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ガラス越しに覗く空 03

火村のターン
そろそろ飽きた。

普段の俺からすれば考えられないことだった。
初対面の男をボロのベンツの横に乗せ、家(マンションだが)まで送り届け、そのまま一緒に鍋をしようなんて提案にのるなんて。しかも材料がないからって一緒に仲良くスーパーに買物だ。
全く今日の俺は気がおかしいとしか思えない。
学生の頃だってやったことないのに、初対面の相手と冗談を交えてべらべらとのべつ幕無しにしゃべり、声をあげて笑う。
鍋が美味くて、そしてそれ以上にビールが美味くて。
だが…
彼の、有栖川有栖という名の男のとなりはひどく心地よく、俺は心底リラックスしていた。

きっと彼との付き合いは長くなる。

そんな予感があった。

 *

翌週、またも府警から電話があった。
全く、人口が多い都市とはいえ、よくもまぁこんなに事件が頻発するものだ。
そのお陰で研究はすすむが…だからといって手放しで喜べるわけももちろんない。
「殺人ですか?」
第一声を待たずに聞くと、電話の向こうでクククっと笑う気配がした。
「?」
声が違う?
この電話は、鮫山警部補のものだったと思ったが…。
『ははーん、有栖川刑事でしたー!』
お気楽な声に、俺は自分の肩ががくっと下がったのを感じた。
「アリ…ス?」
『せやで』
先ほどの押し殺したような笑いではなく、楽しげにクックックっと笑う声が聞こえた。
研究室に一人で居た俺は、なんとなく席を立ち窓を開けた。
冷たい風。それが心地良い。
『君の携帯聞くの忘れてたから、鮫山さんにかりたんや』
「何か用か?」
『おん。君、俺の仕事場見てみたい言うてたろ?やからどうかなぁって』
「…そりゃ嬉しいお誘いだが…部外者は入れられないって言ってなかったか?」
最初にアリスを紹介して欲しいといったのには、彼の仕事場…過去の事件の資料を置いている部屋に入れるかもしれないという下心があったからだ。
それは部外者は立入禁止だということで叶わなかった。
今はもちろんそんなものには頓着はしていないが、もちろんそれが叶うならば…嬉しい。
『それが今日はお偉いさんら、揃ってお出かけなんや。えーっと…なんや接待とかいうてたな』
「それで…」
『それで、ご招待しようかと思ってな~』
「しかし…」
見たいのは確かだ。
面白い資料もあるだろうし、過去の事件についていくつか見てみたい調書もある。
だが、だからといって…チャンスがあったといって、それをたやすく受け入れる訳にはいかない。
「マズイんじゃねぇか?……確かに見てみたいけど、俺は一般人だぜ?バレれば…」
『そやな、けど、君は大丈夫やろ』
「大丈夫って…こないだ初めて会ったばかりの相手なのにか?」
えらく信用されたものだ。
俺は呆れながら…しかし、彼の言葉はとても嬉しかった。
『なんや、一緒に鍋をつついた仲やないか』
「はっ、酒を飲み交わした仲でもあるな」
俺は携帯を肩に挟み、タバコを一本咥えた。
『そうそう、で、飲酒運転やから帰られへん先生を泊めてやった仲でもあるやん』
「それだけで信用してくれるなんて随分イージーだな」
『イージーって』
アリスは電話口で笑い転げる。
そのアリスの背後から鮫山警部補の声がきこえ、アリスが慌てたように謝る声が続いた。
『あー、スマン、火村、そろそろ切らな。ってわけで、鮫山さんに君の携帯アドレス聞いてもええ?」
「もちろんだ、後で電話入れてくれ。登録しとくから」
『分かった。それで今日やけど、君も授業とかあって忙しいと思うけど、時間があいたらいつでも来、今日は夜までいてるつもりやから』
「あぁ、わかった」
それじゃぁ…と忙しく電話を切ったアリスに思わず笑みが漏れ、そんな自分に自分で驚いた。
俺は自分でいうのもなんだが、愛想が悪くとっつきにくい人間だ。
友達になりたいとか、恋人になりたいとか…俺に近寄ってくる奴は多かったが、彼らは大抵すぐに去っていく。
俺が心を開くことをしないから…というのはわかっている。
だが開こうという気になれなかったのも本当だ。
一人で十分だった。
誰もそばに欲しくはなかった。
近づかれたくなかった。
それなのに…

「おかしなもんだな…」

今、
口元に浮かぶ笑みが抑えられない。

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