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紫煙に噎(むせ)ぶ

攘夷(倒幕)派に所属していた斎藤って設定
微妙

「引き抜きたい人がいるんです」

そう総司が言ったのは、そろそろ冬も深まろうという時期の事だった。
にこにこといつも以上に機嫌の良さそうな総司。俺は彼の隊服の袖に血の飛沫を見つけ、ちっと舌打ちをした。
「そんなことより斬り合いになったんだろう。先に報告だ」
「やだなぁ、それこそ“そんなことより”ですよ」
「総司!」
けじめはつけろと何度口を酸っぱくしてもちっとも話を聞きやがらねぇ。
しかも昔から一緒にいるせいか、いくら睨んでも全く堪えるってことを知らない。
「ったく、可愛くねぇガキだ」
「はは、お互い様ですよ。それでね…」
「あぁもぅわかったよ、話してみろ」
キセルを火鉢の端にカンッと小気味良く打ち付けて言うと、ますます総司は嬉しそうに笑った。
「彼ね、前から噂だけは聞いていて、僕も会ってみたいなぁと思っていたんです。それが今日、正確には昨夜出くわしてしまいましてね」
「ちょっと待て、じゃぁそれはその時の斬り合いのものか?」
「え?」
総司は自分についた飛沫には気づいていなかったようで、指をさされて「おや」と言った。
「そいつと斬り合ったのか」
「あぁ、いいえ。違いますよ。これは彼の犠牲者をあらためたときに付いたものでしょう」
「彼の犠牲者ってのはなんだよ」
「巡察の途中にね、刀の合わさる音がしたんですよ。それで慌てて向かったら三人の男が一人を囲っていましてね。いやぁ強かったなぁ、彼」
「三人をやっちまったのか」
眉間にぐっと皺を寄せる俺に総司ははいと答えた。
三人…一言に言ってしまえば少ないような気がするかもしれないが、いざ三人も一気に相手をするとなれば、それなりの腕がないと無理だ。
総司なら大丈夫だろう、だが俺なら…相手にもよるがキツいだろう。
「あっという間でしたよ」
「斬られた相手は?」
「絶命してました」
「そうじゃねぇ、まさかうちの関係者じゃぁねぇだろうなって聞いてんだ」
「いえ。三人とも貧乏臭い格好でヤクザみたいな人相で。きっと彼から金でも巻き上げようとしてたんじゃないかな」
「ふぅん」
総司は俺が興味を示したのに気づいてにやにやとしやがる。
「待てよ」
その嫌な笑みを見ながら、俺は考えた。
総司が引き抜きたい相手。
それは話を聞くに、どうやらどこぞの道場のだれそれってわけじゃぁないらしい。(道場のやつは人は殺さねぇだろう)
「噂は聞いてたって言ってたな。それで引き抜きたいってことはうちに居ない人間で…しかも相当な手練れってことだろう?……そりゃ…まさか…」
「えぇ、“あちら”さんの人斬りでね『斎藤一』っていうんですが、土方さん、ご存知ですか?」
斎藤だと?
「ご存知もなにも…」
そりゃ、倒幕に雇われているという『死神』と人々に恐れられる人斬りの名じゃないか。
俺は言葉に詰まり、茶に手を伸ばすと一口喉を鳴らして飲み込んだ。
「おま…うちの三番をやったのはそいつだろう!」
「ええ、そうですね」
仲間をやったヤツだというのにケロリといいやがる。
「おまえな…」
「だってあの人弱かったじゃないですか。あれじゃ斎藤さんにやられてなくても先は短かったでしょうね」
「……」
確かに。それは否定できない。
殺された三番組長は剣の腕はお世辞にも新撰組の幹部に相応しいとは言えなかった。
ならばなぜそんなヤツを取り立てていたかといえば一にも二にも“金”だった。
俺たちにはどうしても金が必要で、彼の持っている金が喉から手が出るほどほしかったのだ。
だから代わりに三番組長をやった。不本意だったが仕方がなかった。
「…だが、おかげで欠番が出てる」
精一杯の負け惜しみに総司が笑う。
今、うちには三番隊組長はいない。それはなかなかに大変な事態ではあるのだが、心のなかでは死んでくれてよかったと思っているのを総司は知っている。
「おい、まさかそいつに三番を任せようなんて…」
「まさかそこまでは考えていませんよ」
土方さん、先走りすぎだと笑われて、そりゃそうだと苦笑する。
三番組長の件はおいておいても、斎藤という男には何度も煮え湯を飲まされている。
「でも引き抜く価値はありますよ」
「バカを言え。お前はよかろうが、あいつに痛い目にあったやつは多い。仲間として迎え入れるなんざ無理だよ」
「そうかなぁ」
「それに、向こうが納得しねぇだろう」
思想の違いは結構厄介だ。
下手をすりゃ間諜を自ら招き入れるはめになる。
「金で雇われてるんです。向こうに義理はないでしょう」
「簡単に言うな」
死んだ男を組長に取り入れた時とは事情が違い、今は金にはそれほど困ってはいない。
単純に欲しいかといわれれば欲しい。だが…
「駄目だ」
「えー、どうしてですか!」
「何の志もない男を、金だけで新撰組が取り立てると思ってんのか?」
だとしたら説教を2時間ばかりしてやらなけりゃぁならない。そう睨みつけると、総司はプッと頬をふくらませた。
「でも、すっっごい、強いんですよ。もしかしたら僕と同じか、それ以上に」
「へぇ、そりゃそりゃ」
キセルに葉を詰めながら言うと、「土方さん!」と総司が不満そうに言った。
「ねぇ、説得だけでもしてみちゃだめですか?」
「説得出来たとしても新撰組にゃいれねぇよ」
「そんなぁ~」
「当たり前だろう」
「でも仲間にしておいたほうがいいと思うな」
「さて、それはどうかな」
「どういう意味です?」
「裏切り者は信用しないってことさ」
金で雇われたヤツなのだから、金が続く限りは裏切らないということも言える。
だが、駄目だ。
そんな奴には『誠』の文字は背負わせられない。
「今度あったら斬れよ」
フッと紫煙を浴びせかけながら言うと、総司はおもいっきり不機嫌な顔で俺をにらみ何も言わずにそっぽを向いた。
無視をするな…。
そう言ってやりたかったが、可愛げのない弟分は意固地な所がある。
俺は近い内に総司が死神を連れてやってくるような気がして、なんとも微妙な気持ちになった。

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