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鳥の子色

過去あったかもしれないし、なかったかもしれない話。
もう…読み返さなくていいよね…。

その日、ロマーノはフランスにいた。
スペインが悪友であるフランスに会いに行くというのでくっついてきたのだ。
彼の見た目は現在15歳ほど。
子供というには成長しており、しかし大人というほどには成長していない青葉のような青年の姿をしている。
彼はフランスの人間はおしゃれで垢抜けている。美人も多いと聞いていて期待していた。
だが実際に見たフランスの女は香水臭くて、気取っていて気位が高くて…どうにもロマーノの好みからは外れており、いつものように気軽に声をかけることができない。
とんだ外れだ。
自分のヘタレっぷりをよそにおいてふてくされたロマーノは、どこからともなく大粒のトマトを取り出すとガブリとかぶりついた。
天気は上々、気温も上々。小春日和の過ごしやすい秋の日だ。
通りを冷やかしながら歩いていたロマーノは、橋の上で欄干にもたれかかりしばし休憩をすることにした。
その時に彼はふと向かいの欄干にまだ幼い少年がいるのに気づいた。
その少年は大体五歳くらいだろうか。
白いシャツに吊りの短ズボン。白い靴下をはいていた。
輝くばかりの金色の髪をパサパサと揺らしてしきりに左右を確認している。
歩き出そうか、それともとどまろうかとまよっているらしい足は肩幅に開かれており、内心の不安を映して両手は胸元で軽く拳を握っている。
一目で迷子だとわかる。
それは回りの大人たちも気づいているようで、しきりに子供を気にはしている。
だが、これがフランスのしきたりとでもいうのだろうか。
大人たちは子供が助けを求めるまでは…と、内心はらはらとしながらも静観を決めているらしい。
ロマーノもそれを習って、彼からは視線を外し無視を決め込んだ。
しかし視界の隅にちらちらと映る子供はそう簡単には無視できない。
彼は子供があまりすきではない。いや、いってしまえば嫌いだ。だが迷子の子供を無視して遊びに出掛けるほどには人は悪くない。
ロマーノは盛大に顔をしかめしばらく迷ったのちに、食べていたトマトのへたを川へと捨てて欄干から背中を離した。


「おいお前、迷子か」

ロマーノの第一声は、とても一人で心細くなっている子供にかけるような物言いではなかった。どちらかというと、やってはいけない見本のような話しかけ方だった。
そんな声を掛けられた子供は、案の定びくんと体を震わせて、こわごわとロマーノを見上げた。
空を映したような青い瞳が水分をたっぷりと含んで揺れている。
そんな捨てられた子犬のような目で見つめられロマーノは心がジリジリとした。
それが庇護欲を刺激されたのだということをしらないロマーノは苛立ったような表情をして、「迷子かってきいてるんだよッ」と聞いた。
聞かれた子供は怒られたと思ったのか、顔をくしゃっと歪め「違う!」と言った。
「ま、迷子じゃない!」
子供の剣幕にロマーノは驚き、先ほどまでの苛立ちが少しだけ削げた。
「迷子じゃないか」
「迷子じゃない!俺は迷子じゃない!」
「でも迷子だろ?」
「ち、ちがう!兄さんとはぐれただけだ!」
「それを世間じゃ迷子っていうんだぜ」
ふんっと鼻を鳴らすと、それが馬鹿にしたように聞こえたのだろう。ますます子供の顔が歪んだ。
「ち、違う!俺は迷子じゃない!迷子じゃないったら!」
癇癪を起こす子供に「あぁあぁわかったよ」と適当に返事をして、まいったな…とロマーノは頭を掻いた。そしてちらりと子供を見ると、ぐしぐしと服の袖で目の辺りを一生懸命に拭っているところだった。
「お前、名前は?」
「…る、ルートヴィヒ」
「ルートヴィヒ?フランス人か?」
「…ちがう」
旅行者か。
ますます面倒だな…とロマーノが思っていると、ルートヴィヒと名乗った子供が、彼の方を見上げているのに気づいた。
「なんだ?」
「俺が名乗ったのだから…あなたも名乗って欲しい」
「生意気だな」
「れ、礼儀だ!」
本当に生意気なガキだ。とロマーノは思った。
だが思っただけで口には出さなかった。
もし泣き出されたらたまったものじゃないからだ。そんなことになったら面倒くさいし、手に負えないとなると自分は逃げ出しかねないと思っている。
「俺の名前はロヴィーノだ。別に覚えなくてもいいぞ」
「ロヴィーノだな。覚えた」
ロヴィーノ、ロヴィーノと何度も口の中でもごもごと言っている子供にロマーノは戸惑う。
「…お前、年寄り臭いな」
「し、失礼なことをいうな!」
今度は真っ赤になって怒る。おもしろいな…とロマーノは思った。そんなロマーノ自身、かなり直情的な所があるのだが…。
まぁとにかく涙が止まったのはいいことだとロマーノは思った。
「まぁいいや。で、お前の保護者はどこにいったんだ?」
尋ねると、彼は今度は拗ねたような顔をした。
「…わからない。俺が…ちょっと本屋の前で立ち止まった隙にいなくなってしまった」
「…何処かに行くとかいってなかったのか?」
「面白いものを見せてやるって…」
「面白いもの?」
「何かはしらないけど…」
きっと保護者はルートヴィヒを驚かせてやりたかったのだろうが…、これでは手がかりにもならない。
ムスッとロマーノがしていると、「それなら…」と先程から二人の様子を伺っていたらしい老人が話しかけてきた。
「きっと、****教会のことだろう。何でも大層有名な画家が天井画をかかれたとかで…そりゃもう見事なもんだ」
「へぇ…そんなのがあるのか」
「あぁ、五年越しの大傑作だって話だ。多分、その子の保護者はそこに連れて行きたかったんだろう」
それが子供を置いていったんじゃ、本末転倒もいいところだが…と呆れる老人にロマーノは頷き、教会への道を聞いた。
教会は橋をわたってまっすぐに進めばすぐにわかるらしい。
それなら子供ひとりでも行けるだろうとロマーノは思ったが、ルートヴィヒを見下ろすと不安そうな目が見返してきた。
その瞳になんとなくまた庇護欲といういらだちを感じながら、「いくぞ」と一言かけると彼は先に立って歩き出した。

橋をわたって通りを歩くとすぐにひろばが見えてきた。そしてその広場の向こう…噴水を挟んだ向こうには、確かに立派な教会が見えた。
「あれか…」
そうロマーノが呟いた時、
「兄さん!!!」
二歩ほど後ろを歩いていたはずの子供が声を上げた。
下を見下ろすと、子供が一心不乱に何処かへ駈け出していくところだった。
その先を見ると…白金の髪をした長身の男が振り返って「ルッツ!」と声を上げた。
どうやらあれが保護者であるらしい。
ここからでは顔は見えない…が、おそらく二十代前半くらいか。
少し歳が離れているが、この時代そんなことは別に珍しいことではない。
男は足を折って両手を開きルートヴィヒを抱きしめた。
それを見届けてロマーノは彼らから見えぬように人々の間に姿を紛らせた。
もう彼の役目は終わった。
このあと、先ほどの子供が保護者に事の次第を告げ、保護者に礼を言われる…なんて事態は御免被る。
ロマーノは足早にその場を去り、先ほどの橋のところまで戻ると速度を落とした。
橋の上には先程の老人がまだいて、ロマーノの姿を認めると「どうだった?」というような視線を投げかけてくる。
それにロマーノはひとつうなずいて見せ、また何処からとも無くよく熟れたトマトを取り出すと大きな口を開いてかぶりついた。

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