スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

オルタナティブ

ライドウと人修羅 ほのぼの?うっすら暗い
よみかえしてない。 だから変な気がする

近所のおばちゃんの話によると、同じく近所に住んでいる女子高生が学校をやめて結婚したのだという。
それだけなら「へー」で済む話なのだが、おばちゃんは続けて「あれは絶対、子供ができたんよ」とかいうセリフに、俺はなんだか知らないがショックを受けてしまった。

別にその女子高生が好きだったわけでもないし、今時(?)高校生で妊娠なんてのは…まぁ珍しくはあるがショックをうけるような事ではないし、この時代なら高校生で入籍なんてこともそう珍しいことではないはずなのに。
何がショックなのか理由がわからない。
…もしかしたら、俺が悪魔だってトコに理由があるのかもしれない。
だとすれば、深く考えたらダメだ。
それこそ深みにはまってしまう。
悪魔がそんなものにはまった所でどうなる…て感じでもあるけれど、俺はまだ“人”である部分を捨てられないから、そんなものに足を取られたくはない。

君子危うきに近寄らず ってね。

「さーて、今日は牛テールが手に入ったし…コリコムタンでもつくろっかなー」

俺は頭の中を洗い流して、買い物に集中することにした。

 *

俺たちが住んでいるのは、事務所入っているビルの3階だ。
買い物から帰った時には事務所は閉まっていて、鳴海さんは何処かに出かけているようだった。
ライドウは今日は珍しく学校に行っていて、部屋には猫にゃんの姿が見えない。
部屋に一人というのは別に初めてのことじゃないけれど、窓から入る斜めの夕日がやけに寂しく感じた。
今日は感傷的な日なのかもしれない。
俺は頭を振って、と夕飯の仕込みを始めることにした。

夕飯のメニューはコリコムタンと、もやしのナムル。とりあえずスープとご飯は別にしたけれど、あとでクッパにして食べてもきっとおいしいはず。もちろんコチュジャンも用意したから、ノーマルで味わった後は、ちょっと辛みを入れて楽しむつもりだ。
「よし」
出来た。
時間を見るとそろそろライドウも帰ってくる…と思ったら、本当に玄関の扉が開いた。
「ライドウ?」
台所から顔を出して玄関を見ると、案の定ライドウの姿。
靴を脱いでいたライドウはちらっと顔をあげて、「帰りました」と抑揚のない特徴的な声で言った。
「おかえり」

ところで、この家にはテレビがない。
というか全く世間一般に普及していない。
だからというか、現代(?)未来(?)を生きてきた俺としては、ライドウと二人だけの夕食はちょっとだけ静かすぎる。
ライドウは全く気にしてないようなんだけど…。
柔らかく煮込んだ牛テールを箸の先でほぐしていると、「おいしいですね」とライドウが言った。
彼は料理を褒める言葉をあまりしらないらしく、いつも“おいしい”ということしか口にしない。
だがそれでも俺には十分うれしかった。
「だろ、牛テール。牛の尻尾だよ」
「初めて食べたような気がします」
「牛テールは煮込むと味がしっかり出るし、肉もやわらかくなって美味しいんだよね」
「そうですね。今日は何かありましたか?」
「んー…午前中は掃除をして、それから鳴海さんの手伝いをして…」
離れていた日は、その日の出来事を報告するのが日課みたいなものだ。
特になんでもない一日でも、ライドウに話すって前提があると、何でもない一日の中にいくつも“話したいな”、“教えたいな” ってことが出てくるから不思議だ。
今日の場合は、おばあさんが重そうな荷物を背負って電車に乗り込もうとしていたら男子高生がよってきてそれを手伝ってあげてた事とか、道端に小さなテーブルを出して麻雀をやってたおじちゃんたちに老酒をもらってケロっとしていたら気に入られた事とか。
ライドウの反応ははっきりいってそっけないものだけれど、口元に浮かんだ笑みが俺の話を楽しんでいることを伝えてくれる。
「…それと、近所のおばちゃんが…」
“あれは絶対、子供ができたんよ”
言いかけてふと言葉が途切れた。
ライドウが箸を止めてこちらを見るのに曖昧に笑みを浮かべる。
「く…クリ」
「クリ?」
「そう、クリが…えっと、とれるんだって」
「?」
よくわからないというように首を傾げるライドウに、慌てておばちゃんの田舎には栗の木がたくさんあるのだというような話をでっちあげてしまった。
ライドウは納得してくれたようだが、俺は罪悪感たっぷりだ。
ごめんなさいおばちゃん。
心のなかで懺悔。
俺はそれを隠して笑い、適当な話をしながら内心ため息を付いた。
やはり…引っかかっているのか。
足を取られないように飛び越えたはずだったのだけれど…。
ナムルをかみながらライドウに見えないように少しだけ顔をゆがめる。
全く…。わかっていたはずなのに。
この世界は、俺の終わってしまった世界とは違う。
これからも人は生まれ、ふえていく。
赤ん坊は成長して大人になり、結婚して子を育んでいく。
永遠に続く二重螺旋。
「玲治?」
「…え、何?」
ライドウの声にハッとして顔を上げた。
「何って…どうかしましたか?」
怪訝な顔をするライドウ。それに俺は「なんでもない」と笑ってみせる。
ライドウは今度はごまかされず、少し不満そうな顔をしていたが…此処でつまずくわけにはいかない。
こんなくだらない“小石”に躓いて“混沌王”とも呼ばれた悪魔が深みにはまってしまうなんて、笑い話にもなりはしない。
「本当になんでもないよ」
そういってコチュジャンの入った小瓶を開けて、小さなスプーンにそれをとってコリコムタンの器に落とす。
「それよりさ、そろそろまた戦いに行きたいな」
白いスープを赤くかきまわしながらつぶやき、
「ストレスを解消したいんだ。思い切り」
…そうすればきっとすっきりする。
後半の言葉を口の中に残してライドウを見ると、彼は俺を推し量るような目で見ていた。
彼との付き合いは長いようで短く…そして短いようで長い。
俺はライドウを全て知っているわけじゃないし、彼もそうだろう。
だけど、同時に俺はライドウの少なくはない部分を知っていて、それは彼も同じで…つまり、見透かされている。
俺が“何か”つまずきかけていることを。
そしてそれをごまかすために戦いを欲している事を。
そうすることでしかごまかせない悪魔としての俺の浅ましさを。
しかし見透かされても俺はそれを素直に認めてやるほどお人好しな悪魔ではない。
だから俺はそしらぬふりで微笑むのだ。
「ライドウは、今日はどんなことがあったの?」

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。