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不倶戴天

FT 魔王と元人間
かきたいとこだけかく

魔王の座について500年。
これまで我ながら真面目にやってきたものだと思っている。
毎日毎日執務室に籠り、殆ど城から出ることもなく黙々と仕事をすすめてきた。
お陰でこれまで混沌としていた魔界に秩序が生まれ、むやみに人間界にいって人を襲わずとも生きていけるだけの基盤を作ることができた。
広い魔界。全てにそれが行き届いたわけではないし、俺のやり方に反発した領主がいくつか国を立てて自治をやっているが、まぁそれはいい。
人間を食わなきゃやっていけないやつもいるし、人間界を引っ掻き回すのが好きなやつだっている。
別に俺はそれを止めやしない。
ただわざわざ火の粉をかぶる必要なく暮らせるだけの整備を進めただけだ。
これは別に人間界には手を出すなといっているわけではない。ここの所はうまく国民に伝わっていないようだが…。
まぁとにかく俺が言いたいのは、俺の仕事は一段落ついたということだ。
五百年という長い長い間、殆どが休みもとらず働いてきて、そろそろ引退してもよいはずだ。
そう決めた俺は、遺体をひとつ手に入れ入念に術を施し私と瓜二つ(姿形から魔力に至るまで)に仕上げ、子供たちの中から一人を後継者として定める旨を遺書にしたためた。
遺書には他は適当にやれとも書いて、死ぬ準備…姿を消すを整えた。
魔界を出たら、人間界、冥界、妖魔界、神界などをゆっくりと回ることにしよう。
昔…魔王になる前にはちょこちょこと遊びに行ったものだが…あれから五百年だ。
殆ど代替わりを果たし、世界も様変わりしているだろう。
多少不安が無いこともないが、楽しみの方が大きい。
私は死ぬ日を新月の夜と定め、その日を一人楽しみにしていた。



そしてその日はまもなくやってきた。
私は群青の髪と目を持つダークエルフの青年に姿を変えた。(ダークエルフを選んだのは、私の魔力の質や、彼らの長い寿命、時折魔界に入り込んでいる事等に由来する)
そうして魔力を抑え込む効果のある魔食いの指輪を指につけた。
他に愛用の魔剣や竜など未練の残るものはたくさんあったが、それらは全て城に置いて殆ど体ひとつで城を抜け出した。

城の膝元はさすがに治安がよいので、魔食いの指輪に半分以上の力を吸いとられていても一人でゆうゆうと歩いて移動できる。
街を抜け街道を歩いて近くの境界へと向かう。
境界とは世界と世界をつなぐ扉の事。
今は門兵によって守られているそれは、基本的には行き来自由だ。
では何故門兵が必要かというと、時折迷い子がやってくるからと、世界のバランスを崩しかねないものが容易に行き来されると困るからだ。
前者の場合は追い返され、そして後者(これは元魔王である私の場合も当てはまる)は要注意となり、滞在中の注意を受けたり、制限がかけられたりする。それに従わない場合はそれなりの処置を施される。
まぁしかし、これは今回の私の場合にはまったく適応されない。
私は多少ダークエルフからは逸脱するだろうが、それほど脅威のある者ではない。
あっさりと門を通り抜け…と言いたいところだったのだが、ここでひとつ問題が起きてしまった。

「魔王様」

門まであと少しというところで呼び止められたのだ。
「ジンバか。何故わかった?」
「他の誰もわからぬとも、俺にはわかります。どちらにいかれるのですか?」
厄介なやつに見つかってしまった。
答えずにいると、彼は一歩私に近づきひざまづいた。
「供をお許しください」
「ならぬと言ったら?」
「城にとってかえし、魔王様の遺体を偽物だと指摘するまで」
そういってニタリとするジンバに私はため息をつくしかない。
「まったく…何故わかったのだか…」
「供をお許しくださいますか?」
「そうするしかなかろう。ただし、一緒にゆくならば敬語と私を魔王と呼ぶのはやめてもらわねばな」
「どのようにお呼び…よべばいい?」
立ち上がりながら聞く彼に私は少し考えなければならなかった。
何しろ五百年も魔王と呼ばれ続け、母から賜った名を呼ぶものがいなかったのだ。
「魔王様?」
「魔王ではない。私は…アカシャだ」
「アカシャ様」
「アカシャでよい。それからその姿はどうにかならぬのか?魔界十将の一人がそばにいると自ずと正体がばれてしまうではないか」
そう不平をいうと、彼は自分の姿を見下ろし「それはそうですね」とパチンと指を鳴らした。
その瞬間に、彼の姿はとても懐かしいものに変わっていた。
短い黒髪に黒い目、細い体にほどよくついた筋肉…
「懐かしい姿だな、ジンバ。名前はなんと言ったか」
目を細めて尋ねると、彼は昔に名乗ったときのように不機嫌な顔で「瀬上刃」と名乗った。
「セカミジン…確かにそのような名前だったな。懐かしいものだ」
私が微笑むと、彼は苦笑した。
「俺の事もジンバではなく、ジンと呼ぶか?アカシャ」
「そうだな。それがよかろう」
一度は奪った名ではあるが、今の彼の姿にはジンバよりもジンの名がふさわしい。
私たちは一つ頷くと、境界の門へと向かった。
もちろん門兵たちは私たちに気を止めることはなく、あっさりと外へと出してくれた。

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