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ガラス越しに覗く空 04

今度は三人称にしよう。
日常的話以外の何者でもない

「へぃっくちぃ!っくしょー!」

おかしな声にハッと顔を上げた火村は、そこが自分の研究室ではない事に気づいて一瞬混乱した。
そして、目の前に顔の半分を白いマスクで隠した男を見て、此処が府警の一室であることを思い出した。
男、アリスはマスクを取るとティッシュの箱を引き寄せ、盛大に鼻を噛み、そして火村の視線に気づいた。
アリスは火村と目を合わせるとニンマリと笑う。
「なんや、やらしぃ」
「何がやらしいだよ」
「へへっ」
アリスはもう一度鼻を噛むと、マスクをもう一度つけ手元の書類に手を伸ばした。
火村はそんなアリスを見つめ、それから壁に掛けられた時計を見た。
時刻は午後の7時を過ぎ。
火村が来た時には明るかった外が、今はもう暗くなっていた。
夕飯には少し早いが、早すぎるという時間ではない。
ここで後に伸ばすと、食べる時期を逸すると感じた火村は読んでいた資料を閉じ、「アリス」と目の前の男に声をかけた。
「…」
「おい、アリス」
「ん、んん?」
「飯でも食いにいかないか?」
「飯?」
呟いた後、アリスは火村と同じように時計を見、それから右手を腹のあたりに添えた。
「ん、んー、そうやな」
アリスも火村と同じように、今を逃すと食べそこねると思ったのだろう。ボールペンを読んでいたファイルに挟み、片付けを始める。
「和食、中華、フレンチ、イタリアン、それとも流行りの韓国料理?」
「俺はなんでもいいぜ。ファーストフード意外なら」
別に火村はファーストフードが嫌いというわけではない。大学の生徒達が持ってくればつまむこともある。
だがあの安っぽく明るい店内にいる自分を想像すると、どうにも尻がむず痒くなるのだ。
「お前は何か食いたいものがあるのか?アリス」
「俺か?俺は…んー、牛テールスープ」
「牛テール?また妙なもんを…」
そう言いつつ火村は洋食店を2つピックアップした。どちらも美味いステーキを食べさせてくれるちょっと敷居の高い店だ。だが昼間にいくならまだしも、ディナー時に男二人で行くには少々勇気のいる店。火村は頭をひとつ振って候補の店を振り払った。
大体、そこまで金をかける気にはならない。
「そいつは今度ってことにして、手軽に中華ででも済ませよう」
「◯麺亭か?」
近くにある中華食堂の名前を出すアリス。
彼の顔は不満気だ。っというのも、その店が彼らの府警で働く人間の行きつけだからだ。直接足を運ばずとも、そこから出前も取ることも多い。特に、毎日の殆どを署で過ごしているらしいアリスは、全メニューをコンプリート済みだ。
それが表情からわかったのか火村は苦笑して肩を竦めた。
「わかったよ。じゃぁパスタでも食いにいくか」
火村が片付けた資料をアリスに渡しながら言うと、「決まりやね」と応えてアリスは資料を受け取った。
これは彼の仕事場から借り受けたもので、門外不出のシロモノだ。
それをアリスが火村のためにわざわざこの部屋(使われていなかった会議室)に持ってきてくれていたのだ。
「じゃぁ、返してくるから、君準備しといてな」
「了解」
部屋を出るアリスに手を上げ、火村は空になった紙のコーヒーカップを手で握りつぶしゴミ箱に入れた。

 *

二人揃って署を出ると、外は随分と冷え込んでいた。
アリスはぶるっと震えてマスクの上にマフラーをかぶせるようにした。
横に立つ火村の口からは白い息が出ている。
「どうする?」
「ん?」
「車だ。ふたりとも車だろう、別れていくか?それとも?」
「あぁ、一緒のでええやろ。君、明日は?」
「授業が入ってるよ」
拗ねたように言う火村にアリスは小さく笑った。
「残念やな。君も刑事になればよかったんに」
「馬鹿、そんな柄じゃねぇよ」
「俺よりは似合ってるきがするけどな」
「そうだな」
あっさり頷いて火村がニヤリと笑う。
目を丸くしていたアリスはそんな火村を見て目を細め、火村の肩を軽く叩いた。
「まぁええわ、ほんなら今日は俺の車に乗せてやるわ。幸せを呼ぶ、青い鳥にな」

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