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不変世界の法則

上と同じ世界観

ダーツ(矢)を持ち、ゆらゆらと水平に手首をしならせていたギルベルトは、次の瞬間に手首のスナップを利かせそれを放った。
わずかに弧を描いて的に飛んだそれは、グラビアアイドルの慎ましやかなへそへと吸い込まれる。
ダンっという音に気づいて顔を上げたルートヴィヒは「兄さん」とたしなめるようにギルベルトを呼び、ギルベルトはたしなめられたにも関わらず嬉しそうな…とろけるような笑みを見せた。
それは見るものによっては、生きた心地のしないような笑みだったが、実際に向けられたルートヴィヒとしては慣れたものですぐにふいと視線を外してしまった。
そんな弟につまらなそうに唇を尖らせたギルベルトは、ちょうど部屋に入ってきたところのフランシスに目を移した。
フランシスの手元には白いケーキの箱が携えられている。
フランシスはギルベルトの目が自分の持っている箱に釘付けになっていることに気づくと、小さく笑って「駅前のアマンドっていうケーキ屋の」といって低いテーブルの上にそれをおいた。
「おぉ」っと一つ歓声を上げ、ギルベルトは箱を乱暴に開けた。
近頃まで強制的に甘いものを断たれていた彼は、フルーツがふんだんに乗ったタルトを手づかみで貪る。
「兄さん!フォークくらい使ったらどうだ」
「う、うっめー。ルッツの作ったクーヘンには負けるけど、コレなかなかイケるぜ!」
「…すまないな、フランシス」
「ん?いやいや。本当は俺が焼いても良かったんだけどね、時間がなくてさ」
そう言いながらフランシスは手を伸ばし、ギルベルトの抱え込む箱の中からチョコレートのケーキをひとつとるとルートヴィヒに渡した。
「持っといて。すぐに皿とフォークとってくるから」
先にケーキをひとつ持たせたのは、ギルベルトに手を付けられることを恐れたからだろう。
ルートヴィヒは苦笑し、そして美味そうにケーキを頬張る兄を出来の悪い子供を見る保護者のような目で見つめた。

 *

「なんだ、アントーニョのやつ、いないのか」

意地汚く弟のケーキをねだるギルベルト。
そんなギルベルトに嫌な顔をしつつもフォークで一口を口に運んでやるルートヴィヒ。
なんなのこいつら…と呆れながら、フランシスは「うん」と返事をした。
「仕事でね」
「ふーん、久しぶりに騒ぎたかったんだけどな」
あ、これも美味い。と付け加えるギルベルトは、行儀悪く指を舐める。
「ま、俺にはルッツがいるから別にいいか」
「はいはい、お前がルッツ大好きなのはわかったから…」
「てめぇはルッツって呼ぶんじゃねぇ!」
「あー…はいはい」
ダンっとテーブルを殴りつけ本気で怒るギルベルトに、フランシスは降参と手を上げた。
ギルベルトは筋金入りのブラコンだ。
気の知れたフランシスだからこの程度だが、知らぬものならルートヴィヒの名前を呼んだだけで…下手すればルートヴィヒの姿を目に入れただけ拳が飛んでくる可能性もある。
「とにかく…そう遊んでもいられないって話」
「仕事か?」
フランシスの話に反応を返したのはルートヴィヒで、彼は少しばかり渋い表情をした。
「だが…兄さんは近頃出所したばかりで…」
「あー…大丈夫。そんな派手な仕事じゃないし…ってか、出来ればルートヴィヒにも手伝って欲しいかな~なんて?」
「俺がか?」
「そう。“上司”の甥っ子がね、夏休みでこっちにきてるんだよ。その世話しなきゃいけないわけ。いつもは俺とアントーニョがやるんだけどさ、アントーニョは今は出張中だから…」
ギルは何度か顔をあわせたことがあるだろう?と聞かれ、ギルベルトは「あぁあのガキどもか」と呟いた。
「何人もいるのか?」
「二人兄弟。上司が後継者として育てたいらしいよ」
「ほぅ」
驚きを示すルートヴィヒ。フランシスは「向いてないっぽぃんだけどね」と言った。
「まぁそれでもひと通りの仕事とか、護身術とか教えなきゃいけないわけよ。でもギルベルトには教育なんて無理だろ?だからさ…」
「おい、フランシス、ルッツをここまで立派に育ててきたのは誰だと思ってんだよ」
「はいはい、それはお前の功績っていうより、ルートヴィヒが優秀だったからだろう?」
フランシスの言葉にギルベルトは怒るべきかどうかを一瞬考えたようだったが、結局弟が褒められたことで気をよくすることにしたらしい。
「当たり前だ。俺のルッツだからな」
からっぽになったケーキの箱を乱暴にたたむと、彼はそれをゴミ箱へとねじ込んだ。
「っていうわけで…どう?」
「俺は…構わんが…俺はなんの役にもたたんと思うぞ?」
「んなことねぇ!俺様のルッツは…」
「わかってるからギルちゃん少し黙っててね」
イチイチ話しの腰を折るギルベルトに少々イラっとしたのか、フランシスはどこからか取り出した大きなキャンディをギルベルトの口に突っ込んだ。
ギルベルトはしばらくモゴモゴ言っていたが、ルートヴィヒに微笑みかけられるとニヘラっと笑って静かになった。
「それで…あー…なんだったか?」
「あぁ、そうそう。仕事の話ね。確かにルートヴィヒはまだ学生の立場で俺たちの仕事には手を出していない。でもそのうち俺たちの仕事もやるようになるだろう?だからさ、ルートヴィヒのためにもいい機会だと思うんだよね」
「俺のためにも?」
「あぁ…。その気を悪くしないで聞いて欲しいんだが、ルートヴィヒは多分…将来は、普通の弁護士事務所なんかじゃなくて…その、俺たちの専属の法律専門家になるんだと思う」
「…あぁ、そうだな」
ギルベルトとルートヴィヒは孤児だ。
何も持たず路地で腹をすかせているしかなかった二人を拾い上げ、食べ物を与え、寝る場所を与え、金をかけて教育してくれたのはこの組織の人間だ。
ギルベルトはその恩義をへとも思っておらず…むしろ当然だと思っているフシがあるがルートヴィヒは違う。
彼は義理堅い人間だ。
いつかは返さなければいけない借りだと強く感じている。
たとえそれが社会正義に反することになろうと…だ。
組織もそれを知っていて、ギルベルトには殊更奔放にさせている所がある。
組織にとってはただの暴力装置であうギルベルトよりもルートヴィヒのほうが使い勝手があり、それを期待しているのだ。
「そうだな、そろそろ俺は俺の価値を示さなければ…」
決意を込めたように言うルートヴィヒにフランシスは少しだけ気の毒がるような視線を向けたが、それもすぐにいつもの笑顔に取って代わる。
フランシスだって初戦は同じ穴のムジナ。二人と似たような境遇なのだ。同情するべき立場にはない。
「うん…じゃぁ明日からだけど、ルートヴィヒの勉強にもなると思うし…」
「あぁ…参加させてもらう」
二人の会話をギルベルトは飴を口の中で転がしながら聞き、何も言わずに天井を見上げた。

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