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生誕よりも近く終焉よりも深く 03

どうしても面白くない orz

魔界には昼という時間がない。
半分は夜で、そして太陽が顔を出したかと思うとそれは地平線を舐めるように水平に進み、やがてまた沈んで夜がくる。
だから魔界には青空がない。
黒と、そして空が血を流したような紅い空しかない。

 *

トントン…。

ノックの音に赤い空を見ていたルイーゼロッテはゆっくりと扉の方を振り返る。
侍女のエリザベータかと思ったが、開いた扉から姿を見せたのは褐色の肌を持った男だった。
彼はルイーゼロッテとエリザベータが滞在している城の城主で、名前をアントーニョという。
見かけ上は普通の人間と変わらないが…それは擬態であり、本当の姿は人のそれでは無いらしい。
「姫、ゴキゲンはいかがや?」
「…別に…」
にこやかに話しかけるアントーニョにルイーゼロッテはそっけなく答え、「あまりいいとは言えない…」と付け加えた。
アントーニョはそんなルイーゼロッテの態度に目を細める。
「こっちは人間の世界と空気がちゃうからな。まぁ少しずつ慣らさなな」
「そう…」
「それに、君ら旨そな匂いしてるしな」
「は…?」
不穏な言葉にルイーゼロッテが顔をひきつらせると、アントーニョは“しまった”というような顔をした後、ごまかすように笑った。
「あー、えっと、そうやなくて太陽のにおいがしてるんよ」
それは悪魔にとって憎むべきもので…、だからこそ憧れるもので…。
つまり、やはり、どうしても悪魔にとって心惹かれるものなのは間違いない。
「魔界の空気を吸って、夜を浴びて、そして魔界のものを食べて匂いを消さな」
「そうすれば魔王に会えるのか?」
「会いたいんか?」
意外だという気持ちを抑えずに目を丸くするアントーニョ。
ルイーゼロッテは、憎み切れない相手に苦く笑った。
彼がもっと嫌味な魔物ならば…憎めるような魔物なら…よかったのに。
「そうですね。いっそ早く会いたいと思います」
「“いっそ”か」
その言葉の意味に思いいたってアントーニョも微笑む。
「姫はええこやね」
ええこ。
そう言われてもなんと答えたらいいのかルイーゼロッテにはわからない。
目を彷徨わせ、結局目を伏せる彼女をアントーニョは優しく見つめ、近くの椅子を引き寄せて座った。
そして「あんなぁ」と口を開く。
「ほんまは言わんとこうと思うとったんやけど、君があんまりええ子やから教えたる」
「何を?」
それに答える前にアントーニョは懐に手を入れ、小さな袋を取り出した。
それを開くと中からハーブのクッキーが出てきた。
「美味いで」
「あ、あぁ。ありがとう」
ルイーゼロッテは席を立ち、茶を入れるべきかどうか迷ったが…自分で茶を入れたことなどない彼女は結局そのまま座ってクッキーを一口齧った。
茶を入れない…入れられない事にルイーゼロッテは少しだけ居心地の悪い思いをしたが、
「そんんでさっきの話やけどな」
アントーニョは全く気にもしていないようで、

「君の夫になる魔王は狂っとる」

唐突にとんでもないことを口にした。
「魔王が…狂っている?」
それは一体どういうことなのか。
というか、部下であるはずの彼がそんなことを軽々しく口にしていいものなのか。
それともからかっているのか。
狂っていると聞いてどういう反応をするか確かめようというのか。
ルイーゼは混乱したままアントーニョを見た。
「はは、そんな慌てんでもええよ。どうせみんな知っとることやし、姫もすぐに知ることになるんやから」
「…狂っているとは…具体的にはどういうことなんだ?」
「具体的に?具体的には…そうやな、なんて言えばいいんやろう?」
アントーニョは考えるように天井を見上げ、「あー…」と唸った。
「ギルベルト…あぁ、魔王のことやけど、ギルベルトは…夢と現をさまよっとる…いうんかなぁ」
「夢と現をさまよう?」
「そう、上手くは言えへんけど…彼は…そう、中毒起こしとるんや。それもとびきり凶悪な中毒症状や」
「何の中毒なんだ?」
「んー…魔力と血…かな」
どちらも不穏な言葉だ。
魔力と…血。
やはり魔王とは想像した通りの魔王なのだろうか。
「ぼんやりしとることが大半。でも時々恐ろしく怒っとることもあるし、機嫌がいいのか鼻歌歌っとることもある。ひどく凶暴なこともあれば、慈悲深いこともある。だけど…ここ100年ばかりはとんと正気にはもどっとらん」
だとしたら、やはり自分は殺されるということか。いや、食われるのだろうか。
気づかず上下する喉。
アントーニョはその細い喉を見つめながら、ふと彼女の幸せを思った。
顔を蒼白にさせて、それでも怯えを見せるまいと気張る健気な少女の幸せを。
だがそれに気づいた途端、アントーニョは渋い顔になってそれを否定した。
彼女は“いい子”でも、“人”であり、彼の庇護すべき範疇にはない。
彼女は利用すべき人間だ。
彼女の感情は関係ない。
彼女に打ち解けるように愛想よくしているのも、彼女を利用するためだ。
なのに…
「俺がほだされてどないすんねん」
ボソリと呟いた言葉にルイーゼロッテが不思議そうな顔をし、アントーニョは取り繕うように微笑んだ。

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