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恋しい背 04

「兄ちゃん、ちゃんと仲直り出来た?」
「……コクられた」
「え、えぇええ!?」

 ※

気づいたら、俺はベッドに横になって天井をぼんやりと見上げていた。
なんか…今日は色々あった。
色々ありすぎた。
それほど容量の大きくない俺の頭はパンクする寸前だ。
何も考えられなくてボーッとしていると、バカ弟が近づいてきて俺が転がっているベッドに腰をおろした。
「電話か?」
「うん」
バカ弟はついさっきまでバスルームにこもっていた。
話すような声が漏れ聞こえていたから、電話だと言うことはわかっていた。
「ドイツか」
「…うん」
その相手も。内容まではわからないが。
俺は大きく息をつき、目の上に手首を置いた。
「知ってたのか?」
「…うん…」
「そうか」
弟は隠し事が出来ない人間だ。
わざわざ拷問になんかかけなくても、すぐになんでもぺろっと吐いちまう。
そんな弟がずっと隠し通してきたってことは…本当だって事…だよな。
「かなうはずもないって…半分以上諦めてた…し、俺ももう忘れちゃったのかなって思ってた」
「……」
あの唐突すぎる告白のあと聞いた話によると、彼女は大戦中から俺のことを思っていたらしい。
「俺は…あいつが」
「嫌い?」
「……」
嫌いだ。
嫌い…だった。
とくに大戦中は。
「兄ちゃん、尋常じゃないくらい嫌ってたよね…」
「…あぁ」
必要最低限の会話すら苦痛だった。
その姿を見るだけで嫌悪に顔が歪んだ。
記憶の中のドイツは…
「確かにさ…前は時々怖いこともあったよね。時々怒った時のプロイセンと同じ空気を背負ってて…さ」
悪魔そのもの。
あの涼しげな目で地獄を見渡す…口元に笑みすら浮かべて。
俺はいやだった。本当にいやだった。
その気持を隠したことはなかったはずだ。なのに…何故?
「あのね、ドイツ、前に兄ちゃんに助けてもらったことがあるって言ってた」
「はぁ?」
「昔さ、何かの戦場でたまたま兄ちゃんと同じ塹壕に飛び込んじゃったって」
同じ塹壕に…?そんな事…あっただろうか。
手をのけてバカ弟を見ると、ヴェネチアーノは何だかすごく楽しそうにしていた。
「その時に兄ちゃんが、“ちっ、仕方ねぇ、お前も一応女だからな”とか言って、敵を引きつけてドイツを逃がしてくれたって」
俺が敵を引きつけ…
「は、はぁ?!」
なんだそりゃっ!全く身に覚えなんかねーぞ!
つ…つか、もし仮にそれが本当だとしても、それはドイツを助けるためじゃなくて…むしろ俺だけ助かるつもりだったとしか…思えない。
「ドイツね、それがすっごく嬉しかったって言ってたよ。今までそんなことされたことなかったって。プロイセンが知ったらきっと怒るだろうけど嬉しかったって」
「はぁ?…ちょっ…」
嘘だろ。
カッと顔が熱くなって恥ずかしくてたまらない。
なんだよそれ。なんだよそれ。
俺じゃねえ!っつか、完全な勘違いじゃねぇか!
「それで恋に落ちちゃったって!」
「ばっ…ばっかじゃねぇ!」
「あはは、だよね」
ヴェネチアーノは何もかも見透かしたように笑う。
「ドイツも言ってたよ。“バカみたいだろう”って。でもね、“それでも好きなんだ”って。すっごく綺麗に微笑んでたよ」
弟の言葉にパッと浮かんできたのは、バカ弟や日本の前で見せるドイツの笑顔。
今まで何も感じなかった笑顔。目の当たりにしたわけでもないのに…想像上のものだというのに…ドキリとした。
「兄ちゃん、返事したの?」
「…してない。…っつかいらねーって言われた」
“答えはわかっている。だから何も言わないでくれ。忘れてくれて構わない。すまないな”
そう満足そうに言った。
「ドイツらしいなぁ」
弟の言葉にムッとする。
だけど何にムカついたのかはよくわからない。
「…何だよ。ドイツのやつ。勝手に言って勝手に満足しやがって」
「俺の気持ちはどうなる~って?」
弟の言葉にコクンと頷き、頷いてから何かがおかしいと首を傾げた。
すると弟はそんな俺を見て「よかった」と嬉しそうに言った。
「よかった?」
「うん。だって兄ちゃんがそこで怒ったり悩んだりするってことは、つまりちゃんと考えてくれるって事でしょ?」
ちゃんと考える?
「何を?」
ときいて間髪入れずに返ってきた「ドイツの事だよ!」という言葉に俺はひどく動揺した。
ドイツの…事?
「だって兄ちゃんってば、どうでもいい人には本当に冷たいトコあるもん。きっとね、相手がドイツじゃなくてどうでもいい人だったら、お昼に謝る為に人を追いかけたり…ううん。その前に、その人を怒らせるような事はしないよね」
「は?」
「それにどうでもいい人に告白されて“忘れていい”なんて言われたら、兄ちゃん本当にすぐ忘れちゃうじゃん」
最初の話はともかく、後半は身に覚えがあった。
告白されて返事はいらないとかって言った女の子。
告られた次の日あたりにその子を知り合いの男に紹介して、女の子に最低だと頬を張られた事があった。
他にも告られた数ヶ月後に再会して、彼氏と歩いているその子に“好きだったのに”とか軽く言って睨まれたり。
他にも何件かあるが…そのすべてにおいて俺は告白された事すら忘れていた。
多分、告白された30分後には忘れていた。
付き合ってと言われて好みなら付き合うし、別れてと言われれば引き留めることはない。だから忘れてと言われればその通りきれいさっぱり忘れる。
悩んだことは一度だってなかった。
一度だってなかった。
どうでもいい相手でそれなのだから、嫌いな相手なら尚のこと…。
なのに…なんでだ?
俺は覚えてる。
あいつの仕草、あいつの言葉、あいつの表情…。
視界に入れない、耳を傾けない、注意を向けない…それでもなお…覚えている。忘れてない。
「よくいうじゃない。好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だって」
「は?」
「ねぇ兄ちゃん」
愕然としている俺に、バカ弟が言う。
「ドイツのことはちゃんと考えてほしいな。

「忘れて、なんて嘘だよ。」

「だって忘れる忘れるって言いながらずっと忘れてないのはドイツなんだから」

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