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吐きそうなぐらい甘い殺し文句

学生
火村→←アリス
題名通り甘い話を私がかけると思ったら、大間違いだ。

北白川の下宿に火村がアリスを招いた時のことだ。
招いた…といっても、火村が招待したわけじゃなく、アリスが勝手にやってきただけなのだが。

火村は音のうるさい冷蔵庫から冷えた麦茶を出すと、2つのグラスに注いだ。
大手ビールメーカーのロゴの入った簡素なグラスだ。
それをアリスの元に持っていくと、アリスは小さなちゃぶ台で原稿用紙に向かっているところだった。
窓から差し込んだ日差しが、アリスの日本人にしては薄い色素の髪をキャラメル色に染め上げている。
元々やわらかな雰囲気のある男だが、そうして日差しの中にいると、その印象が深まる。
火村は隣に腰を下ろして、ふとアリスの髪が随分と伸びている事に気づいた。
もちろん男にしては…だが、それでももう後ろの方はゴムで結んで尻尾がつくれそうな長さだ。
火村はなんとなく左手を伸ばして、項にかかった髪に触れた。

その瞬間、アリスの体がビクンと動く。

それに驚いて火村は手を引こうとしたが、すんでのところで耐える。
するとアリスは恐る恐るというようにゆっくりと火村の方を振り返り、そして自分に触れたのが確かに火村だと確かめると小さく笑ってまた視線を原稿用紙に戻した。
火村はまるで「だるまさんがころんだ」のように、アリスがこちらを見ていた間はピクリとも動かなかったが、アリスが視線をそらすとアリスの髪を指で遊びはじめた。
火村自身のものよりも柔らかく細い髪。
しばらく遊んでいると、「そうや」と原稿用紙に目を落としたままアリスが口を開いた。

「知っとった?俺、人に触られるの、あんますきやないねん」

それはつまり、触るな…と言っているのか?
それとも?
火村はアリスの髪をいじる手を止めてしばし考え、“それとも” の方を採用することにした。
勝算があるわけじゃない。
別に外れていても構わない。
ただ、正直に言うと、火村はそちらで有って欲しいと思ったのだ。

「知ってたか?俺は本当は人に触れるのが、好きじゃないんだ」

慎重に言葉を選んで告げた火村。
アリスは横顔のまま少し考える。
アリスはどうとるだろうか。
アリスが考えている間、火村も思考を巡らせていた。
人に触れる俺が触れてやっているのだから余計な事はいうな?
普通はそちらを考えるだろうなと火村は思う。
だけど…と火村が考えた時、アリスが笑いを噛み殺すように唇を引き結んだ。
殺しきれなかった笑みの欠片。
火村はそれを見つけてひっそりと笑い、アリスの髪の一房をツンと引っ張った。

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