもまた癪だ。今すぐ叩き出してやりたい…そう思わないでもないが、このまま借りを作るのも性に合わない。
どうしたものか…。
彼は眠ったセルヴィアをいつものように睨みつけたが、しばらくしても彼が目を覚ましそうにないことに気づくと、
「今だけは傍に置いてやる」
小さく舌打ちをし、楽な姿勢をとってそっと目を閉じた。

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