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夜の呼吸

大学生? 現代パラ
独ロマ 思ったより面白くなかった。 つまんないです。
バターンッ!!

激しく扉が閉じられる音で、ベッドに横になって眠っていた俺はハッと目を覚ました。

『おい!ちょっと待てよ!!』
『もういいって言ってるでしょ!あんたなんかもう知らないわよバカ!!』
『だからアレは勘違いだって…!』
『何が勘違いよ!まさかとは思ってたけどやっぱり浮気してたんじゃない!』

安アパートの部屋の外、廊下から激しくやりあう男女の声が聞こえる。
痴話喧嘩?
何だよ、こんな時間に。
明々と電気を着けたまま寝入っていたらしい俺は、掛け時計を仰ぎ見て、
「10時半…?」
思ったよりも遅い時間ではないことに気づいた。
まぁだからといって大声で痴話喧嘩するような時間でも無いが。

『じゃぁ、メールの優理花って誰よ!』
『だからそれは違うって!それはバイトの先輩で…』
『なんでバイト先輩と1日何十通もメールしなきゃいけないわけ?!おかしいじゃない!』

修羅場ってら。
壁が薄いから筒抜け。
だけど人の喧嘩を出歯亀するような趣味はない俺は、テレビをつけて携帯を引き寄せた。
テレビは近頃どんどんつまらなくなっていくバラエティー番組。
携帯にはメールが二通。
一つはアントーニョからで、『めっちゃうけるんやけど』と可笑しな形の大根の写真が添付されていた。
それには何も返さず(アントーニョからのメールは五通に一通返信すればいいほうだ)もう一通の方を見ると、ルートヴィヒからだった。
ルートヴィヒ。
その名前を見た途端、顔が渋くなるのは仕方がないと思う。
なんたってルートヴィヒとは昨日喧嘩をしたばかりなのだ。
原因は彼の指導教授が学会に出ることによるその準備の手伝いや何やで、1ヶ月近くほとんど会えなかった事にある。
彼が教授にことのほか気に入られていて、頼りにされていたのは知っているし、彼が寝る間も惜しんで尽くしているのだって知っていた。
だけど知っている事と、理解できる事、そして感情は上手く連動してくれない。
それでも俺は耐えた。
本当によく耐えた。
そりゃ憂さ晴らしに合コンには出掛けたけど、お持ち帰りなんて一度もしなかったし、女の子に誘われてお茶くらいはしたけどそれ以上は一度もない。
俺だってやれば出来るんだ。
いつもフラフラしてるわけじゃない。大人になったんだ。
これでも本気…だし、ちゃんとあいつの事だって考えてる。
だから学会とやらが終わったら、かまってかまってかまい倒して貰おう。たっぷり埋め合わせをしてもらおう…そう思って我慢してた。
我慢してたのに。
一昨日。
ようやく彼と会えると思ったら、ルートヴィヒのヤツは教授を加えた学部の奴等と『打ち上げ』だから会えない…と。
俺がどれだけ落胆したか…。
だけどまだ俺は耐えた。
あと1日くらいはって思った。
何か高いもの買って貰って、高い食事させてもらってそれで矛を収めてやろうと思った。
思ったのに。
昨日。
待ち合わせの場所で、彼は可愛い女の子と話していた。
その女の子は大学の知り合いでたまたま出会ったらしくすぐに別れたのだが…、俺はもうダメだった。
身体中の血がサーッと引いていって、それから沸騰した。
俺は我慢してたのに…ずっとずっと遊びもせず(?)我慢してたのに!ずっと会いたかったのに…!!!お前は…ッ…と、これ以上の説明は不要だろう。
それで俺は怒って、で、喧嘩別れ。
俺はルートヴィヒの名前を見ながら一気にそこまでを回想し、それから泣きたくなった。
わかってたんだ。
わかってたんだ…だけど…寂しかったんだ。
メールを開くと、『明日会えないか?』と一言だけ書かれていた。
それだけ?
と思ったけれど、他に彼からの着信が15件も入っていたので、なんだかむずむずした。
どうしよう。
なんて返そう。
俺が悪かったのはわかってる。
馬鹿な喧嘩をした。
だけどこの期に及んでも俺は素直になれない。
せっかく久しぶりにあえて、いちゃいちゃ…はしねぇけど、いろいろ喋ったりできると思っていたのに…。
完全な勘違い…というか、八つ当たりでそれを自ら台なしにしてしまうなんて…本当、自分で自分がアホだと思う。
なんであとちょっと、あとちょっと我慢出来なかったんだろう。
なんで弁解の予知すら与えず、怒鳴りつけるしか出来なかったんだろう。
ぐちぐちと考えていた俺は、

『おい、待てよ!!!!』

ひときわ大きく響いた廊下からの男の声にビクッとなった。
なんだ?どうなったんだ?
思わず玄関の方に目を向けると、『待てって!おい!』という男の声と共に、二人がカンカンカンっと階段を降りる気配がした。
アパートを出たら左手が住宅街、そして右手が駅への道だ。
おそらく駅に向かう…そう思った俺は、思わず窓に飛びついて外を窺った。
すると案の定、さきほど喧嘩していたらしい女が飛び出てきて、そのすぐ後を男がおいかけた。
男は女の腕を掴むと、二人はまた言い争いを始める。
ここからでは距離が離れすぎていて話の内容まではわからない。
だけど、先ほどと様子が少し違って、男のほうも激昂している様子だ。
これは…ちょっとマズいかもしれない。
俺は先ほどまでグジグジ考えていたのを忘れて焦った。
先ほどちらっと聞いた限りじゃ、どう考えても男のほうが悪かった。
なのに…逆切れ?
もしかして女の子は暴力を振るわれるんじゃないか?
俺は持っていた携帯を握りしめた。
どうしよう、どうしよう…。
警察に電話…?
それとも俺が止めに言ったほうが…?
ドキドキとして、手に汗が浮かんだ…。
その瞬間、男が動いた。

「あ、………あ?」

俺は男が女を殴ると思っていた。
なのに…実際には…男は女を両手に抱きしめていた。
驚いたのは俺だけでもなかったようで、女も硬直させたように動かなくなった。
そして…

「なんだよ…」

どういうやり取りがあったのかは此処からではわからないが…しばらくして女が男の背に腕を回したのは…見えた。
男が上手く誤魔化したのか、それとも本当に誤解だったのかはわからない。
だけど、二人は先程の剣幕は何処へやら…すっかりバカップルになってしまっている。
いちゃいちゃくっついて…

「なんだよそれ」

俺は気が抜けると同時に、腹立たしく…そして虚しくなった。
「なんだよ」
なんで…。
バカップルがイチャイチャしだしたのを見て、ものすごくムカムカした。
なんで名前もしらないバカップルに乱されなきゃいけねぇーんだ…。
なんで人のらぶらぶを見せつけられなきゃいけねーんだ。
なんで俺は…今、一人なんだ…。
俺は握りしめたままだった携帯を開き、おもむろに指を動かした。

「今すぐ、会いに来いよ、コノヤロウ」

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